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第70話 透真サイド<最愛の証明>
しかし、田中さんは俺の横を通る時に、小さな声で「隠し部屋」とだけ囁きすぐ奥へ消えた。
「……?」
え? なんて言った? 隠し部屋……まさか!
俺はすぐにSPを伴い、家へと急いだ。
隠し部屋の存在は、俺と執事、父、そして家政婦の美代さんしか知らない。
リビング手前の廊下にある物置の奥だ。
荷物をどけて奥の壁を押すと、中へとつながっている。
扉を開けると、そこには――。
「あ、透真さん。遅かったねえ~」
嬉しそうな笑顔の達也が立っていた!
「達也、生きていたのか? 無事だったんだね。良かった……!」
俺は達也を抱きしめ、こらえきれずにワーワーと号泣してしまった。
「どうしたの? 透真さん、俺がいないって思ったの?」と達也が不思議そうに尋ねる。
「達也、無事でよかったなあ」と父が後ろから声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます」
嗚咽が収まってから、リビングのソファに二人で座る。
しかし、いったい何がどうなっているのか……。
父も頭を抱えている。
俺だって頭が混乱したままだ。
それから10分もしないうちに、田中さんと美代さん、SP、そして警察官と刑事が部屋に入ってきた。
「え? なんで?」
呆然とする俺たちに、父が尋ねる。
「田中、どういうことなのか説明しなさい」
「ご心配をおかけしました。
この度は美代さんが良い働きをしてくれました」と田中さん。
刑事さんが代わりに説明を始めてくれた。
「実はですね、家政婦さんと田中さんからご相談を受け、犯人の目星はついていたのですが、決定的な証拠がなかったのです。
美代さんの情報で、披露パーティーで黒田が達也さんを誘拐する計画があることを知りました。
そこで、出発前の駐車場で警察官の身代わりと達也さんを入れ替えました。
達也さんには部屋に戻って隠れてもらったのです。
いわゆる『泳がせ捜査』です。
パーティーの最中、裏でまた薬を嗅がせて誘拐しようとする犯人を張っていました。
防災室の監視カメラで監視している警察官とインカムでつなげて、あとは身代わりが身に着けているGPSの両方で追跡しました。
最後は地下駐車場で犯人がマントとマスクを取った瞬間、別人だと気づいたところで、あらかじめ張り込んでいた警察官が取り押さえました。最後まで達也さんの居場所を言えなかったのは、会場内にも犯人が潜んでいるかもしれなくて、最後まで油断できませんでした。どうぞお許しください」
「……」
父と顔を見合わせる。
もう、言葉が出なかった。
「美代さんは一体どうなっていたの?」と俺が聞くと、田中さんが答える。
「美代さんは専務から『スパイをやってくれ』と持ちかけられたそうです。
それをすぐに私に教えてくれました」
「はい、そうなんです」と美代さんが続ける。
「頭に来ましたが、ここで断ったら他の人にスパイを頼むに違いないと思い……。
引き受けるふりをして、すべて田中さんに情報を流しました。
お金も貰いましたが、証拠になるのでそれもすべて田中さんに預けてあります」
「おかげで犯人一味を一網打尽にできました」と刑事さん。
「透真さん、うちの家政婦が悪事を働くわけないじゃないですか。
今回は本当によく動いてくれましたよ」と田中さんが微笑む。
もう、力が抜けてしまった。
父も天を仰いでいる。
「ええっ、そうだったの? 美代さん、田中さん。
皆さん、本当にありがとうございました。助かりました」と達也が感謝を伝える。
「達也、よかったなあ。もう心配ないよ」と俺は改めて抱きしめた。
「皆さんも、本当にありがとうございました。
寿命が10年は縮まりましたよ」と父も苦笑する。
「達也、朝からずっと隠し部屋にいたのか?」
「うん。透真さんが迎えに来るまで出ちゃ駄目だって、美代さんが言ったの。
お弁当も飲み物も、非常用のトイレもあったから、中でパソコンを見ていたよ」
「そうか。本当によかった。生きた心地がしなかったんだぞ」
「ごめんね。透真さん、せっかく夫婦になったんだもんね」
「ああ、そうだよ……」
俺は達也に今日の結果を伝えた。
「あのね、専務は逮捕され口座は凍結された。
黒田社長も逮捕され、資金を断たれたオリオン音楽事務所も破産。
関係者は全員逮捕。すべてが決着したんだよ」
「へえ、そうなんだね。でも、なんだか怖いよ。
なんでそんなに皆、狂っちゃうの?」
達也が俯いて漏らす。
「皆が皆、同じじゃないよ。でも、人の物を欲しがるとそうなるんだ。
持てる者は狙われやすい。達也も気を付けようね」
「はい。透真さんと結婚したから、余計にだよね?」
「うん、ごめんね。その通りだ」
達也がチョーカーをワイシャツから出して見せた。
「これ、やっぱりダイヤがないのにした方がいいんじゃないの? 目立つでしょう?」
「ダメ! それだけは絶対にダメだから」
すると、父がふふっと笑った。
「達也、諦めろ。それは自分の物にしたという『のろし』なんだよ。透真の好きにさせてやって」
「はい、わかりました」
父さんも、分かってるな。
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