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第22話 世界中の誰よりも、必要とされたい

 重く、熱い塊が、一番奥の柔らかく敏感な場所を容赦なく擦り上げていく。 「んっ……あ、ぁっ……く、ぁ……っ!」  背後から覆い被さるような体勢。  ケントの大きな身体にすっぽりと包み込まれながら、レオは必死にシーツを握りしめていた。  恋人同士になってから、数回の行為を重ねて。  少しずつではあるけれど。  この圧倒的な熱と質量を自身の内側へと受け入れることにも、ようやく身体が慣れてきた。  最初は未知の恐怖で強張っていた身体も。  今ではケントが触れ、甘い言葉を囁きながら愛撫してくれるだけで。  嘘みたいにとろとろに解れてしまう。  ズチュ、バチュ、と。  いやらしい水音と、肌と肌がぶつかり合う乾いた音が、静かな部屋に反響している。  声を出すまいと、レオは必死に自分の下唇を噛み締め、呼吸を殺そうとする。  けれど。 「あ、だめぇ……っ! そこ、あっ、ああっ……んんっ!」  ケントが的確に、レオの中の一番熱くて弱点とも言える場所を激しく擦り上げる。  そうするとどうしても声が漏れてしまう。  我慢しようとすればするほど。  堪えきれずに隙間から零れ落ちる喘ぎ声は、ひどく甘く、切なく、驚くほど淫らだった。  きゅう、と内壁がケントのものを締め付けるたび、背後からケントの荒い息遣いが聞こえてくる。 「レオ……すごい、いい……ナカ、熱くて、締まってる……っ」 「あ、あ、けんと、おれ、も……いくっ、だめ、あぁあっ!」  ゾクゾクと、背筋を強烈な電流が駆け巡った。  視界が白く明滅する。  ケントの大きな手が、前で限界まで熱を持っていたレオのペニスを優しく包み込み、下から上へとしごき上げた。  その絶妙な刺激が、とうとう決定打となる。 「あ……っ、あ、んっ、んああ……っ!」  レオがシーツに顔を押し付けるようにしながら、大きく背中を反らる。  そしてケントの熱い掌の中へ、自身の白い欲望を勢いよく弾けさせた。  同時に、最も深い場所でケントの硬いものが激しく脈打つ。  白濁した熱がレオの内側へと容赦なく注ぎ込まれていく。  あたまの中が、真っ白になる。  理性が完全に消失し、身体の芯から脳髄まで、すべてがどろどろの液体になって溶かされていくような、圧倒的な悦び。  ただケントの腕の中に抱かれながら、レオは小刻みに痙攣する自身の身体の重みを、すべて彼に預けることしかできなかった。  事後の余韻の中。  荒い呼吸が交差するベッドの上。  レオは仰向けにされ、ケントの温かい腕の中にすっぽりと収まっていた。 「……はぁ、あ……んっ……」  まだ心臓がバクバクと五月蝿く鳴っていて、息も絶え絶えだ。  じんじんと痺れるような快感が、足の先から頭のてっぺんまで残っている。  そんなレオの汗ばんだ額の髪を優しく払いながら、ケントが愛おしそうに目を細めた。 「レオ」 「……ん?」 「力抜くの、すげー上手くなったな」  チュッ、と額に優しいキスが落ちる。 「……えらい」  その、ひどく甘くて優しい褒め言葉。  大好きな人からの「えらい」というたった一言。  レオのお腹の奥が、ずくん、と甘く重く疼いた。  先ほどの強烈な快感とはまた違う。  もっと精神的な、魂の根底を激しく揺さぶられるような感覚だった。  あまりの気恥ずかしさと、胸が張り裂けそうになるほどの幸福感。  レオはどういう顔をして、どんな言葉を返せばいいのか分からなくなってしまった。  顔がカッと熱くなる。 「……っ、」  たまらず、レオはコロンと寝返りを打つ。  そしてケントの広く温かい胸元へ、自分の顔をすっぽりと隠すように埋めた。 「照れてんの?」  頭の上から、ケントの低くて心地よい笑い声が降ってくる。 「みないで……」  胸に顔を擦り付けながら籠もった声で反論する。  ケントがさらに愛おしそうに笑う。  レオの背中から頭にかけて、大きな掌で優しく何度も何度も撫でてくれた。  その一定のリズムが、とてつもなく心地よくて、安心する。  しばらくそうしてケントの体温と匂いに包まれていると。 「……レオ」  静かな、けれど微かな熱を帯びた声で名前を呼ばれた。  促されるままに、ゆっくりと顔を上げる。  真っ直ぐに見つめ合う視線。  ケントの黒い瞳の中には、自分への底なしの愛情と、まだ燻っている仄暗い欲望が混在していた。  大きな手がレオの顎を掬い上げ、引き寄せられる。  ちゅ、と、最初はついばむような軽いキス。  それからすぐに、少しだけ首の角度を変えて、深く、深く唇が重なり合った。 「んっ……ぁ、ふ……っ」  さっきまでの獣のように激しいものとは違う。  ただ純粋にお互いの愛を確かめ合うような。  甘くて、とろけるような濃厚な口付け。  ケントの舌が、レオの口内の粘膜を優しく舐め上げ、唾液を絡め取っていく。  気持ちいい。  優しくされるたびに、胸の奥がきゅうっと締め付けられる。 「ん、ぁ……けんと……っ」  呼吸の合間に、またしてもレオの唇から、甘く熱い吐息が零れ落ちた。  ゆっくりと唇が離れ、ケントが満足そうに微笑む。  その彫りの深い綺麗な顔を見つめながら。  レオは自分自身の内側で渦巻く感情の正体に、静かに打ち震えていた。  自分から、あんなにも淫らで、だらしのない声が出るなんて、思いもしなかった。  声だけじゃない。  この身体の奥底からとめどなく湧き上がってくる、ドロドロとした感情のすべてが、自分でも恐ろしいくらいだった。  ケントのすべてを、受け入れたい。  細胞の隅々まで、ケントの色と熱で塗り潰されたい。  逆に、自分のすべてを、ケントに奪い尽くしてほしい。  誰にも渡したくない。  自分のことだけを見てほしい。  他の誰にも向けないあの無防備な笑顔も、優しい手つきも、狂おしいほどの欲望も、すべて自分だけのものにしたい。  ――ケントに、世界中の誰よりも必要とされたい。  自分がこんなことを思うようになるなんて。  こんなにも独占欲が強くて、我儘で、重苦しい感情を抱え込む人間だったなんて。  ケントと出会うまでの自分には、想像もつかないことだった。  あまりにも重すぎるこの想いをすべて押し付けたら。  さすがのケントも呆れてしまうだろうか。  重いと、引かれてしまうだろうか。  そんな不安がよぎる。  でも。  ふと、少し前の会話が脳裏をよぎった。  誕生日プレゼントにあげた、シルバーのピアス。 「ごめん、おれ、なんか重くて」  ケントは、一切の迷いもなく、むしろひどく嬉しそうな顔をしてこう言ったのだ。 『重い方が嬉しい。むしろ、もっとが縛ってほしい』  あれは、冗談や慰めなんかじゃない。  本気の、ケントの狂気じみた愛情の形だった。  もし、今さっき考えていた「すべてを奪ってほしい、自分だけを見てほしい」というこのドロドロとした独占欲の塊をそのまま打ち明けたら。  ケントはきっと、呆れるどころか、あの時以上の嬉しそうな顔をして笑うのだろう。  そして、望み通りに、もっと激しく、もっと深く。  自分をこのベッドに縫い付けるように愛してくれるに違いない。 「……レオ? どうした、ぼーっとして」  不思議そうに覗き込んでくるケントの頬に、レオは自分からそっと手を伸ばした。  すべすべとした肌の感触に、たまらなく愛おしさが込み上げてくる。 「……ううん、なんでもない」  今はまだ、内緒にしておこう。  でも、いつか言葉にして全部伝えて、ケントをとびきり喜ばせてあげよう。  その時の彼の顔を見るのが、今から少しだけ楽しみだった。  ケントの大きな手に自分の手を重ねながら。  レオは甘い幸福感に目を閉じ、再びその温かく大きな胸の中へと深く沈み込んでいった。

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