4 / 19
約束の続き
「4番、センター。 藍沢陽彩」
場内アナウンスと同時に、スタンドから大歓声が沸き起こる。
「今日もすごい歓声ですね!」
「当然でしょう。昨シーズンの首位打者にして、本塁打王。今、日本球界で最も注目されている選手です!」
大型ビジョンに陽彩の姿が映し出される。
プロ入りから五年。ドラフト一位で入団した陽彩は一年目から頭角を現し、今では誰もが知るスター選手となっていた。
「陽彩くーん!」
「藍沢選手ー!」
ユニフォームを着た子供たちが名前を叫ぶ。
スタンドには応援タオルが揺れ、スマートフォンを向けるファンの姿も少なくない。
陽彩は軽く手を上げると、小さく笑ってグラウンドへ足を踏み入れた。
その表情は、高校時代よりもずっと大人びていた。
「プレイボール!」
試合が始まると、球場の熱気はさらに増していく。
第一打席は四球。第二打席では鋭い打球をセンター前へ運び、チャンスを広げる。
そして迎えた第八回。
「打ったーーーーッ!!!」
陽彩が振り抜いた打球は高々と舞い上がり、そのままライトスタンドへ吸い込まれていく。
「入りましたー! 第三十二号ホームラン!!」
球場が大歓声に包まれる。試合はそのまま6対1で勝利。
ダイヤモンドを一周した陽彩は仲間たちとハイタッチを交わすと、スタンドから送られる歓声に軽く手を振って応えた。
「今日も藍沢選手の一発で決めました!」
「これで本塁打ランキング単独トップ! さすが日本を代表するスラッガーです!」
試合後、ヒーローインタビューが始まる。
「藍沢選手、決勝ホームランでした。感触はいかがでしたか?」
「いい感触でした。みんなが繋いでくれたチャンスだったので、なんとか返せてよかったです」
変わらない穏やかな受け答えに、会場から拍手が送られた。
インタビューを終えると、通路には待っていたファンが一斉に駆け寄ってくる。
「陽彩くーん!サインしてー!」
「写真ー!」
陽彩は足を止め、ひとりひとり笑顔で応えた。
「ありがとう」
サインを書き終えると、小さな男の子がユニフォームを握りしめながら前へ出る。
「僕、藍沢選手みたいなバッターになります!」
その言葉に、陽彩はしゃがみこんで目線を合わせた。
「応援してる。いっぱい練習して、いつか一緒に野球しよう」
男の子は嬉しそうに何度も頷く。
その様子を見ていた球団スタッフが苦笑しながら声を掛けた。
「藍沢選手、そろそろお時間です」
「あ、すみません」
ファンへ深く一礼し、再び歩き出す。
ロッカールームへ戻る途中、球場スタッフが一枚の封筒を差し出した。
「藍沢選手、お疲れ様です」
「ありがとうございます」
受け取った封筒には、見慣れたロゴが印字されている。
――侍ジャパン。
陽彩は足を止め、封を開いた。
<侍ジャパン強化合宿招集通知> 思わず口元が緩む。
「今年も選ばれたんですね」
スタッフが笑いかける。
「はい」
「今回はメジャー組も参加予定ですよ」
その一言に、陽彩の手がぴたりと止まった。
メジャー組。自然とひとりの男の顔が浮かぶ。
――『次に勝負する時は敵同士だと思うけど!莉珠くんの球、打ってみせる』
この勝負が現実になろうとしていた。
(……莉珠くん)
胸の奥が小さく高鳴る。
「楽しみですね」
陽彩は静かに呟くと、招集通知をバッグへしまった。
世界を目指すと誓った、あの日から五年。
約束の続きを始める時が、すぐそこまで来ていた。
ともだちにシェアしよう!

