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第2幕 第1話 ハンバーグ

 政宗は近くのファミレスで腹ごしらえをすることにする。レイはファミレスの喧騒を物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回していた。 「うるせぇな。……このボタンなんだ」 「おい待てバカッ」  レイがボタンを押す。すぐに店員がやってくる。政宗は「すみません手が当たって」と早口で言うと店員はすごすごと戻って行く。 「すげー、あれで人呼べるの。王様じゃん」 「……たしかに」  レイにメニューを見せ、選ばせた。レイはどれも食べたことがなかった。お子様ランチを頼もうとして、断られた。代わりに、ハンバーグセットを注文した。  もっと、静かだと思っていた。今しがた妹の死を知ったようには見えない。実感がないのだろうか。……調子が狂う。  ドリンクバーで、レイと一緒に飲み物を取りに行って料理を待つ。レイはコーラの炭酸にすら驚いていた。  やがてじゅうじゅうと音を立ててハンバーグセットが到着する。レイの目がきらきら輝いている。だがフォークを握る手が怪しい。政宗はテーブルの向かいからフォークとナイフをそっと預かり、レイのハンバーグを切ってみせた。 「こうして、一口大にして食べるんだよ」 「それぐらい俺にもできる」  レイが真剣な顔でフォークとナイフを構える。そしてフォークで勢いよくハンバーグを刺し、そしてナイフでギコギコと刃を入れる。政宗は不安になったが、レイが手を止める気配はない。ハンバーグが粉々になる前にどうにか制止すると、レイはようやくフォークで不器用に口に運んだ。 「あちっ!」  しかしすぐにべーと舌を出す。政宗が烏龍茶のコップをレイの前にすっと出す。 「ちゃんと冷ませ」 「どうやって」 「ふーってするんだ」  そう言うと、レイは必死で息を吹きかける。はふはふと口の中を弾ませながらなにか言っている。どうにか「美味い」と言っているのが聞き取れた。 「今までなに食べてたんだ、お前」 「ん? 効率いいやつ」  レイがそう言う。政宗は「そっか」と返して、箸を置いた。動かない政宗の手を見て、レイが不思議そうにする。 「……なんだよ、食わねぇの?」  まぶたがぴくと動く。再度箸を手に取った政宗は、自分のからあげ定食から二つほど、ハンバーグが乗った鉄板に移してやる。 「やる」 「えっいいの」 「腹、減ってない」 「……ありがと」  レイが笑った。  服屋へ入ると、政宗はラックに並んだ服を一枚ずつ見て回った。家から持ってきた服を着せてはいたものの、肩周りはぶかぶかなのに、袖の丈は微妙に足りていない。どう見ても間に合わせだ。レイのための服が必要だった。  あまり派手なものは避けようと思う。追われる可能性を考えて目立たない服を選ぶつもりだったが、結局どれを合わせても意味がない気がした。 「……美人だとなに着ても似合うのがすげぇ」 「なんだそれ」  レイは笑いながら適当にシャツを合わせている。それでもなぜかすべてがしっくり来るから余計に悩んだ。会計へ向かう途中で、ふと振り返るとレイがいなかった。慌てて探しに戻ると、レイは子ども服売り場の前で立ち止まっていた。小さな花柄のワンピースをじっと見つめている。 「レイ、どうした」  名前を呼ぶと、レイはもう一度振り返る。 「……なんでもねぇ。行こう」  なにかを振り切るように、レイは政宗の方を向き、それからにっと笑った。  次いで、政宗は駅前の携帯ショップでプリペイド式の携帯を二台契約した。レイは受け取ったスマホを表返したり裏返したりしながら、不思議そうに眺めていた。 「これで電話できんの?」 「できる」 「へぇ」  その足でATMへ向かい、政宗は口座から現金を引き出した。紙幣を財布へしまいながら、残高を頭の中で計算する。会社を辞めれば収入は止まる。この金でどこまで持つのか考えていると、隣からレイが覗き込んできた。 「金ねえの?」 「心配すんな」 「俺の髪とか、爪、売る?」  レイは本気で考えるように前髪を摘まむ。政宗は思わず顔をしかめた。 「買わねえよ、誰も」 「えー」  レイは不満そうに口を尖らせる。 「結構評判よかったぞ」  その一言で、政宗は思考が止まった。それからようやく意味を飲み下す。  髪も爪も、レイにとっては自分の身体の一部ですら商品だった。その事実を、こんな何気ない会話で思い知らされる。政宗はつい歯噛みした。 「……そういうの、売らなくていい」 「でも金ねぇんだろ?」 「いい。なんとかする」  レイは少しだけ首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。  歩きながら政宗は新しく買ったスマホを取り出し、会社名や覚えているURLを打ち込んでみる。だが表向きの企業情報しか表示されず、管理画面へ繋がる経路も認証エラーではじかれた。  もちろん「会員限定の配信サービス」なんてものも見つからない。一般回線から辿れないよう最初から作られているのだと理解する。  そこで政宗は無意識に「親父ならどう侵入する」と考えている自分に気づき、父の思考をなぞるしか発想できない自分に小さく舌打ちをして、画面を閉じた。

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