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第6話 牧野の営業力
新幹線の座席は結構隣と距離が近い。
全く知らない人と隣同士になるときついが、思いを寄せている人と隣同士になると、こんなにも浮き足立つものなのか。
亮の隣では、牧野がスウスウと寝息を立てている。
肩に乗っている頭の重みが心地良い。
体は密着し、牧野の手が、亮の太ももの上に乗り、そこからもジワジワと熱を感じる。
時折通路を歩く人が牧野と亮を見て驚いたような顔をするが、亮は自慢げに笑ってやった。
「ん~亮くん?ごめん、寝ちゃってた」
「大丈夫ですよ。まだ駅まで時間ありますから、寝ててください」
「うん……ちょっと、寝づらくて……」
牧野はあくびをしながら、両手を挙げて体を伸ばした。
牧野の目の前には、食べかけの菓子パンが置いてある。新幹線限定という謳い文句に嬉々として車内販売のワゴンから買ったものだ。
寝ぼけた目で、パンをちぎり、小さな口に放り込む牧野の仕草を亮はジッと目で追ってしまう。
「亮くんも食べたい?はい、アーンして」
「あっ?アーン?」
「うん。どうぞ」
パンを持ったまま眠そうに笑う牧野の顔が可愛すぎて、亮は悶えたくなるのを我慢した。
スンとした顔をして口を開けると、甘い香りと共に、牧野の指も入ってくる。
微かに、舌に指が触れた感触があって、亮は固まる。
「口閉じないと落ちちゃうよ?」
「ふっ……う……ん……」
「美味しいでしょ?」
「…………はい……」
パンを咀嚼しているが、舌先の感覚が鋭敏すぎて、食感も味もわからない。
牧野を舐めた。
それだけが亮の頭の中を占めていた。
得意先の牧場は山奥にあった。
新幹線を降りてから、レンタカーを借りて山を登っていく。
運転は牧野だ。
「あ、ここここ、ここの焼き鳥屋さん美味しいんだよ。この前来た時に食べに行ったら、すごくサービスしてくれたの。この辺りは親切な人が多いから、住みたくなっちゃうよね」
「そ、そうなんですか……」
牧野は運転をしながらお店や景色などを教えてくれるが、脇見運転もいいところで、亮は気が気じゃなかった。
「ま、牧野さん!前、カーブになってますっ!」
「大丈夫見えてるよ」
明らかに今、亮の方を見ていたと思ったが、牧野はハンドルを切って山道を上がっていく。
「牧野さん、視野広いですね」
「そうかな。でも、だいたいわかるかな。前見てても、亮くんの顔はなんとなく見えるよ」
「そうなんですか?」
「うん。オフィスでも、パソコンに向かってるけど、亮くんのこと観察しちゃう。結構みんなのこと見てるよね、さすが元人事部」
自分では無意識だったが、牧野に言われてみれば、パソコン画面に集中している時でも、誰がどこにいるかわかるかもしれない。
「亮くんの方が視野広いんじゃない?」
「いや、そんなこと……」
「僕のこともよく見てるでしょ」
「…………!!?」
「ふふっ、見えてるからね~」
山を一つ越えて、目的の牧場に着いた。
牧場地帯になっている地域で、得意先と、新規にできたという牧場にも営業をかけに行くのだ。
「あ、牛さん。放牧されてるよ~。みんな元気~?」
牧場の入り口に車を停めて、飼料のサンプルやら色々と持って中に入ると、すぐに牛の群れが出迎えてくれた。
ホルスタインの白黒を見て、亮もなんとなくホッとする。
無邪気に牛に手を振る牧野も可愛い。
「牧野さん、こっちこっち」
「どうも、八木さん。お元気みたいで良かったです」
「牧野さんも、変わらず可愛らしい。今日は新しい人連れてきたのかい?」
「はい。亮くん……えっと……」
「犬飼亮です。よろしくお願いします」
言葉を探しているような牧野に、亮は苗字を忘れられたのかと慌てて名乗る。
へへへっと笑いながら亮に向かって牧野は小さく舌を出してきた。
ペロリと出された舌を見て、亮の鼻息は荒くなる。
「犬飼さんね。よろしく、八木と申します。うちはホルスタインをメインにやってるけど、なんか羊のチーズが流行るとかって聞いてね。今余裕あるから手出してみようと思ったんだよ。それでわざわざ呼んじゃって、すみませんね~」
「いえ、とても光栄です。飼料やカタログも持ってきましたので、お話しさせてください」
「はいはい、じゃ、家の中どうぞ」
家まで続く牧柵の横を歩きながら、牧野はニコニコと亮に耳打ちしてきた。
「八木さんちのヨーグルト美味しいんだよ」
「なんだ、牧野さんはそれ目当てで来たんですかい」
「あ、聞こえちゃいました?だって本当に美味しいから」
「うちで食べるようにしか作ってないけど、商品化してみるか」
「やった~!絶対に買います」
「だったら、ヨーグルト作れる機材とかも教えてもらわないとね」
「了解です!」
あれ、今ので契約になったのか?
亮は秒で進んだ話に牧野の営業力を見た。
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