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打倒!ベテラン組

乾いた打球音がグラウンドに響く。 「センター!」 声が飛ぶ。陽彩は一歩目で打球を捉え、一直線に落下点へ走った。迷いなくグローブを差し出す。 ――パシッ。危なげなく白球を収めると、そのまま素早く内野へと返した。 「ナイス!」 ベンチからは歓声が上がる。 マウンドでは莉珠が小さく頷くだけだった。 それでも陽彩には十分だった。 (ちゃんと見てくれてる) 高校時代から変わらない。派手に褒めることはないけれど、莉珠はいつだって陽彩のプレーを見ていた。 「ツーアウト!」 審判の声が響く。莉珠は静かにロジンバッグへ手を伸ばした。あとひとりだ。 打席にはベテランの主砲が入る。 「若いの、いい球投げるじゃねぇか」 軽口を叩きながらバットを構える。 莉珠は何も返さない。ゆっくりと振りかぶり、右腕を振り抜いた。 「ストライク!」 外角いっぱいへ決まる一球。 続く二球目は鋭く落ちる変化球。打者は食らいつくも、ファール。ツーストライク。 グラウンドが静まり返る。 莉珠は捕手のミットだけを見据えた。渾身のストレートが捻りを上げる。 「ストライク! バッターアウト!」 バットは空を切った。空振り三振。 「ゲームセット!」 2対1の接戦で、ベテラン相手に若手チームが見事な勝利を収めた。グラウンドには拍手と歓声が広がる。 莉珠は静かに帽子のつばへ触れ、マウンドを降りた。 その姿を見つめながら、陽彩は小さく笑う。 「ナイスピッチ」 「ああ」 短く返すと、莉珠はそのままベンチへ戻っていく。 試合後、選手たちはホームベース付近へ集められた。監督は選手たちを見渡し、小さく頷く。 「全員よくやった」 グラウンドが静まり返る。 「結果も大事だが、それ以上に今日見たかったのは連携だ。同じ代表として互いを信じ、どれだけ役割を果たせるか」 監督は若手、ベテラン関係なくひとりひとりへ視線を向ける。 「課題はまだある。だが、お前たちなら必ず強くなれる」 その言葉に、選手たちは力強く返事をした。 「「はい!」」 「今日はここまでだ。身体のケアを忘れるな。夕食まで自由時間とする」 監督の声と同時に、緊張していた空気が一気に和らぐ。 「腹減ったー!」 「あのダッシュはきつかったな」 笑い声があちこちで上がる中、陽彩はタオルを肩へ掛けながらクラブハウスへ向かった。 ◇ 夕食の時間。代表合宿の食堂には選手たちが次々と集まり、それぞれ好きな席へ腰を下ろしていく。 陽彩もトレーを持って辺りを見渡した、その時だった。窓際の席で、ひとり静かに食事を始める莉珠の姿が目に入る。 陽彩は迷うことなく、その席へ歩き出した。 「隣、いい?」 莉珠は無言のまま、向かいに置いていたバッグを足元へ下ろした。それが返事だった。 「ありがとう」 陽彩は小さく笑って椅子を引く。 「いただきます」 「……いただきます」 二人は静かに箸を動かし始める。周囲では、試合を振り返る声や笑い声が飛び交っていた。合宿二日目も終わりに近づき、張り詰めていた空気は少しずつ和らいでいく。 その賑やかな食堂で、ベテラン組の真島がぽつりと口にした。 「そういや、お前らさ――」 その一言が、思いもよらない話題の始まりになるとはこの時の二人はまだ知らなかった。

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