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第61話 達也サイド<ロニー先生>

 朝は9時から執事の田中さんの講義がある。 今日は会社の沿革と歴史だった。 パソコンの音声メモに録音させてもらった。 続いて、10時からロニーさんという男性の英語の先生が来てくれた。 バークリー音楽大学でミュージカルを専攻したらしい。 ――バークリーってすごいところなのかな? 全然分からないや。 ハーフと聞いていたけど、どう見ても外人だ。 でも気さくで明るい。 「しばらく幼稚園モードで、歌って踊りながらやりましょう!」と日本語で話してくれた。 それで中学1年で習った英語ばかりを使った。 曲はきらきら星だ。本当だ、幼稚園だ! きらきら星のメロディーで、一番よく使う動詞の簡単文章のバージョンを歌いまくった。 めっちゃ楽しい!ロニーさんは、本物のミュージカル俳優なんだと思った。 声が大きくて朗々と響く。 舞台で響く声って、きっとこういうことなんだろうなあ。 俺の声の響きが足りないと言われて、発声練習もした。 すごい個人レッスンだった。 いつものボーカルレッスンとはまた全然違う。 全然幼稚園のお遊戯じゃない。 舞台練習? でもお遊戯なのかな。 事件以来、ずっと身体を動かしていなかったから、ちょっとした準備運動になった。 一緒に言葉を真似して歌って踊ってたら、あっという間に終わった。 あれ、こんなのでいいのかな? 11時半までやったら終わり。 「See you!」と気楽な感じで帰って行った。 「どうだった?」透真さんに聞かれた。 「うん、なんかすごく楽しかったし、あっという間だった。いい運動って感じ」 「そうか、じゃあ、良かった」俺も楽しくてすごく良かった。 その後は透真さんに電話がかかってきた。 お父さんが夕方、会いに来るそうだ。なんか緊張してきた。 おまけにまた電話がかかってきて、 今度は透真さんが他の部屋に行った。 なんだろう? 戻ってくると、俺を見つめて少し悲しそうな表情をした。 「どうしたの? 悪い話?」 「警察からだった。麻酔薬が中南米のもので、ちょっと危険な粗悪品だったんだって。 それで記憶障害や身体の運動機能に少し影響があるらしい」 ――ああ、身体が重い理由、ぼーっとする理由……。だからなのか。 「ふ~ん、まさにその通りだったね。 でも俺はもう平気だよ。身体も動けるしね」 少し透真さんが安心したように微笑んだ。 「それとね、叔父とオリオンの黒田社長が繋がってるらしい。 定期的に会ってるそうだよ」 透真さんが表情を曇らせた。 「そうなんだ。でもそれだけじゃ、証拠にならないもんね」 「それとね、テレビ局の監視カメラで分かったことがあって。 一人の男がずっと達也を監視していたみたいなんだ。 事件の直後、すぐに外へ出て、迎えの車で逃走した男がいる。 盗難車だったから特定は難しいけれど……共犯者がいるのは確実だ」 「へえ、やっぱりそうなんだ。オリオンの連中かな?」 「どうかな? 尻尾を掴ませないために、 その場限りの人間を雇ったのかもしれない」 何だか透真さんが失望したような表情がかわいそうだった。 それから昼食を取って、マネージャーが迎えに来たので事務所に行った。 しばらくの間のスケジュール調整の相談だった。 「達也、歌の振りを覚えてる?」と、夏樹理事。 「‥‥‥ううん」と首を振った。 「そしたら、新たに覚えればいいよ。 トレーナーには伝えておいたからね」 「はい、ありがとうございます」 「達也、身体は大丈夫なのか?」と佐々木マネージャーが心配してくれていた。 「はい、もう一人でゆっくりなら歩けます。 そうだ、さっき警察から電話があって、透真さんが受けてくれたんだけど、 麻酔薬は南米の粗悪品で、後遺症として記憶障害や運動機能に影響が出る可能性があるって……。 結構怖いものだったみたいです。……なるほどですよね?」 皆さん、絶句していた。 「達也、無理しなくていいからな。疲れたらいつでも休んでいいんだよ」 桐生社長が優しく声を掛けてくれた。 「はい。ありがとうございます」 その日はそれで帰宅した。

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