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第4幕 第1話 金の色に染め上げて
レイが鏡の前で前髪を摘まみながら、何度か首を傾げていた。
「なんか邪魔」
そう言われて改めて見ると、三か月の間に髪は肩へ届きそうなくらいまで伸びていた。前髪も目へ掛かり始めていて、本人も気になるらしい。
「切りに行くか。美容院行くぞ」
「びょういん? 俺どこも悪くねぇぞ」
聞き慣れない言葉を繰り返しながらも、レイは素直についてきた。
美容師へ事情を説明すると、カラーも勧められる。レイは鏡越しに政宗を見て、「やってみる」と笑った。
「じゃあ俺、ちょっと外いる」
「おう」
店を出ると、ちょうど見覚えのある軽自動車が駐車場へ入ってきた。政宗が家を出る前に呼んでいた相手だった。窓が開き、弘斗が顔を出す。
「お、いたいた」
車を降りるなり、弘斗は政宗へと駆けてくる。彼には事情はそれほど多くは話してはいない。それでも弘斗は政宗がなにか大きなことをやり遂げたことを、既に知っているみたいだった。
「マサ! お前、やるじゃん! よく帰ってきたな!」
弘斗はそう言って、政宗の肩をバシバシと叩いた。
「っ、いてて」
「あ、悪ぃ」
慌てて手を引っ込めた弘斗が、不安げな面持ちで政宗の顔を見る。
「怪我してんのか?」
政宗は一瞬言葉を飲み込んだ。流石に撃たれたとは言えなかった。
「まあ、ちょっとな」
曖昧に笑うと、弘斗もそれ以上は聞かなかった。代わりに政宗をじろじろ眺めてから、呆れたように笑う。
「……つかお前、なんかでかくね?」
その一言に笑いが込み上げる。
「はは」
「笑い事じゃねぇよ。前こんなガタイよかったっけ」
「暇だったから筋トレしかやることなくてさ」
「どんな生活してたらそうなんだよ」
弘斗は苦笑しながら頭を掻く。
「まあ、とにかく帰ってきてよかったわ。あいつ、ちゃんと頑張ってたぞ」
政宗は静かに頷く。
「ありがとう。本当に助かった」
「礼なんかいいよ。俺はちょっと世話焼いただけだし」
照れ隠しのように手を振る弘斗を見送ったあと、美容院へと戻った政宗は窓越しに店内を覗き込んだ。レイは美容師となにか楽しそうに話している。まだしばらく時間が掛かりそうだと判断して、政宗はその足で駅前の役所へ向かうことにした。
父の病院を出る時、財布も運転免許証も保険証も、身分を証明できるものは返されなかった。けれど政宗はそれでよかった。どうせやり直すことには変わりなかったから。
窓口で事情を説明すると、職員は申し訳なさそうに「本人確認ができるまで再発行には時間が掛かります」と頭を下げる。覚悟はしていたものの、自分が自分であることを証明するだけでこれほど手間が掛かるのかと思うと、思わず苦笑いが漏れた。それでも、政宗は落ち込んではいなかった。
そうして一通り必要な手続きを終わらせて美容院へ戻る。店に入った瞬間、政宗は思わず瞬きを二回した。
鏡の前へ座るレイの髪は、もう黒ではなかった。
光を受けた髪は柔らかな金色に染まり、溶かしたバターのような艶をまとっている。白い肌とのコントラストがあまりにも自然で、最初からその色だったようにさえ見えた。
鏡越しに政宗へ気付いたレイが、嬉しそうに立ち上がる。
「マサ! どう? 似合う?」
くるりと一回転して笑う。そして少し得意げに胸を張ってから、美容師を親指で指した。美容師は笑顔で頷いている。
「俺が決めた」
政宗はしばらく言葉が出なかった。
黒髪の頃とはまるで印象が違うのに、不思議なくらい違和感がない。むしろ、その色こそがレイの顔立ちを引き立てているように思えた。
「……似合う」
素直にそう答えると、レイは照れくさそうに笑った。
「よかった」
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