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再会
代表合宿初日。
澄み渡る青空の下、侍ジャパンのユニフォームに袖を通した選手たちがグラウンドへ集まっていく。
「藍沢選手、おはようございます!」
「おはようございます」
スタッフへ軽く会釈を返し、陽彩はバッグを肩へ掛けたままクラブハウスへ足を踏み入れた。
「藍沢!」
「藍沢、久しブリーフ!」
「江崎さん! 松下さん!」
顔見知りの選手たちと挨拶を交わしながら、自分のロッカーへ向かう。
「今年も四番、頼むぞ!」
「そうだそうだ!」
そんな声に笑って応えながら、ユニフォームへ着替え始めた。
すると、ロッカールームの入口が開く。
「メジャー組、到着しました」
スタッフの一言で、部屋の空気が少しだけ変わった。
「今年もすごいメンバーだな」
「朝倉も来るんだろ?」
その名前が聞こえた瞬間、陽彩の手が止まる。
胸が、小さく高鳴った。
あれから五年。一度も会うことはなかった。
静かな足音が近づいてくる。
ひとり、またひとりとロッカールームへ入ってくる選手たち。そして最後に。
入口へ、ひとりの男が姿を現した。
短く整えられた黒髪。高校時代よりもより一層、逞しくなった身体。鋭く、それでいてどこか冷静な眼差し。
陽彩は思わず息を呑む。
「……莉珠くん」
その声に、男がゆっくりと視線を上げた。
二人の目が合う。数秒の沈黙。
やがて、莉珠は昔と何ひとつ変わらない表情で口を開く。
「久しぶり」
その一言だけだった。
「おいおい、ほんとに知り合いだったのか」
近くにいた江崎が思わず笑う。
「知り合いどころじゃないですよ」
別の選手が苦笑する。
「高校時代の怪物コンビです。甲子園優勝の蒼羽学園」
「ああ、あの朝倉と藍沢か」
ロッカールームが少しだけざわつく。
すると、入口から監督が姿を現した。
「全員揃ったな」
その一声で、部屋の空気が引き締まる。
「今日から一週間、侍ジャパン強化合宿を始める」
選手たちは一斉に監督へ視線を向けた。
「細かい話は後だ。まずはグラウンドへ出るぞ。返事!」
「「はい!」」
監督は選手たちを見渡し、小さく笑う。
「久しぶりに顔を合わせた奴らもいるだろうが、今日からは全員ライバルでもあり、仲間だ。互いに遠慮はいらん。実力を見せてみろ」
その言葉に、陽彩は隣へ視線を向ける。
ちょうど同じタイミングで、莉珠もこちらを見た。ほんの一瞬だけ、目が合う。
莉珠は小さく口角を上げる。
「……打て」
その一言に、陽彩の口元が自然に緩む。
「望むところ」
二人の間に流れる空気が、一瞬で張り詰めた。
「……なんだあの空気」
周囲の選手たちが顔を見合わせる。
「高校時代からずっとライバルだったらしい」
「甲子園を制した怪物コンビか」
「なるほどな」
監督はそんな二人を見て、小さく笑った。
「ちょうどいい。ウォーミングアップが終わったらフリー打撃だ。投手は順番にマウンドへ。野手は好きな投手を相手にしろ」
その瞬間、ロッカールームがざわつく。
「お、朝倉と藍沢いきなり勝負か?」
「いいもん見れそうだな」
陽彩はバットを肩へ担ぎ、歩き出そうとした。
「いや」
不意にひとりの男が陽彩の前へ立つ。
「その勝負、少しだけ待て」
日本代表の主砲、千堂だった。
バットを肩に担ぎ、どこか楽しそうに笑う。
「メジャーを代表する投手の球、一度くらい味わってみたい」
「いや、えっと――」
「お前との勝負はその後でいいだろう」
陽彩は一瞬だけ莉珠へ視線を向けた。
莉珠は何も言わない。
ただ静かにマウンドへ向かって歩き出す。
「じゃあ、遠慮なく」
千堂は軽く首を鳴らすと、バットを片手に打席へ向かった。
「いきなり千堂さんか」
「朝倉と藍沢の勝負も気になるけど、千堂さんがどこまでやれるか見物だな」
選手たちは自然とグラウンドへ集まり始める。
陽彩もその輪の後ろに立ち、静かにマウンドを見つめた。
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