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第二話 変なやつ(Side:翔)

「翔、文化祭実行委員押し付けられたんだって?大変じゃ〜ん」  夜二十一時のコンビニ前。バイクに腰掛けながら悪友数人で溜まるのが翔のルーティンだ。  翔の横からニヤニヤしながら声をかけてきたのは、翔の悪友の1人。田町 理央(たまち りおう)。同い年。  翔とは別の高校に通っていて、放課後の溜まり場で出会った、悪友だ。  大変じゃん、と言っているが、これは本気で心配しているわけではなく、どちらかというと、そんなの押し付けられるなんて馬鹿だなあという色をしている。  翔の周りに本気で翔を心配する者はいないし、翔もまた相手を本気で心配することはない。  興味がないのだ、お互いに。 「サボるに決まってんだろ」 「だよなあ、あんなの面倒くさいし、やりたいやつにやらせとけばいーんだよ」  ケラケラと笑う。  やりたいやつにやらせる、という意見には翔も同意だった。  ペアの男は真面目そうだったし、うまくやれば全部押し付けられる気がしている。 「ペアのやつが真面目そうだから、押し付けられそう」 「ふーん、いいじゃん。便利そう」  他人に対して便利と言う。  そういう軽口を叩くのが翔たちだった。  他人への興味が薄く、その感覚は悪友同士にも向いている。  全員がお互いをどうでもいいと思っている。そういう関係だった。 「あ」  妙に姿勢のいい眼鏡の男がコンビニに入っていく。  今日の会議で隣に座っていたやつだ。  名前は――忘れた。  気づいたが、声をかけることはない。  用事もなければ、特別な興味もない。  男は店内を一周すると、そのまま会計を済ませて出てきた。  ダラダラ迷わず商品を選ぶ様子は、なんとなくイメージ通りだった。  ふと顔を上げ、男は翔に気づいたらしい。  翔の周りには三、四人の悪友と、大型バイクが数台。普通の同級生だったら、見てないふりか、よくて会釈がいつもの反応だ。  しかし男は迷いなくこちらへ歩いてきて 「こんばんは。今日、委員会が同じだった品川 真一。覚えてるかな?」  と普通に声をかけてきた。  少し驚いたが、無視する理由もない。 「あー、今思い出した」  暗に忘れていたと言っている。  失礼な返答だが、翔には相手に気を遣う意味も理由もないので、思ったまま返事をしただけだ。 「うん。覚えてくれたなら嬉しい」 「あっそ」  真一も特に気にした様子はない。  普段だったら相手は嫌な顔をして、ああそう、それじゃ。と去る人も多かったから、やっぱり少し変なやつかもと真一は思った。 「なあ、翔の友達?」  横から田町がニヤニヤと口を挟む。  質問の形をしているが、友達じゃないだろ、というニュアンスが透けて見えた。  明らかに、優等生っぽい見た目と動作の真一を下に見ている感じだった。  感じが悪い。けれど翔がそれを注意する理由もなかった。 「ああ、初めまして。文化祭実行委員で同じなんだ」 「あー例のやつね」  田町は、こいつが噂の便利なやつか、とさらにニヤニヤしている。  同調を求めるように翔をチラチラ見てくる。嫌な笑い方。  それに乗るほどの興味も翔にはなかったので、さっさと真一を追い返すことにした。 「てか、なんか用?帰れば」 「うわあ、翔言い方ひで〜」  田町が囃し立てる。うるさい。  真一はそんな田町のイヤミな様子も、翔の雑な言い方にも特に動じていない様子だ。 「友達といるところにごめんな。特に用はないんだ。見かけたから、つい声をかけてしまった。もう帰るよ」  当たり前のように言う。  たぶん真一は、相手が翔だからではなく、知り合いを見かけたら声をかける。  そういう人間なのだろう。  だからこんないかにも溜まり場というところにも動じずやってきたのだろう。 「夏の夜でも冷えるから、風邪をひかないように気をつけて。それじゃあ」  そう言って真一は去っていった。  想像通りの、まっすぐな歩き方だった。  翔は適当に「あー」と返して見送る。 「真面目クンって感じだな。ダサ」  田町が後ろ姿を見ながら笑うが、翔は特に反応しなかった。  ただ、最後に言い残された  ――風邪をひかないように気をつけて  という言葉だけが少し引っかかった。  真一からしたら、誰にでも言う挨拶の一つなのだろう。  だが、相手を気遣う文化のない翔の周りでは、あまり聞かない言葉だった。  ふと視線を向けると、真一は道端に落ちていた空き缶を拾い、自販機横のゴミ箱へ捨てていた。  真面目クン。  まさにそんな感じだ。 「変なやつ」  今度のLHRでやる文化祭のクラス会議。  もちろんサボるつもりだったが、一回くらいは出てやってもいいかもな。  翔はそんなことを思った。

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