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第5話 白い部屋
画面の中で行われていたおぞましい行為が終わって、「客」らしき男が帰っていく。けれどあの彼はその場に留まったままだった。
「現在コンディション確認中です。少々お待ちください」
モニタールームに同席したスタッフにそう言われて、政宗ははっと我に返る。
「え、あ、ああ……」
そんな曖昧な返事をして、政宗は再びモニターに視線を向ける。映像は終わらず、モニターの中の彼がよろよろと立ち上がっているのが映っている。
先日政宗が入ってきたのとは別のドアが開き、政宗と同じマスクを付けたスタッフが入ってくる。見ていると、先程まで客といたベッドのシーツが剥がされ、彼の身体を無表情のスタッフが拭いていく。男は大人しく口を開け、足を広げられている。
事務的にかつ迅速に行われていくその作業を、政宗は静かに見つめていた。
やがて、イヤモニに手を当てたスタッフが政宗に向き直る。
「お待たせしました、稼働可能です。オプションはどうされますか?」
「……え?」
政宗がスタッフの方に視線を向ける。一瞬の沈黙。スタッフが胸に抱えていたタブレットを操作し、政宗の方にくるりと向ける。
「スタンダード六〇分、接触範囲は制限なし。延長は一枠三〇分です。中継枠は現在公開中ですが、オーナー権限の場合自動で非公開に切り替わります。クライアントは買取で非公開化にできます。よろしければ、のちほどご利用の様子のログをお渡しもできます」
「はい……?」
なにを言っているか、意味がわからない。頭の奥が痛い。
スタッフは視線を外さない。
「ログ保存は自動。削除は追加料金ですが、今回お支払いはございません。……その他オプションの指定はございますか?」
カフェの注文みたいに言う。けれどそれよりもっと機械的な物言いに、政宗はなにを言えばいいかわからず困る。
「……部屋の、制限とかは」
スタッフが首を傾げる。
「演出内容の指定についてです」
政宗はわずかに口を開けたまま、息を吐く。それから意味を測る。けれど、具体的な想像が政宗には付かない。
「えっと……なんの、ですか」
間を置いてそう尋ねると、政宗の前でスタッフがタブレットを滑らせる。
「口調指定、強度、主導権、拘束レベルなど。バリアの使用はデフォルトですが、追加料金で解除可能です」
医療契約の延長のように、スタッフはそう言って淡々と続ける。
「バリアって……」
一拍、間が開く。スタッフが口を開きかける。その様子に、なんのことか気付いた政宗は慌てて首を振る。
「いい。とにかくそういうのはいいですから、早く案内してください」
「……かしこまりました。こちらへどうぞ」
スタッフがそう言って、モニタールームのドアを開けてくれる。逃げるように外に出ると、冷たい外の空気が流れてくる。胸いっぱいに息を吸い込む。少しだけ、呼吸が楽になった気がした。
ふと、昨日父が「好きに使え」と放った時のことを思い出す。スタッフの事務的な言葉はさらりとしていたが、父の言葉と重なった瞬間、政宗は頭を殴られたような衝撃を受けた。
スタッフの同行の元、政宗が再度ゲートに近付く。
改めて文字が目に入る。
SESSION MODE : OWNER PRIORITY
SERVICE TYPE : FULL ACCESS
STREAM STATUS : PAUSED
ARCHIVE RECORDING : ACTIVE
MONITORING : BACKEND ONLY
政宗はそれを一瞥し、それからスタッフがロックを解除した。あの白いコリドーを、政宗だけが一人で通される。
ドアが開く。
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