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第7話 温泉は危険です
牧場の営業の成果は上々だった。
牧野は営業が上手い。
新規の牧場でも、簡単に契約が決まった。
このぽやっとした雰囲気が警戒心を解くのだろう。
『そうか、お疲れ様。牧野の営業は面白いだろ。現場の客のところに行かせると本領発揮するんだ。勉強になったか?』
部長に電話で報告を入れると、ストレートに牧野を褒めていて、営業部のマスコットキャラだけではないと認められていることがわかった。
『夜は、牧野が予約した宿だったな』
「あ、はい。温泉が良いとかで」
『あぁ、気を付けろ』
「え?」
『いや、ゆっくり休めよ』
部長はそれだけ言うと電話を切ってしまった。
亮は、温泉だと言うことを自分で言って改めて思う。
一緒に入ったら、理性が持つだろうか。
部長の忠告の言葉を受け取って、亮は車を運転する牧野にゆっくりと視線を向けた。
「部長なんだって?」
「あ、えっと……ゆっくり休めと……」
「そっか、温泉でゆっくりしよ~」
「そ、そうですね……」
牧野が予約した温泉宿は、山を降りてすぐだった。
明日、新幹線に乗るにも駅から遠すぎない良い場所だ。
エントランスは趣のある和テイストで、外国人客に好まれそうだと、亮は内装を見渡して思う。
すると、フロントでチェックインをしている牧野から手招きをされた。
「どうしました?」
「ごめん、僕が間違えちゃってて、ダブルの部屋にしちゃってたの。ダブルで予約しても、二部屋は取れないんだよ」
「そ、そうですね」
牧野の説明は当たり前のことだ。
何をどう勘違いすればそうなるのか、亮にはわからないが、同室だって何も問題ない。
いや、問題か……?
「今、もう一部屋お願いしようとしたんだけど。空いてないんだってどうする?」
ここは温泉が有名な観光地でもある。
普通なら、別の宿を探せば良いだろう。
しかし、亮はそんなことには頭が回りませんでしたという程を装って、妥協したように言った。
「しょうがないですよ。同室でも大丈夫ですよ」
「ごめんね~」
亮は、申し訳なさそうに頭を下げる牧野に、優しく笑った。
心の中では、邪な心が育っていることをひたすらに隠しながら。
ダブルの部屋は、かなり広かった。
ゆったりと座れるソファーもあり、荷物を広げても余裕がある。
スーツのジャケットを脱いでクローゼットにしまうと、牧野もお願いとジャケットを渡してきた。
受け取ったジャケットは、ふわりと牧野の匂いがした。
顔をつけて嗅ぎたい衝動を抑え、クローゼットに仕舞い込む。
「ベッド、結構広くて良かったね」
ダブルベッドの端に座りながら、牧野はスプリングを揺らした。
亮は、結構広いことが少し残念に思う。
「ご飯の前に温泉行く?本当に気持ちいいんだよ」
「そうですね」
どうやって一緒に温泉に行こうかと考えていたが、牧野から誘ってもらえ、亮は心の中でニヤニヤが止まらなかった。
脱衣所に入ると、ムッとした湿気と、硫黄の香りを感じた。
「この匂い、温泉って感じだよね~」
牧野は何も気にせずどんどんと脱いでいく。
待て待て、心の準備が……
亮は牧野から視線を外しながら、ゆっくりとシャツのボタンを外した。
しかし、視界に入れていない牧野から視線を感じる。
「亮くんて、良い身体してるよね」
ボタンが外れたシャツの間に牧野の指が入ってきた。
ツツツッと腹筋をなぞられ、亮の体温が一気に上がる。
「そそ、そうですかぁ?」
「うん……いいなぁ……ずっと触ってたい」
「ふぇっ?!」
一瞬、牧野の目の色が変わったように見え、亮は息を呑む。
牧野の指先が動いて、上擦った声が響き、他の客の視線を集めてしまった。
亮の声に、牧野は驚きながらも笑う。
「くすぐったかった?早く脱いで行こうよ」
気付けば、牧野は腰にタオル一枚巻いただけの格好になっている。
全身を見逃したかと亮はこっそり舌打ちをしたが、今それを見てしまったら、腰のタオルでは隠せない恥ずかしい思いをするだろうと、心を落ち着ける。
その後のことはあまり覚えていない。
いや、あまり視界に入れないように気をつけていた。
結果、牧野の声と、体を洗う時の泡と水の音だけはリアルの覚えている。
「亮くん、のぼせちゃった?顔真っ赤だよ?」
「そうですか?すき焼き御膳の火のせいじゃないですか?」
牧野は心配そうな顔で亮の向かいから顔を覗き込んでくる。
湯上がりの熱った牧野の肌が、宿の浴衣から見え隠れしていて、目のやり場に困る。
「亮くん、やっぱり良い身体してるね。浴衣よく似合ってる。腹筋も固かったし、また触らせてよ」
無邪気に笑う牧野の笑顔に、同室はやはり拷問だったかもしれないと、亮は後悔をした。
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