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それぞれの場所で

代表合宿も、残すところ後一日。 一週間は驚くほどあっという間だった。 朝は誰よりグラウンドへ向かい。昼は代表レベルの練習に食らいつき。夜になれば自然と、莉珠の隣へ座っていた。 それがいつの間にか当たり前になっていた。 「おはよう」 「おはよう」 短いやり取りも。朝のランニングも。練習後に並んでストレッチする時間も。何気ない毎日が、少しずつ二人の距離を縮めていった。 朝のウォーミングアップを終えた選手たちは、グラウンド中央へ集められた。 監督はひとりひとりの顔を見渡し、小さく頷く。 「今日で合宿は最後だ」 その一言に、選手たちの表情が引き締まる。 「午前はシートノックとケースバッティング。午後は守備連携の確認を行ったあと、最後にフリーバッティングで締める」 監督は腕を組み、続けた。 「この一週間、お前たちは本当によくやった。だが、ここはゴールじゃない」 静まり返ったグラウンドに、監督の声だけが響く。 「代表のユニフォームは誰にでも与えられるものではない。今日ここにいる全員が、それぞれの場所へ戻ればまたライバルだ」 その言葉に、陽彩は隣へ視線を向けた。 莉珠は前だけを見て見据えている。 「だが、この一週間で学んだことを忘れるな。仲間から吸収したものは、お前たち自身をさらに強くする」 監督はゆっくりと息を吐いた。 「最後まで気を抜くな!」 「「はい!」」 力強い返事がグラウンドへ響き渡る。 選手たちは一斉に持ち場へ散っていった。 陽彩はバットを肩へ担ぎながら、小さく笑う。 「今日で終わりかー」 隣を歩く莉珠が短く返す。 「だな」 「あっという間だったね」 「ああ」 短いやり取り。 それだけなのに自然と笑みがこぼれた。 「藍沢!」 コーチの声が飛ぶ。 「シートノック入るぞ!」 「はい!」 「朝倉、ブルペン準備!」 「はい」 二人は軽く目を合わせると、それぞれの持ち場へ向かって歩き出した。 今日がこの代表合宿最後の一日。 そしてまた、それぞれの戦う場所へ戻る日でもあった。 ◇ 代表合宿が終わってから、三週間。 それぞれが所属チームに戻り、再び忙しいシーズンが始まっていた。 「藍沢!おつかれ!」 「お疲れ様です!」 その日の試合を終え、自宅へ戻る。 シャワーを浴び、ソファへ腰を下ろすと何気なくテレビの電源を入れた。 『続いてはメジャーリーグです。朝倉莉珠選手が本日も先発登板』 その名前に、陽彩の手が止まる。 画面には見慣れた背番号。 マウンドの中央で静かにサインを確認する莉珠の姿が映し出される。 『今日も圧巻のピッチングでした。7回無失点、十二奪三振。今期、九勝目を挙げています』 映像が流れる。伸びのあるストレート。空振りを奪うスプリット。打者を寄せ付けない投球。 「相変わらずだね、莉珠くん」 思わず笑みがこぼれた。世界最高峰の舞台でも、莉珠は莉珠のままだった。 リモコンを握る手に、自然と力が入る。 「負けてられない」 テレビへ向かって、小さく呟く。 ライバルは今日も世界で戦っていた。 だから陽彩も前を向いて進み続けるしかないと、強く思った。

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