14 / 54
第14話 もう少し
はじめてお互いの熱を知った夜。
手とキスだけで、果てしなく快感を分け合った。
肌の温もりを深く知ってしまった。
だからこそ。
それだけでは、もう足りなくなっていた。
もっと深く。
もっと強く。
心臓の一番近くで、ケントを感じたい。
ケントのすべてを、自分の中に受け入れたい。
それは、愛し合う二人にとって、ごく自然な欲求だった。
でも、男同士の繋がりには、どうしても準備が必要だ。
ケントの身体は大きい。
その雄々しい熱を、傷つくことなく体内に招き入れるために。
二人の、甘くて少しだけもどかしい、特別な夜の儀式が始まった。
最初の夜。
お風呂上がりの寝室。
間接照明の、オレンジ色の薄暗い光。
シーツの上に、うつ伏せになる。
緊張で、指先がひどく冷たくなっていた。
心臓がうるさい。
背中から、ケントの大きな身体が覆い被さる。
温かい体温。
安心する匂い。
「力、抜いて。大丈夫だから」
耳元で囁かれる、低くて優しい声。
でも、怖い。
どうしても身体が強張る。
ひんやりとしたゼリーの感触。
それが、レオの固く閉じた蕾をそっと撫でる。
びくりと肩が跳ねた。
ゆっくりと。
本当に、慎重に。
ケントの指が、一本だけ滑り込んでくる。
ぬるりとした感触。
第一関節。
ほんの少し。
たったそれだけなのに。
「……いたっ、」
思わず、掠れた声が漏れた。
経験したことのない、裂けるような違和感。
痛い。
怖い。
でも、ケントを受け入れたい。
シーツを両手で強く握りしめる。
必死に唇を噛んだ。
これ以上の声を出さないように。
痛みを我慢した。
振り返らなくても分かる。
自分の瞳には、情けない涙が滲んでいる。
それに気付いたケントの動きが、ピタリと止まる。
「……ごめん」
痛そうに顔を歪める気配がした。
すぐに、指が引き抜かれる。
ほっとする反面、申し訳なさが込み上げる。
「我慢、しなくていいよ」
ケントはおれの背中を優しく撫でる。
髪に、柔らかなキスが降る。
「もっとゆっくり、解していこう」
焦る必要なんてない。
何日かかってもいい。
少しずつ。
少しずつ。
その優しい声に、涙が溢れそうになった。
それから。
二人の秘密の時間が続いた。
ケントは決して急がなかった。
ゼリーをたっぷり使って、入り口を優しくマッサージするだけの夜もあった。
少しずつ、少しずつ。
レオの身体に、ケントの指の形を教え込んでいく。
温度。
動く角度。
触れられる深さ。
細胞が、それを「心地よいもの」として記憶し始める。
痛みが、じわじわと熱に変わっていく。
恐怖が、甘い期待に変わっていく。
そして。
すっかり熱を帯びた寝室。
甘い吐息が交差する。
「……指、入れるよ」
「んっ……」
一本目の指が、滑るように吸い込まれる。
もう、痛みは全くない。
「ふぁ……っ」
抵抗なく、するりと奥まで届く。
ケントの指が、中でゆっくりと曲げられる。
内壁を確かめるような、優しい愛撫。
「あ、ん|んっ……」
すぐに二本目の指が追加される。
押し広げられる感覚。
でも、苦しくない。
ケントの男らしい、骨ばった指。
太くて長い、大好きな指。
それが、レオの弱い粘膜を的確に擦り上げる。
「あッ……ん、そこっ……」
我慢しようとする。
自分の口元を、手で強く覆う。
でも、甘い痺れが腰の奥を突き抜けていく。
切ない喘ぎ声が、指の隙間からどうしても漏れ出てしまう。
「レオ……力抜けてる。上手だ」
耳元で褒められる。
それだけで、さらに奥が熱くなる。
そして。
ついに、三本目の指が、ゆっくりと侵入してきた。
「あ……ぁッ……! んっ、……あ、」
限界まで広げられる。
満たされる感覚。
三本の太い指が、狭い入り口を押し広げて、中を深く掻き回す。
じゅちゅ、ぐちゅ。
いやらしい水音が、静かな部屋に反響する。
「んっ、……ぁ、あッ……け……んと、っ」
摩擦のたびに。
身体の奥底から、ドロドロとした欲望が滲み出してくる。
頭の芯が白く痺れる。
シーツを掴む手に力がこもる。
腰が勝手に跳ね上がる。
もっと。
もっと強くして。
奥の、少し膨らんだ一番敏感な場所。
そこを指の腹で強く擦り上げられる。
「……っ! ぁ……ッ! だめっ、そこっ……!」
声が裏返る。
理性がドロドロに溶けていく。
涙が頬を伝う。
ケントの指に触れられているだけで、身体がこんなにも歓喜している。
「……レオ、」
ケントの息遣いも、ひどく荒くなっていた。
ゆっくりと。
三本の指が、引き抜かれる。
ぬぽ、と。
卑猥な音が鳴る。
満たされていた奥が、急な喪失感に震える。
レオが振り返ると、
ケントの長い指、そして、自身のすっかり柔らかくなった蕾。
その間に、 とろとろに溶けた、艶やかな透明の糸が引いていた。
照明に照らされて、いやらしく光っている。
開発され尽くした入り口。
それは、ケントの指を失ったことを嘆くように。
ぱくぱくと。
だらしなく痙攣している。
はやく。
はやく、ケントがほしい。
無言で誘っているようだった。
ケントの琥珀色の瞳が、暗く沈む。
強い飢餓感。
捕食者の目。
今すぐ、挿れたい。
ケントの身体から、狂おしいほどの熱気が直接伝わってくる。
下半身の猛りは、とっくに限界を迎えていた。
はち切れんばかりに膨張している。
今すぐ、このまま。
奥深くまで一気に突き入れてしまいたい。
レオも、同じだった。
ケントの全部で、めちゃくちゃに満たされたい。
「……ケント、」
甘えるように、名前を呼ぶ。
足を擦り寄せる。
でも。
ケントは、ぐっと奥歯を噛み締めた。
はやる気持ちを、必死の理性で押さえ込む。
ふう、と。
深く、熱い息を吐き出した。
そして、レオの汗ばんだ額に、優しいキスを落とした。
「……今日は、ここまで」
「え……」
「もう少し。ちゃんと、レオの心の準備が完璧になるまで」
なんて優しい人なんだろう。
自分の限界の欲求よりも。
レオの心と身体を、一番に考えてくれる。
ケントの大きな手が、頬を包み込む。
親指で、赤くなった目尻を優しく撫でられる。
「中間テストの最終日」
真剣な、愛おしそうな瞳。
「その日、レオの全部もらうから」
約束の日。
本番の日。
その言葉だけで、下腹部がきゅんと熱くなった。
顔がカッと熱くなる。
でも、しっかりと頷いた。
「……うん」
ケントが嬉しそうに微笑む。
もう一度、深く甘いキスが降ってくる。
大切にされている。
愛されている。
胸の奥が、甘い痛みでいっぱいになる。
心と身体が、本当の意味でひとつになる。
その瞬間は。
もう、すぐそこまで迫っていた。
ともだちにシェアしよう!

