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8.スイーツは大人の味
とっきーと雑談を続けていたけど、げんちゃんから時間がかかると言われたので俺ととっきーは先に店内のテーブルに戻る。
俺ととっきーで、これからの喫茶店の経営に関わる話もしながら出来上がりを待つことにした。
カップラーメンじゃないしそんなに早くはできないと思っていたけど、料理はやっぱり時間がかかるものなんだな。
俺ときたら、料理に対する知識が素人すぎる。これからもげんちゃんから学ぶことが多そうだ。
せめてものという思いもあって、とっきーとめずらしく真面目な話し合いを続けていると、俺たち目の前にスイーツが運ばれてきた。
見た目は茶色くてシンプルなケーキの一種に見えるけど、考えてみても思い当たる名前は思い浮かばない。
とっきーも俺と同じく、じーっと見ながら首を傾げて考えているみたいだけど……このスイーツが何かは分からないみたいだ。
「見た目は派手さに欠けるけど、コイツは何者?」
とっきーがスイーツを指さすと、げんちゃんがじっと俺たちを見ながら口を開く。
「サバラン。大人向けのフランスのスイーツだ。洋菓子店で取り扱うところもある」
「この店で出したことはないな。じいちゃんは分かりやすいのしか出してなかったからな。プリンとかショートケーキみたいな定番のやつ」
サバランと呼ばれたスイーツの上には、たっぷりの生クリームとチェリーがのっかっていた。
げんちゃんの説明によると、のせるフルーツは季節によってなんでもいいらしい。
げんちゃんも席についたので、さっそく三人で試食することにした。
まずはとっきーが一口食べ、俺も続いて口へ運ぶ。
「お……洋酒? お子様向けじゃないけどシャレてんなコレ」
「シロップも甘いから、苦めのコーヒーと合いそう」
「洋酒の量は調節できるが、洋酒を染みこませたものが多いな。ブリオッシュ生地だからパンの一種だ」
げんちゃんの説明でも全部は理解できないけど、要は大人の洋菓子ってことか。
ふわりと口の中で芳醇な香りが広がり、口の中にバターの甘味も残る。けど、甘いだけじゃなくて少しほろ苦さも残る感じが大人向けの味だと感じた。
俺は嫌いじゃないけど、とっきーは首を捻ってるな。
「好き嫌いが出るかもしれないな。まあ、限定メニューなら良さそうだけど」
確かに洋酒を使用するデザートは、人を選ぶかもしれない。
それでも、こんなに美味しいデザートを俺たちだけ食べるのはもったいない気もする。
「でも……意外と女子受けしそうだけどね。お子様には食べさせないでくださいってメニューに書いておけばいいんじゃない?」
俺が美味しく味わいながらとっきーに反論すると、げんちゃんは俺に向かって柔らかく微笑んでからゆるく首を振る。
「あくまで試作だから、無理して採用する必要もない。蒼樹 の判断に任せる」
人の好みに全部合わせてたら大変だよな?
定番は定番で、限定は限定で思い切ってもいいと思うけど……俺の判断ってやっぱり素人判断なのか?
とっきーは相変わらず考え込んでいる。
このデザート一つも商売として考えているだろうから、洋菓子店でもないのに少しこだわりが強いのではと感じたのかもしれない。
「げんちゃんも絶対に採用してくれって意味で作った訳じゃないし。案の一つでしょ? 今は美味しく食べればいいよ。俺たちのために作ってくれたんだし」
「ホントにさあ……蒼樹はなんも考えてないんだよな。玄暉 も玄暉だ。急におしゃれなスイーツを出したところで、食べる相手のことを考えたのか? まあ、マスターが経営者だし。俺は従うだけですけど」
とっきーの言うことももっともだけど、そこまで言わなくてもいいのにという気持ちもある。
俺がのんびりしているせいで、やきもきしているんだろうけど……げんちゃんに当たるみたいな言い方だ。
俺が反論しようとすると、先にげんちゃんがとっきーに視線を向けた。
「悪い。蒼樹に喜んでもらいたくて、少し張り切りすぎた。もう少し無難な物を作れば良かったな」
げんちゃんが落ち込んでしまった。げんちゃんなりにこのレトロ喫茶のイメージを踏まえて作ってくれた気がするのに……。
俺のために考えてくれたことを、無にはできない。
「分かった。これともう一つ違う味で作ってもらえばいいだろ? 洋酒をあんまり使わないヤツで。それならとっきーも構わないだろ?」
「別に俺も文句つけてる訳じゃないんだけど。なーんか俺を悪者にしてないか?」
そう言いながらとっきーもサバランを切り分けて食べてるってことは、とっきーもサバラン自体が嫌いってわけじゃないんだよな。
もっと簡単なメニューで利益を出せばいいんだから、そこまで気にしなくてもいいと思うんだけど……甘いかな?
「蒼樹……蒼樹は優しいな。分かった。違う味も考えてみる」
「うん。頼んだ、げんちゃん。あとメインのスイーツはプリンアラモードって決まってるからよろしくな」
俺が笑顔でお願いすると、げんちゃんも元気を出してくれたみたいだ。静かに頷いてくれる。
俺の言葉に対して、とっきーは指先で頬をかきながら視線を外しながらぶつぶつと呟く。
「あー……それは分かるわ。プリンさえ作っておいてもらえれば盛り付けは何とかなるもんな」
レトロ喫茶と言えばプリンなイメージがあるんだけど、うちの店のプラムコレクトでもプリンアラモードは外せないメニューだ。
材料と分量が書いてあったノートは残ってるはずだから、それを参考にすれば再現できる。
俺の舌はじいちゃんの味を覚えてるし、多少違ったとしてもじいちゃんは優しいから怒らないはずだ。
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