2 / 10

第2話 飲ませるな危険

 会社の飲み会というものは、好きな人は楽しそうに酒を飲み、苦手な人は早く終わらないかとグラスを置く。  亮はどちらかといえば後者だ。  しかし、今日は目の前に座る、ふわふわ髪の先輩に釘付けになっている。  営業部の飲み会は初めてだったから、知らなかった。  牧野が酔うと、こんなにもエロいということを。 「牧野ちゃん、飲んでる~?」 「はい~」  次から次へと営業部のガタイの良い人達に絡まれ、あっという間に牧野はポヤポヤとした表情を見せ、幸せそうに笑っている。  それがまた、男心をくすぐるものだから、グラスに酒が注がれていくのだ。 「おい、牧野に飲ませすぎるなよ」  部長が奥の席から注意すると、全員の返事が小学生のように「はーい」と揃った。  部長もやれやれといった顔をしながら、牧野をじっと見つめている。  亮は入り口の席から店の時計を確認し、店員よりも早く席利用時間の終了だと進言した。  二軒目いくぞーと声をあげている輪からこっそり離れた亮だが、牧野の姿が見当たらず視線を彷徨わせた。  牧野はフラフラと駅に向かって歩き出していた。  一人で帰らせるのは危ないだろうと、亮は着いて行こうとする。 「犬飼!二軒目はこっちだぞ~」 「え、あ、すいません。俺、今日はもう……」 「なんだよ~寂しいこと言うなよ~」  完全にからみ酒の主任に頭を下げて、亮は駅に向かった。  しかし、牧野を見失う。 「どこ行った?あんなにふらふらで、倒れてなきゃ良いけど……」  亮は視線を回しながら、少し遠くにふわふわの髪を見つけた。  その髪は、若い男の手に撫でられている。  瞬間的に危険を感じた亮は走り出した。  牧野と男は、ネオン輝く大人なホテルへと吸い込まれていく。 「嘘だろ?あんな酔った状態の人を誘うかよ」  亮の正義感は強く反応し、二人に追いつくと、男の手を掴み上げた。 「何してんだよ」 「なっ、なんだよお前!」 「この人に手を出すな!」  亮は学生時代、空手で培ってきた威嚇の目線を向けて相手を怯ませる。  完全に言葉を失った男は、逃げ腰で亮が掴む手を引いてきた。 「わ、るかったよ……」  亮が手を離せば、男はさっさと走って逃げていった。  ポヤポヤと一部始終を見ていた牧野の肩を掴む。  まだ何もされていないが、念のため身体中を確認するように見た。  細く長い足、細い腰、薄い胸板、首も細く、酒のせいでほんのり色付いている。  頬は薄く染まり、目はトロンと少し瞼が落ちている。  ゆらゆらと頭が揺れているから、ふわふわの髪が揺れていて、とてつもなく庇護欲をそそられた。 「亮くん、強いんだね~」  ヘラリと笑う牧野に、亮はカッと怒りが湧いた。 「牧野さんには警戒心がないんですか?!何をされてたかわかりませんよ!」 「だって~、眠たかったから~」  ポスリと亮の胸に体を預けてくる牧野を受け止め、その柔らかさに、亮は毒気を抜かれた。 「もう、送りますよ……」 「ここで良いんじゃない?」 「ダメですよ」  牧野は目の前のホテルを指差すが、亮はその手を下げさせて、タクシーの通る道まで牧野を支えていった。  本当は、ホテルに連れ込みたかったが、亮の良心はそんなずるいことは許さなかった。  亮に抱えられるように体を支えられている牧野は、何が楽しいのか、クスクスと笑いながら歩いていた。

ともだちにシェアしよう!