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第4話
日曜日の午前中、優は学校近くの河原を走っていた。
六月に入ったというのに、今年はまだ涼しく肌寒いくらいだった。
今日はもうこれくらいで終わろうか……。
少々疲れを感じたので、そんなふうに思っていると、優を呼ぶ声が聞こえた。
それはナナコの声。
「優くーん」
河原がよく見渡せる橋の上からナナコが優を呼んでいるのが、チラッと視界の隅に映った。
はっきりと彼女の声が聞こえているにもかかわらず、優はナナコを無視して走り続けた。
今更だよ、ナナコ。
「優くーん!」
ナナコが重ねて名前を呼んでくる。だが、優は相変わらずナナコの声に、存在に、気づかないふりを続けた。
結城先生とキスをしながら、オレともつき合い続けるつもり? ナナコ、君はしたたかで、どうしようもなく愚かな女だな。
優は黙々と走り続け、徐々に速度を落としていき、立ち止まる。
後ろを振り向くと、ナナコが声をかけてきた橋は、もうはるか遠くになっていた。
例え彼女がまだ橋の上にいたとしても、この距離だと優の姿を見つけることはできないだろう。
優はスエットのポケットからスマートホンを出し、電話をかけた。
三回目の呼び出し音が鳴る前に『彼』が電話に出る。
「あ、オレ。……うん。もう練習は終わったから迎えに来て。いつもの河原にいるから」
優はそう言うと、通話を終えた。
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