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7-2 画面の向こう側
風呂から上がると、リビングにはテレビの音に紛れて、レイがソファへ腰掛け、膝を立てたままスマートフォンを覗き込んでいた。指先は休むことなく画面の上を滑り続け、ときおりなにかを考え込むように動きが止まっては、また文字を打ち込んでいる。
政宗はタオルで髪を拭きながらその様子を横目に見た。
珍しいなと思った。
レイは普段、調べ物をするなら「これなに?」とその場で聞いてくることがほとんどで、一人で何十分もスマートフォンへ向かうことは滅多にない。SNSにも興味は薄く、動画を眺めて笑っているくらいなら見慣れた光景だったが、今日は画面へ向ける視線がどこか真剣で、なにかを書いては返事を待ち、また書いてを繰り返している。
なにを調べているんだろうと思いながら冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスへ注いで一口飲む。そのまま何気なくレイの後ろを通り過ぎようとした、その一瞬だった。
画面の中に映った黒髪の青年が目へ飛び込んできた途端、喉を通り過ぎたばかりの冷たい茶が、変なところに入りそうになった。
あの顔を見間違えるはずがない。
電車の電子広告で偶然目にした、レシピを紹介していた青年。
昨日、店で女性客が嬉しそうに見せていたバーチャルタレント。
白い部屋に確かな存在感を与える、鴉の濡羽のような黒髪。笑った目元も、口元も、柔らかな空気まで、あまりにもレイによく似ているあの男だった。
「……レイ」
名前を呼ぶと、レイがあからさまにびくっと肩を跳ねさせた。それからゆっくり振り返った顔には、ほんの一瞬だけ悪さしているのを見られた子どものような焦りが浮かんでいた。その視線が政宗とぶつかった途端、慌ててスマートフォンを胸元へ引き寄せる。
「あ、いや、その」
言葉にならないまま笑って誤魔化そうとする様子が、かえって隠したいものがあると物語っていた。政宗の胸の奥で昨日どうにか押し込めたはずの嫌な感覚が、またゆっくりと膨らみ始める。
「なにやってる」
「別に、大したことじゃ──」
「見せろ」
レイは困ったように首を横へ振り、スマートフォンを抱え込むように両手で握った。
「やめろって。ほんとなんでもねぇから」
その言い方が、政宗の焦りをさらに煽る。
なんででもないなら、なんで見せない。なぜ隠す。
「レイ」
呼び掛けてもレイは視線を逸らしたまま、小さく唇を噛んで動かない。その姿を見ているうちに、昨夜「普通にやれてた?」と尋ねた声や、RAYへ向けて無邪気に「すげぇ」と笑っていた顔が頭の中で重なり、胸の内側でなにかが音を立てて軋んだ。
「貸せ」
低く言うと同時に手を伸ばす。
「待っ──」
レイが慌てて身を引こうとしたものの、一瞬早く政宗の手がスマートフォンを掴み、そのまま力任せに引き寄せる。
「マサ!」
レイが立ち上がって手を伸ばしてくる。
その必死な声を聞きながらも、政宗は画面から目を離すことができなかった。
画面を見る。政宗の視界に、文字が飛び込んでくる。
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