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約束の続き

「4番、センター。 藍沢陽彩」 場内アナウンスと同時に、スタンドから大歓声が沸き起こる。 「今日もすごい歓声ですね!」 「当然でしょう。昨シーズンの首位打者にして、本塁打王。今、日本球界で最も注目されている選手です!」 大型ビジョンに陽彩の姿が映し出される。 プロ入りから五年。ドラフト一位で入団した陽彩は一年目から頭角を現し、今では誰もが知るスター選手となっていた。 「陽彩くーん!」 「藍沢選手ー!」 ユニフォームを着た子供たちが名前を叫ぶ。 スタンドには応援タオルが揺れ、スマートフォンを向けるファンの姿も少なくない。 陽彩は軽く手を上げると、小さく笑ってグラウンドへ足を踏み入れた。 その表情は、高校時代よりもずっと大人びていた。 「プレイボール!」 試合が始まると、球場の熱気はさらに増していく。 第一打席は四球。第二打席では鋭い打球をセンター前へ運び、チャンスを広げる。 そして迎えた第八回。 「打ったーーーーッ!!!」 陽彩が振り抜いた打球は高々と舞い上がり、そのままライトスタンドへ吸い込まれていく。 「入りましたー! 第三十二号ホームラン!!」 球場が大歓声に包まれる。試合はそのまま6対1で勝利。 ダイヤモンドを一周した陽彩は仲間たちとハイタッチを交わすと、スタンドから送られる歓声に軽く手を振って応えた。 「今日も藍沢選手の一発で決めました!」 「これで本塁打ランキング単独トップ! さすが日本を代表するスラッガーです!」 試合後、ヒーローインタビューが始まる。 「藍沢選手、決勝ホームランでした。感触はいかがでしたか?」 「いい感触でした。みんなが繋いでくれたチャンスだったので、なんとか返せてよかったです」 変わらない穏やかな受け答えに、会場から拍手が送られた。 インタビューを終えると、通路には待っていたファンが一斉に駆け寄ってくる。 「陽彩くーん!サインしてー!」 「写真ー!」 陽彩は足を止め、ひとりひとり笑顔で応えた。 「ありがとう」 サインを書き終えると、小さな男の子がユニフォームを握りしめながら前へ出る。 「僕、藍沢選手みたいなバッターになります!」 その言葉に、陽彩はしゃがみこんで目線を合わせた。 「応援してる。いっぱい練習して、いつか一緒に野球しよう」 男の子は嬉しそうに何度も頷く。 その様子を見ていた球団スタッフが苦笑しながら声を掛けた。 「藍沢選手、そろそろお時間です」 「あ、すみません」 ファンへ深く一礼し、再び歩き出す。 ロッカールームへ戻る途中、球場スタッフが一枚の封筒を差し出した。 「藍沢選手、お疲れ様です」 「ありがとうございます」 受け取った封筒には、見慣れたロゴが印字されている。 ――侍ジャパン。 陽彩は足を止め、封を開いた。 <侍ジャパン強化合宿招集通知> 思わず口元が緩む。 「今年も選ばれたんですね」 スタッフが笑いかける。 「はい」 「今回はメジャー組も参加予定ですよ」 その一言に、陽彩の手がぴたりと止まった。 メジャー組。自然とひとりの男の顔が浮かぶ。 ――『次に勝負する時は敵同士だと思うけど!莉珠くんの球、打ってみせる』 この勝負が現実になろうとしていた。 (……莉珠くん) 胸の奥が小さく高鳴る。 「楽しみですね」 陽彩は静かに呟くと、招集通知をバッグへしまった。 世界を目指すと誓った、あの日から五年。 約束の続きを始める時が、すぐそこまで来ていた。

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