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第16話 全部をもらう、その日
後期の中間テスト最終日。
朝から、レオの心臓は奇妙なリズムを刻んでいた。
視界に入るものすべてが、どこか現実味を欠いている。
通学路の景色も、教室の喧騒も、すべてが遠い。
頭の中を占めていたのは、テストの出来ではなかった。
『その日、レオの全部もらうから』
耳の奥に、あの低くて甘い声がこびりついている。
ケントの琥珀色の瞳。あの真剣な眼差し。
思い出すだけで、下腹部がキュンと切なく収縮した。
ペンを握る指先が、かすかに汗ばむ。
問題集の文字が滑り、頭を通り抜けていった。
放課後を告げるチャイムが響く。
その瞬間、教室の空気が一気に弛んだ。
「終わったーー!」
カズが大きな声を上げる。
喜びと諦めが混ざったような、いつもの能天気な声。
周りのクラスメイトたちも、一斉に席を立ち始めた。
誰もが、机の上の荷物を手早く鞄に詰め込んでいる。
「再来週はさ、いよいよ修学旅行だしな」
「どこ行くんだっけ、自由行動」
「服買いに行かねぇと」
弾む会話。
みんなの気持ちはすでに一つになっていた。
これからの楽しいイベント。輝かしい高校生活の1ページ。
だが、レオだけは違った。
別の世界の住人のように、ただ静かにノートを閉じる。
自分の行く先は、もっと狭くて、もっと熱い場所だ。
誰にも言えない秘密の約束。
レオは胸の内で、そっと息を吐き出した。
家に帰ると、そこには完全な静寂があった。
今日はショウもリサもいない。
夕方から出かけると、事前に聞いていた。
広い一軒家に、残されたのは二人きり。
レオと、後ほど帰宅するケントだけだ。
キッチンに立つ。
いつも通り、夕飯の準備を始める。
トントン、と小気味よい包丁の音が響く。
けれど、手元がおぼつかない。
ネギを切る指先が、かすかに震えていた。
味噌汁の湯気が、レオの白い頬を濡らす。
心臓の音が、どんどん大きくなっていくようだった。
ガチャリ、と玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま」
「……おかえり」
ケントが帰ってきた。
いつもの、見慣れた制服姿。
でも、今日のケントはどこか雰囲気が違っていた。
いつもより、少しだけ口数が少ない。
二人で並んで食べる夕食。
交わされる言葉は最低限だった。
いつも通りの空気。そう見せかけて、奥底は張り詰めている。
ケントの視線が、時折レオの唇へと向けられる。
それに気付くたび、レオは味覚を失ったように、ただ食べ物を飲み込んだ。
「先に、風呂入ってくる」
ケントが席を立つ。
レオは小さく頷いた。
リビングのソファに腰掛け、ぼんやりとテレビを眺める。
バラエティ番組の、派手な効果音と笑い声。
内容なんて、一切頭に入ってこなかった。
ただ、画面の光がチカチカと瞳を刺激するだけ。
奥からは、かすかにシャワーの水音が聞こえてくる。
それが、終わりの合図のように思えてならなかった。
しばらくして、水音が止まる。
お風呂からケントが出てきた。
湯気とともに、シトラスの香りがリビングに流れ込む。
ケントがレオの横を通り過ぎる。
すれ違いざま。
「……部屋で、待ってるから」
耳元に、低い振動が伝わった。
それだけを言い残し、ケントは二階の自室へと消えていった。
ぶわっと、全身に猛烈な緊張が広がる。
指先が冷たくなる。
いよいよだ。
その時が、来てしまった。
レオも風呂を済ませ、意を決して二階へと上がった。
ケントの部屋のドアの前。
ノックをする手が、驚くほど震えている。
一呼吸置いて、ドアを開けた。
部屋の中は、薄暗かった。
間接照明の、オレンジ色の光だけが部屋の隅を照らしている。
ベッドの縁に、ケントが座っていた。
「……おいで」
暗闇の中から、優しい声がレオを誘う。
吸い寄せられるように、一歩一歩、足を進める。
ベッドの横へ腰掛けると、すぐにケントの大きな手が伸びてきた。
ぎゅっと、手を握られる。
ケントの体温は、いつもレオより少し高い。
その温もりに、強張っていた身体がわずかに緩む。
ケントが少し身を屈め、レオの手の甲にそっと唇を寄せた。
ちゅ、と小さな音が鳴る。
そこから、指先へ。一本ずつ、丁寧にキスが落とされていく。
くすぐったくて、でも、たまらなく愛おしい。
次に、引き寄せられるようにハグされた。
ケントの広い胸の中に、すっぽりと収まる。
背中に回された大きな手が、レオの細い身体を確かめるように包み込む。
トクン、トクン、とケントの力強い心臓の音が、レオの胸に直接響いた。
安心する匂い。大好きな匂い。
「レオ……」
名前を呼ぶ声が、鼓膜を震わせる。
顎を持ち上げられ、自然と視線が交差した。
ゆっくりと、顔が近づいてくる。
最初のキスは、触れるだけのものだった。
柔らかくて、確かめるような、優しい拒絶のない接触。
それから、何度も、角度を変えて重ねられる。
次第に、ケントの吐息が荒くなっていく。
重なり合う唇の隙間から、熱い舌が滑り込んできた。
「ん、……ふ……っ」
お互いの唾液が混ざり合い、舌が深く絡み合う。
大人のキス。
これまでとは、明らかに熱量が違っていた。
吸い上げられ、 押し込まれるたび、頭の芯が白くなっていく。
身体が内側からドロドロに蕩けていく感覚。
どれくらい、こうして唇を貪り合っていただろうか。
完全に酸欠状態になり、視界がぼんやりと歪む。
苦しいはずなのに、気持ちいい。
もっと、深く、繋がっていたいと思ってしまう。
気付けば、レオの身体はシーツの上に押し倒されていた。
見上げるケントの瞳は、暗い熱を帯びている。
大きな手が、レオのパジャマのボタンを一つずつ外していく。
布地が滑り落ち、冷たい空気が肌を撫でた。
続いて、下着も一緒に膝の下まで引き下ろされる。
ぷる、と暗闇の中に、レオの秘部が露わになった。
先端からは、すでに透明な先走りが溢れ、ぬらぬらと光を反射している。
下着は、もはやその機能を果たしていないほど、ぐしょぐしょに濡れていた。
ケントの視線がそこへ注がれる。
恥ずかしさで、レオは顔を両手で覆い隠した。
「綺麗だ、レオ」
ケントの手が、レオの太ももを割り、ゆっくりと蕾へと伸びる。
あらかじめ用意されていたゼリーの、ひんやりとした感触。
それが入り口を優しく撫でる。
これまで何度も、何日もかけて解してきた場所。
「力、抜いて」
一本の指が、ゆっくりと吸い込まれていく。
ぬるり、と水音を立てながら、狭い肉壁がケントの指を飲み込んでいく。
「ん、……ぁ……っ」
もう、痛みはない。
けれど、独特の圧迫感に、レオはシーツを強く握りしめた。
指が奥へと進む。
レオのなかの、膨れ上がった一番弱いところ。
そこへ指の腹が触れた瞬間、レオの身体がびくりと跳ね上がった。
「く、……ぅん……っ!」
出そうになる声を、必死に喉の奥で噛み殺す。
けれど、ケントの愛撫は止まらない。
二本、三本と指が追加され、中を深く掻き回される。
じゅちゅ、ぐちゅ、と、いやらしい水音が静かな部屋中に響き渡る。
擦られるたびに、腰の奥がズキズキと熱く痺れた。
切ない喘ぎ声が、どうしても指の隙間から漏れ出てしまう。
「あ、……んっ! け、ん……だめっ……」
頭がどうにかなりそうだった。
快感だけで満たされていく。
ふいに、中にあった指がすべて引き抜かれた。
ぽっかりとした喪失感。
レオが涙の滲む目で視線を下げると、ケントが自身のパジャマを脱ぎ捨てるところだった。
露わになった、ケントの下半身。
早く下着から解放してほしそうに、凶暴な質量が前に突き出ていた。
下着が下ろされる。
黒くて、太い、圧倒的なペニス。
表面には血管が浮き出て、脈打っている。
そこから、むせ返るような、強い雄のにおいが立ち上った。
(これが、いまから、おれのなかに……)
あまりの大きさに、気が遠くなりそうだった。
恐怖と、それ以上の期待で、身体がガタガタと震える。
ケントは素早く、慣れた手つきでゴムを装着した。
そして、レオの細い腰をぐっと自分の方へと引き寄せる。
ぱんぱんに張り詰めた先端が、レオの入り口に当てがわれた。
熱い。それだけで、頭の回路が焼き切れそうだった。
ゆっくり。本当に、ゆっくりと。
まだ誰も知らない、レオの穢れていない深部に、ドス黒い欲望が埋め込まれていく。
ミリ単位で進む肉の楔。
「……っ、うく……っあ!」
押し広げられる強烈な感覚に、レオはのけぞった。
ケントが動きを止め、レオの顔を覗き込む。
「いたくない? 大丈夫?」
気遣わしげな声。
レオは目に涙を浮かべながら、必死に首を振った。
痛いんじゃない。ただ、すべてが規格外で、圧倒されているだけだ。
唇を強く噛んで、必死に襲いかかる快楽に抗おうとする。
ケントはレオの額の汗を拭い、再び、ゆっくりと熱を進めていった。
長い時間をかけて、解してきた成果だった。
レオの蕾は、肉を引き裂くような痛みを伴うことなく、驚くほどあっさりとケントの凶暴な肉棒を受け入れていった。
根元まで、ぴったりと埋まる。
一つになる。
「は、……あ、……っ、ふ……う、……」
レオは肩で激しく息をしながら、体内の異物感に耐えていた。
熱い。太い。
ケントが自分の中に、完全に存在している。
ケントはまだ、大きくは動かない。
しっかり馴染むまで、繋がったまま、ゆっくりと腰を動かす。
ケントのかたちを、レオの粘膜にしっかりと覚えさせるように。
ゆっくりと引き出しては、再び深くへと沈める。
「ん、……んあ、……っ、あ」
動かされるたびに、中の吸い付くような肉壁が、ケントを締め付けた。
内側から内臓を押し上げられるような、未体験の感覚。
我慢しようとしても、吐息が勝手に甘い声へと変わる。
逃げ場のない快感が、体内の特等席を何度も何度も叩いた。
レオは限界だった。
これ以上、生殺しの状態でいられるわけがない。
「……もう、動いて……っ」
恥ずかしさを捨て、レオは掠れた声で強請った。
その声を皮切りに、ケントの動きが一変した。
理性のタガが外れたように、激しく腰を前後させ始める。
パン、パン、と肉と肉が激しくぶつかる音が部屋に鳴り響いた。
濡れた蕾に、容赦なく楔が出入りする。
ぐちゅ、じゅ、と粘膜が擦れ合う音が、欲望をさらに煽る。
ケントの動きは、獰猛で、容赦がなかった。
「あ、……っ! あッ、……ん、ん……ぅ!」
声が完全に上擦る。
ケントの大きな身体に揺さぶられ、レオの細い身体がベッドの上で激しく跳ねた。
爪をケントの背中に立て、しがみつくことしかできない。
ケントの呼吸も、獣のように荒くなっていた。
そろそろ、その時が近づいている。
ケントが、レオのお腹の上で激しく揺れるレオ自身の分身へと手を伸ばした。
それを大きな手で包み込み、根元から先端へと強く扱く。
中からの衝撃と、外からの愛撫。
挟み撃ちにされた快感に、レオの脳内は完全に真っ白になった。
ケントはさらにグラインドする速度を上げる。
最奥の、ある一点を完全に突破した。
「――っあ、あ、……ッ!!」
レオは声にならない悲鳴を上げて、身体を弓なりに反らせた。
ビクビクと何度も腰が跳ねる。
同時に、ケントの手のひらの中へ、熱い白濁を勢いよくぶち撒けていた。
絶頂の余韻で、レオの奥がぎゅうぎゅうと狂ったようにケントを締め付ける。
「レオ……っ!」
その強烈な吸い付きに、ケントも耐えきれなかった。
声を低く轟かせ、最後の一突きを深く見舞う。
ゴム越しに、レオの最奥へと、熱い白い欲をすべて吐き出した。
ドクンドクンと、何度も脈打つ感触が、レオの中へとダイレクトに伝わってくる。
自分の中に、ケントのすべてがある。
圧倒的な充足感が、二人を包み込んだ。
静まり返った部屋に、二人の荒い呼吸だけが響いている。
ケントが、名残り惜しそうに、ゆっくりと腰を引いた。
ずるり、と肉体が離れていく感覚。
完全に引き抜かれると、ゴムの先端には、かつてないほどの量の液溜まりが出来ていた。
それがいやにリアルで、レオはすぐに視線を逸らす。
レオの瞳は、まだ焦点が合っていなかった。
ただ、天井の薄暗い光をぼんやりと見つめている。
肩で何とか息をしながら、身体のあちこちに残る熱に震えていた。
ケントが、ベッドの下へゴムを処理し、再びレオの元へと戻ってくる。
汗で額に張り付いた前髪を、大きな手で優しく掻き上げた。
そして、剥き出しになったおでこに、愛おしそうに何度もキスを落とす。
頭を優しく撫でながら、ケントが囁いた。
「頑張ったな。……いたいところ、ない?」
どこまでも優しくて、甘い声。
レオのすべてを大切にしようとしてくれる、恋人の声だ。
レオは、目に涙をいっぱいに浮かべながら、こくんと小さく頷いた。
身体の奥は、まだじわじわと熱くて、少しだけ痺れるような違和感がある。
けれど、そんな痛みなんて、どうでもよかった。
胸の奥が、温かいもので満たされている。
愛しい恋人と、本当の意味で結ばれたのだという実感。
言葉は少なくても、伝わってくるケントの体温が、何よりの証明だった。
心が、これ以上ないほどに満たされていく。
レオは涙を零しながら、ケントの胸へと、静かに顔を埋めた。
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