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第9話 契約

「AIが個別最適化された音声・映像で《癒し》を提供する、高収益サブスクサービスになっております。二十年前に完全対面型の富裕層向けサービスとして始まったNo.3は、AIの発展と配信プラットフォームの技術拡張により、配信事業へ発展しています」  モニタールームで見た《LIVE》の表示と、「中継枠は現在公開中ですが」という説明が頭の中で繋がる。  さらに画面には年間稼働率97%という数字が表示されていた。 「ダウンタイムは?」 「メンテナンス時間のみです」  ──休みの日って、なに。  男の言葉が脳裏をよぎる。  あれは本当になにも知らなかったのではなく、休みという概念そのものがなかったのだ。  政宗は画面を見つめる。その中に「医療支援費」という項目を見つけ、指を止めた。 「この医療支援って、なんです?」 「初期フェーズで発生していた関連医療費です。現在は契約条件達成に伴い終了しています」 「契約条件?」 「詳細は法務管理部の管轄になります」  法務。  契約があるなら、借金のことも、妹のことも、あの男がなぜ地下にいるのかも書かれているはずだ。 「法務の資料も見せてもらえますか」 「確認いたします」  スタッフは頷いた。 「……ちなみに、この収益って、どれぐらいなんですか」  政宗がそう聞くと、スタッフが「こちらです」と持っていたノートPCを向ける。  そこに提示された金額に、政宗は目を瞠った。  単価推移、ログ購入額、オプション利用料。他にもそのような項目がたくさんならんでいる。いずれも、ほとんどが政宗の想像のはるか上を超える。約二十年分の「No.3」の年間売上を見て、政宗は自分の年収を彼が何時間で稼いでいるのか、計算しそうになった思考を無理やり追い払った。  高収益なのは「富裕層向け医療サブスク」だからか。恐らくだから、誰も怪しまない。その歪さが、政宗の胸に妙なしこりを残した。 「失礼ですが、あなたが、これを使ったことは?」  おずおずとそう聞くと、スタッフは首を傾げる。 「こちらについては会員様向けのサービスのため、私たち社員はまだ実際に見たことはないのです。……いつか使ってみたいものです」  そう言って微笑みを浮かべる社員の無邪気な横顔は、あの白い部屋にいた、男の笑顔とは違っていた。あいつの方が歯並びが綺麗だなと、変なことを思った。そしてそんなことを考えている自分に気付いて、政宗は眉を顰めた。  手のひらが、妙に汗ばんでいた。  次いで政宗が自分の足で向かったのは、法務管理フロアだった。 「大路政宗です。No.3について、教えてください」  受付デスクに手を付いた政宗が、受付スタッフに向かってそう告げる。スタッフは少し椅子を引き、政宗と距離を取ってから言う。 「……専属契約案件No.3のことですか?」 「それです。事業承継を本気で考えたいんです。専属契約のリスク管理を理解したくて」  政宗はふたたびそれらしい言葉を口にする。もはや慣れたものだ。珍しく大胆になっている自分に、少し自信がついてきたのでは。そう思いながら待っていると、確認を法務担当は政宗を見つめ、表情を変えることなく政宗に向かって口を開いた。 「申し訳ありません、そちらは機密案件です」

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