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第66話 達也サイド<チョーカーと指輪>
赤坂クリニックから帰宅した。
「お疲れになったでしょう? お茶になさいませんか?
今日はタルトタタンを焼きました」と美代さん。
待ってましたー!
リビングで庭を眺めながらお茶をいただく。
温めたタルトタタンにアイスクリームを添えた一皿は絶品だった。
「この爽やかな香りはなあに?」
「それはシナモンです。肉桂(ニッケイ)という木の皮を乾燥させて粉にしたものですよ」と美代さん。
「へえ~、そうなんだ」
肉桂というものは知らないが、このシナモンの香りは好きだな。
そこへ、うれしそうに微笑んだ透真さんがやってきた。
手には高級そうな紙袋が下げられている。
「達也にプレゼントしたいものがあるんだ」
え、宝石……? まさかね。
差し出されたのは、青いベルベットのネックレスケースだった。
蓋をそっと開けると……ええっ?
「驚いた?」
「……凄すぎ……」
黒いチョーカーの真ん中には大きなダイヤが輝き、
その両脇には少し小さめのダイヤが二個添えられていた。
眩い輝きに、なんと答えたらいいのか分からない。
「これね、真ん中は0.8カラットで、両脇は0.4カラットのダイヤだよ」
「だって凄すぎるよ。勿体ないもん」
「ダーメ。俺の達也には、ふさわしいチョーカーを付けないと合わないよ?」
「……そうなの?」
透真さんがそっと首につけてくれる。
「これはね、俺と達也だけの指紋認証でないと外せないからね。覚えていて」
「はい、分かりました」
鏡の前で、ずっとチョーカーを眺めていた。
きらきらと光って、本当にきれいだ。
「ねえ、手を貸して」
今度は手を取られた。
プラチナの幅が広めで、真ん中に青い長方形のサファイア、その周りをダイヤが囲む指輪だった。
「え……なんだか、美しすぎるよ」
「達也にふさわしいでしょう? 今度は俺にもはめてくれる?」
透真さんが左手を差し出した。
お揃いの指輪だけど、あちらは石が真ん中のサファイアだけで、男性らしくてクールな印象だ。
「裏もちゃんとふたりのイニシャルを刻印してもらったよ」
「そうなんだ」
俺は少し震える手で、透真さんの左手の薬指に指輪をはめた。
「ねえ、待って。指輪交換って、俺も自分で買わないと変だよ」
「ダーメ。これはデザインが大事だから、俺の好みで用意したかったの。
達也は気にしないで、お揃いの指輪をはめていてくれる?」
「はい……分かりました。ごめんなさい」
「謝らないの。達也、愛してるよ。一生そばにいてね」
力強く抱きしめられる。
「うん、透真さん。俺も愛してる」
ひな鳥みたいに、大きな胸に抱きしめられているのが好き。
すごくいい匂いがして、心地いい。
「さてと、外に買い物でも行こうか?」
「え、何買うの? もう全部あるよ」
「ううん。達也のバッグがない。
それに行きつけの店に行って紹介したいしね。着替えて行こう」
スタイリストが用意してくれたコーディネートに着替えて出かけた。
透真さんもカジュアルなのに、すごくおしゃれだ。
「透真さんは、自分で洋服を買ってるの?」
「ううん、スタイリストに選んでもらうんだ。
買い物に使う時間が勿体ないからね」
「じゃあ、なんで今から行くの?」
「それとこれとは別。達也を連れ回したいの。分かった?」
ふふ、ちょっと面白い。
どこへ行くんだろうと思ったら、やっぱり透真さんの好きな銀座だった。
高級そうなバッグ店を三つほど回ったけれど、
堅苦しいデザインばかりでどうも気が進まない。
「ねえ、百貨店に行ったらダメ?」
「いいよ、行こう」
百貨店の中をぐるぐる回り、ようやく若向けの、
こげ茶色の革のショルダーバッグを見つけた。
でもなぜか知らない女性たちが少しずつ付いて来た気がする。
「あれって、吉沢達也じゃない?」って声が聞こえて来た。
信じられない!俺にファンがいるの?
でも透真さんは聞こえないのか、知らん顔している。
早く決めよう。
「これじゃあダメ? 気に入ったんだけど」
「いいよ。じゃあ、お揃いの大きめのバッグも買おう。
統一感があっていいじゃない。荷物もたくさん入るでしょう?」
「う~ん、いいの? なんか贅沢な気がするもん」
「似合うんだからしょうがないでしょう? いいの」
強引な透真さんに押されて買うことになったけれど、
そんな俺たちを男性店員さんと女性店員さんが、
笑顔で見守っているのが恥ずかしくて、居心地が悪かった。
だって透真さんが甘すぎて、ほとんどベタベタなんだもん。
買い終わったら、もう女性ファンが10人以上こっちを見ていた。
勘弁してくれ。
「透真さん、もう終わったから帰りたい」
「もう? じゃあ、食事に行こうか?」
ええ……どうしよう。また高級なところかな?
俺、疲れちゃうよ。
「あのね……家がいい。美代さんのケーキが美味しいし」
「そう? ふ~ん、じゃあしょうがない。帰ろうか」
ようやく帰れることになって、心からホッとした。
外って緊張する。
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