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四 ディスタンス
──すぐに返事が来るとは思わなかったが。
あれ以来、村上は込童を避け続けている。
当然の結果と言えば結果だが、込童にしてみれば予想と外れた。村上という人間を誤解していたのかも知れない。
さみしがり屋で、すぐに落ちると踏んだので、強引に出たのだが。
──気に入らないね。
院内で、こそこそと込童の様子を遠目にうかがって目が合うと踵を返した村上を見かけ、思わず舌打ちが出た。
──そちらがそういうつもりなら、こちらも考えよう?
珍しく執着している自覚はある。込童は、一度気に入ったものは絶対に手に入れる主義の持ち主だ。
すぐに電話をかけた。
村上にではない。
村上の勤務する医療機器会社の代表電話に掛けて、営業二課の課長を呼び出した。
「突然済みません……ええ、そちらで紹介して貰ったこの前の医療機器。購入することにしました。はい、院内全体で使えるよう御社を推薦します……ええ……それでですね、こちらに条件がひとつありまして……」
◉
「村上、凄いじゃないか。今月のトップだ!」
村上が外回りから戻ってデスクに着くと、営業二課の野田課長はそう言って村上の背を叩き、今週土曜の夜をあけておくよう厳命した。
「土曜、ですか?」
その日は確かに勤務が入っている週末ではある。
空けておくこと自体は別に構わないが、村上は接待が苦手で、極力外してもらえるよう頼んでいのだが。
「お前のためだぞ村上」
さっきから褒められたり励まされたり、村上にはまるで覚えがない。
「いったい何の話ですか課長」
「先ほど電話があったんだよ」
「え?」
「今月は君に傷病休暇中の職員の営業カバーに回ってもらったろう? その病院のひとつから、大口受注が入ったんだ」
「本当ですか」
「ここしばらく動きがなかったクライアントだったが……担当が変わったのが良かったんだろうな。村上、今期は成績が低迷していたが、これで盛り返せるぞ!」
──嫌な予感しかしない。
「それは、何処の……」
野田課長に病院名を告げられ、村上は目の前が真っ暗になった。
薄々そうだろうとは思ったが。
やはりその受注は込童の病院から入ったものだった。
村上の脳裏に、込童の一見ひとの良さそうな、それでいて目の奥では人を食った笑顔がよぎる。
「それ、社命ですか」
「受けないと困るのは君だろう? この契約無しでは今月の目標値ですらクリアできないじゃないか。それとも成績を出せるのか?」
「……無理です」
「決まったな。なあに、食事して呑んで、話をするぐらいだ。何も取って食われる訳じゃないし……」
──食われるんです。
と、言ってしまいたい気持ちをぐっと堪えて、村上は承知いたしました、と、野田課長に返答した。
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