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第30話 我慢できなくて

 金曜日の夜。  時計の針が、深夜を回る。  廊下の向こう。  同居している兄夫婦の部屋から聞こえていた足音は、もう完全に消えていた。  ケントは、暗い廊下を音を立てずに歩く。  向かう先は、レオの寝室。  体の中には、行き場のない熱が燻っている。  お預けを食らって、今日で丸二週間だった。 「家に人がいる時は、ダメ。二人きりの時だけ」    それが、レオが頑なに守っているルール。  いつもなら、金曜の夜はショウたちが外出して不在になる。  その時間だけが、健全な男子高校生である二人が、誰にも邪魔されず甘く愛し合える貴重な時間だった。    しかし。  最近、ショウの仕事が激務らしい。  金曜の夜だというのに外出することもなく、二人揃って家にいるのだ。  先週も。そして、今週も。  血気盛んな高校生。  好きな相手と一つ屋根の下。  二週間もの我慢。  ケントの理性は、とうの昔に限界を突破していた。  ドアノブに手をかける。  そっと、音を立てずに扉を開けた。  部屋の中は、ベッドサイドの小さな間接照明だけが点いている。  レオは、ベッドに寄りかかって本を読んでいた。 「……ケント?」    扉の隙間から現れたケントを見て、レオが驚いたように目を丸くする。  返事の代わりに、ケントは無言でベッドへ潜り込んだ。  レオの手から本を奪い取り、サイドテーブルへ置く。  そのまま、細い身体をシーツの上に押し倒した。 「んっ……」  重なる唇。  最初は、触れるだけの軽いキス。  ちゅっ、ちゅっ、と小鳥がついばむような口づけ。  そこから、徐々に角度を変え、深く、貪るようなキスへと変化させていく。  強引に唇を割り、熱い舌を滑り込ませた。 「んちゅ……じゅ、る……っ」   「んっ……ぁ、だめっ、けんと……っ」  甘い水音が響く前に。  レオが慌てて顔を背け、ケントの広い胸を両手で押し返した。  肩で息をしながら、潤んだ瞳で睨みつけてくる。 「だめだってば……家に、ショウ兄たちがいるから……」 「……」 「聞こえちゃったら、どうするの……っ」  顔を真っ赤にして抵抗するレオ。  その姿がたまらなく可愛くて、同時にどうしようもなく焦燥感を煽る。  ケントの理性が、ギリギリと音を立てて軋んだ。 「……俺はもう限界」    掠れた、低い声。   「二週間も我慢した。これ以上は、絶対に無理だ」 「でも……っ」 「レオは? レオは、平気なの?」  ケントの問いかけに。  レオはピタリと動きを止めた。  少しだけ考えるように、伏せられる長いまつ毛。  そして。  ぎゅっと、ケントのパジャマの胸元を握りしめた。 「……平気なわけ、ない」    ぽつりと、消え入りそうな声がこぼれる。   「おれだって……っ、本当は、いっぱい、ケントに触れてほしい……っ」  本音だった。  その甘く素直な言葉が、ケントの中に残っていた最後のブレーキを完全に破壊した。 「……声、我慢して」 「ん……っ、」 「絶対に音、立てないように動くから」  暗い部屋。  間接照明の琥珀色の光が、レオの白い肌を淡く照らし出す。  服を脱がせる衣擦れの音さえも、今夜は慎重に。  少しずつ、素肌が空気に触れていく。  ケントの大きな手が、レオの敏感な肌をなぞる。  いつもなら激しく貪る場所も。  今日は、ゆっくりと。ねっとりと。  指先で、愛でるように撫で回す。 「っ……んぅっ……!」  微かな喘ぎ声が漏れそうになる。  すかさず、ケントが顔を寄せ、その唇を深く塞いだ。   「んんッ……! ぁ、ふっ……」    舌を絡め合わせ、漏れ出る甘い声をすべて口の中で飲み込む。  ちゅ、じゅる。  唾液の混ざり合う、水音だけが小さく響く。 「はぁっ……はぁっ……」    唇を離すと、レオが荒い息を吐き出した。  熱を帯びて、トロンととろけた瞳。  すでに、レオの下半身も痛いほどに昂っていた。  ケントは潤滑ゼリーを指に取る。  冷たい感触が、レオの蕾に触れた。   「ひっ……ぁ、」    ビクッと肩が跳ねる。  一本。そして、二本。  ゆっくりと、入り口を解していく。  いつもより、ずっとスローペース。  今すぐにでも己の猛りを突き入れたい衝動。  それを必死に押さえ込み、丁寧に、時間をかけて内壁のひだを伸ばす。 「あ、んっ……ん、っ……んんっ!」  弱い部分をピンポイントで押される。  声が出そうになり、レオが慌てて自分の両手で口を覆った。  口元を押さえる手が、快感でブルブルと震えている。  必死に声を殺そうとするその姿が。  たまらなく、いじらしい。 「レオ……すごい、とろとろ」 「ん……っ、んぅ……」  口を覆ったまま、レオがコクコクと頷く。  準備は完全に整った。  ケントは自身の、はち切れんばかりに硬く猛ったものを、レオの入り口にあてがう。 「入れるぞ」  ゆっくりと。  少しずつ。  音を立てないように、時間をかけて腰を沈めていく。 「んっ……ぁ……っ!」  隙間なく、太いものが内壁をこじ開けていく感覚。   「んんッ!!」    レオが、ギュッと目を閉じて顔をしかめる。  痛いのではない。  快感が、あまりにも強すぎるのだ。  いつもなら勢いで入ってしまう部分。  そこをミリ単位でゆっくりと進むことで、尋常ではない強烈な摩擦を生んでいる。 「レオ……っ、中、やばい……っ」  ケントも、たまらず声が震える。  押しつぶされそうなほどの締め付け。  時間をかけて。  ついに、一番奥まで、完全に深々と繋がった。  圧倒的な満腹感に、二人は同時に長いため息を吐いた。 「動く……」 「んぁ……っ、」  ケントの腰が、静かに引き抜かれる。  そして、再びゆっくりと押し込まれる。  ぱちっ、と。  静かな肉の摩擦音だけが、シーツにこもる。  激しい打撃音は、絶対に出せない。  だからこそ。  奥の一番敏感な一点を、じっくりと、えぐるように押し潰す。 「あッ! んんんッ!!」  レオの身体が、ビクンッ! と大きく跳ね上がった。  声が出ないように、ケントの肩口に顔を埋め、思い切り噛み付く。   「っ……! レオ、いいよ、そのまま噛んでて」  ゆっくり。  ねっとり。  引き抜く時も、ひだをすべて外へ引っ張り出すように。  押し込む時も、極上の弱点をじわじわとこすり上げるように。 「はぁっ……ん、っ……んぅっ!」  声を出せない。  音を立てられない。  その背徳感と制約が、さらにレオの感度を狂わせていく。  頭の中が、快楽で真っ白に塗り潰されていく。 「レオ……」  ケントが再び、レオの口を塞ぐ。  肩から顔を上げさせ、深いキスを落とす。  熱い舌を這わせる。  腰のねっとりとした動きと連動して、口内でも舌を激しく絡め合う。 「ん……ん……ッ! あ、……ぁ……っ」  キスの合間に、くぐもった甘い喘ぎ声がとめどなく漏れる。  ゆっくりとしたピストン。  けれど、その一回一回が、確実に脳髄を揺らすほどの快感をもたらす。 「ぁ、……いく……っ……! け……んと……、っ……!」  レオが、声にならない声で訴えかけてくる。  限界だった。   「……っ、レオ……っ!」  最後のストローク。  限界まで深く、一番奥の奥へと沈め込む。  ギリギリと腰を押し付けた。 「ーーーーーッ!!!」  無音の絶叫。  レオが大きく弓なりに身体を反らせ、腹の上に真っ白な熱を勢いよく放った。  同時に。  ケントも限界を迎える。  一番奥の、とろけるような熱い壁の中。  脈打つ己の欲望を、何度も、何度も、余すところなく注ぎ込んだ。  レオの内壁がきゅうきゅうと収縮する。 「はぁっ……はぁっ……」 「はぁ……っ、レオ……っ」  荒い呼吸だけが、静かな部屋に響く。  汗ばんだ肌が、ぴったりとくっつく。  深い満足感が、部屋の空気を甘く満たしていた。  いつもの激しくスピーディーな行為とは違う。  ゆっくり時間をかけた分、脳の芯まで痺れるような、強烈で深い絶頂だった。  事後。  乱れたシーツの上。  レオは、ケントの腕の中にすっぽりと収まり、小さく息を吐いた。 「……もう、しない」  まだ火照りが引かない真っ赤な顔で、プイッと目を逸らす。   「家に人がいる時は、心臓に悪い……」  涙目で抗議するレオが、可愛くて仕方ない。  ケントは、汗で張り付いたレオの前髪を優しく撫でた。 「だめ?」  わざと、しょんぼりとした声を出す。  まるで捨て犬のような上目遣いで、レオを見つめる。  レオは、少し戸惑ったように視線を泳がせた。 「……」 「オレ、二週間も我慢したのに」  追撃するように、甘い声で囁く。  レオは、きゅっと唇を噛み締めた。  そして。 「……たまになら」  ぽつりと、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。  ケントの顔に、パッと満面の笑みが広がる。   「マジ!?」 「ちょっ、声大きい……っ!」  慌ててケントの口を塞ぐレオ。  結局のところ。  レオは、本当にケントにとことん甘いのだ。 「愛してる、レオ」 「……おれも」  チュッ、と優しいキスを交わす。  静かな夜。重なり合う甘い体温。  金曜日の二人の夜は、まだ始まったばかりだった。

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