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三 箱の中

「先生、ゲイなんですか?」  村上が、不安原声で尋ねた。 「そう言う括りでないと、安心できませんか?」  込童は鼻先で村上の後ろ首を探り当てて、唇を押し当てる。 「あっ……んっ❤︎……せんせ……っ❤︎」  音を立ててうなじにキスを繰り返して、様子を見る。村上は、やはり、逃げない。  込童は試しに薄く唇を開いて、うなじを舌先で舐め上げた。 「ひぁ……っ❤︎」  ──根っからの猫だな。  村上が、込童の腕を掴んで身を捩る。 「だめです、止めて下さい……っ❤︎」 「どうして? 気持ちよさそうな声してますよ?」 「もう……ひとりで良いって決めたんです、自分」 「無理でしょ、こんな好色な身体して」  する、と、込童は、村上の腰から手を下げて、スーツのズボンの上からフロントを擦り上げた。 「気持ちいいコト、好きでしょう貴方」  ちゅう、と、耳の後ろにキスをする。 「ぁっ……❤︎」 「僕のこと好きにならなくて良いですから、気持ちいいコトだけしませんか?」 「し、しな……ぁあっ❤︎」 「貴方。抱かれる方でしょう? 後ろ、もどかしそうですね」 「せん……せっ」  暗闇の中で、込童の触れる指と舌と、囁かれる言葉とで、村上はびくびくと身を跳ねさせる。 「しばらくしてなかったんです? ひとりでも? ……ふふ、ひとりの時は後ろでするのかな」 「駄目です、止めて下さい、ひ、人が来ます」 「スマホ、見てて下さい。あと二十分くらいかな。その前に貴方がイッてしまえばいい」 「どうしてこんなこと……」 「貴方、可愛いですね」 「……みんな、最初はそう言うんです」  気の弱い村上はスマートフォンをタップし、時間を確認する。  ──お、これは。  脈があると見た込童は、首筋にキスを繰り返しながら、村上のズボンのフロントのジッパーを下ろした。 「最初は?」 「ぁっ❤︎……さいしょ…は、みんな……そう言って、ぼくのこと構うけど、そのうち、飽きて……いつも……」 「村上さんも、ぼくって言うんだ?」 「えっ……あ、私は」 「良いですよ、嬉しいな、素のままになってくれて。村上さん、あと何分あります?」  スマホに触れると、バックライトに明るく照らし出される。 「あ、多分、十五分くらい……」 「触れても良いですか? 貴方のここ」  込童はジッパーの間からズボンの中へ手をすべりこませて、下着の柔らかな布を撫でた。  ちゅっ…ちゅ……  首筋へ懇願するようにキスを繰り返す。 「んっ❤︎……ぁっ❤︎……せ……んせ……ぃ❤︎」  村上は返答の変わりに腕を伸ばし、込童の髪をまさぐった。 「村上さん……」  込童は、すんなりとした手を下着の中に滑り込ませると、既に硬くなりつつあった熱を握り込む。 「あぁ……❤︎」  やっと芯に触れられ、村上が声を漏らした。 込童はにゅくにゅくと握り込んで擦り上げる。先端に触れれば、ぬるりと溢れた先走りの蜜が零れた。 「ぁあっん……❤︎」  村上の上げる艶っぽい声。  親指で先端に蜜を塗り拡げ、カリの裏筋を指でさする。 「今日は、前だけでイきましょうか」 「ぁ……ッ❤︎あ…………っ❤︎」 「ね、村上さん」 「もう、出…出ます、込童せんせっ…」 「ああ、この中に出していいですよ」  込童はポケットからハンカチを取り出して村上の陰茎の先端を包む。 「んぅッ……❤︎❤︎❤︎」  村上は、根元から扱き上げられ、堪らず、ハンカチの中へと射精した。 「ぁ……すみませ……先生のハンカチ……」  込童は、謝る村上に構わず陰茎を綺麗にすると、元の通り下着に納めて、ジッパーを上げる。 「立てますか?」 「あ、あ……はい」  村上が立ち上がると、込童も続けて立ち上がった。 「ここへは?」 「業務用車で来ました。大丈夫です、運転できます」 「あ……」  込童が小さく声を上げた。  エレベーター内の蛍光灯が明滅し、顔を上げて天井を見上げる込童の横顔が見える。  明滅を繰り返した照明はやがて気を取り直したかのように、くっきりと周囲を浮かび上がらせた。  眩しい。  ふたりとも目を瞬かせながら、お互いの顔を見た。  村上は、さっきまでこの男に淫らな事をされていたのかと思うと急に羞恥心がこみ上がり、耳まで赤くなる。 「村上さん?」  明るくなったエレベーターはまだ動き出す気配がない。 「あ、いえ、その……」  火照る頬に自覚のある村上は、くるりと込童に背を向けた。 「……大丈夫です」  もう一度繰り返す村上の背に、込童は言った。 「村上さん、考えておいて下さい。僕とのこと」  小さな音が、ふたりの会話を切り裂いた。  インターフォンだ。  ふたりは、はっとなる。 『お待たせしました。業者の人が今やってくれてます。電気系統がほぼ生き返ったので、こちらのモニタでもそちらが見えますよ。ああ、お二人だったんですね。それなら退屈もそうしなかったでしょう』 「はは、確かに。退屈はしなかったかな」  込童は監視カメラに向かって、爽やかに笑いかけた。  ゴウンと振動して。  二人を閉じ込めていた小さな箱は、本来の姿を取り戻した。

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