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5.一時の休息

 俺が席を立つとげんちゃんは俺もと言って立ち上がる。俺は止めようとしたけどげんちゃんは無言のまま俺についてきてくれた。 「なんで玄暉(げんき)が……」  むくれたような声が背中に聞こえてきたけど、俺はちょっと待っててと言い残してげんちゃんと一緒に一階へ向かう。  俺が冷蔵庫からポットを取り出すと、げんちゃんは自然と俺からポットを取り上げた。 「いいの?」 「蒼樹(あおい)もたくさん頑張ってた。だから、これくらいはさせてほしい」 「とっきーの言う通り、俺が二人に付き合ってもらったのに……ありがとう、げんちゃん」    俺はげんちゃんの優しさに感謝しながら、一緒に二階へ戻った。  とっきーは俺たちの帰りを待ちかねたように、グイっとグラスを突き出してくる。 「過保護なゴリラ、お代わり」 「……」 「とっきー、言い方!」 「気にしてない。蒼樹、座ってて」    とっきーはなぜか不機嫌そうだったから注意しちゃったけど、げんちゃんは気にしないみたいだ。  げんちゃんに対して、時々当たるような態度をとるんだよなぁ。とっきーは。  お代わりも欲しかったみたいだけど……それだけじゃ収まらないらしく、とっきーのぼやきはまだ続いていた。 「蒼樹はさ、ズルいんだよな。ぼやーっとしてるから放っておけないんだよ。で、自覚もないからタチが悪い」 「それは同意する。蒼樹のことは放っておけない」 「なんだよ二人して。俺、そんなにぼーっとしてるか? まあじいちゃんの店をどうやって経営するかーとかは店をやりながらでいいかって何となく思ってたけどさ」  だってさ、突然思い立って始めたわけで。  この店を潰したくないっていう思いだけで、他は何も考えてなかった。  というか、考えられなかった。とにかくやりたい気持ちだったし。 「普段はなーんも考えてないくせに。急にレトロ喫茶を継ぐとかいうからさ。蒼樹を見ていればその気持ちは分かるけど、絶対に勢いだろうって、思うに決まってるだろ」  とっきーの言い方は少しトゲがあるけど、それだけじゃなくて心配している気持ちがにじみ出ている。  そうだよな。突然言って振り回しているのは俺なわけだし。   「まぁ、勢いもあるけど。何よりこの場所が好きなんだよ、俺は」 「それは分かる。蒼樹にとって大切な場所だってこと。だから、俺も全力で手伝いたい」  げんちゃんの本気の気持ちがその瞳からひしひしと伝わってくる。  俺はコーヒーを飲み干してテーブルの上へ置くと、げんちゃんの手を握りしめた。 「持つべき者は友だよな。ありがとう、げんちゃん!」 「おいおい! 俺には礼もなしか?」 「とっきーも、サンキュ」 「俺に対して軽くないか? おかしいだろ!」  げんちゃんの手を離してから、今度はとっきーの手を握りしめてやった。  それだけでとっきーは機嫌を直してくれたみたいだ。嬉しそうに笑ってる。  これで喜ぶ意味はよく分かんないけど、これからも手伝ってもらうために俺も優しさのサービスをしとかないとな。 「俺のありがたみを深く心へ刻むように」 「はいはい。とっきーさいこー」 「蒼樹、鷺羽(ときは)に対して適当なのがバレバレすぎだ」  俺たちは毎回明るく笑い合って、何度もピンチを乗り越えてきた。  だから、今回もきっと大丈夫だ。絶対うまくいく。 「準備は大体整ったし、後はオープンする前に食料の買い出しへ行くくらいかな。今日はこの辺りにしようか」 「分かった」 「自分のことだっていうのに、相変わらず自分は関係ないやっていうか、ふわふわーっとした感じなんだよなぁ。ま、いいけど。でも、買い出しって……メニューはどうするとかもう決めたのか?」  とっきーに言われるまで、ふんわりとしか考えてなかった。  そうだよな、今までのメニューがあるとしても別メニューが必要になるかもしれない。  これでも経営者になるんだし、自分の首を絞めることになる前に……ちゃんと決めることは決めないとな。  今までは料理もじいちゃんがしてたから何も言わずとも自分が動けばよかったけど、俺の場合はげんちゃんがメインで調理をしてくれるんだ。  ここはげんちゃんの意見も大事だよな。 「げんちゃん、メニューについてなんだけど……」  俺とげんちゃんがひたいを突き合わせるように真剣に考えこんでいると、とっきーがぐいっと俺のおでこを押してきた。 「今、蒼樹と一緒に考えてる。邪魔するな」 「考えるのは構わない。だけど距離が近い! もっと離れろって!」  とっきーは俺とげんちゃんが仲良くしてると、いつも過敏に反応するんだよな。  仲間外れになるとか思ってるのか? 子どもじゃないんだから、言いたいことがあれば言えばいいのにな。   「離れるのは別に構わないんだけどさ。とっきーも一緒に話し合いたいなら言ってくれればいいのに」 「俺が素直じゃない、ひねくれた子どもみたいな言い方をするのはやめろよ。別にそういうわけじゃないし」  そう言いながらむくれてるんだから、とっきーが子どもっぽいだけなのかもしれない。

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