43 / 54

第43話 夏服の虜

 高校三年生。  六月。  この日から夏服の着用期間だ。  朝。  空気が少しだけ湿気を帯びている。  窓の向こうは青空だ。  部屋には薄い陽射しが差し込んでいる。  レオが着替えている。  新しい半袖のワイシャツ。  ゆっくりと袖を通す。  細くて、白い指先。  第一ボタンまで丁寧に留めていく。  ネクタイを締める。  手慣れた動作。  ケントはソファに座りながら、その無防備な背中を、ただ静かに眺めていた。  レオの夏服。  実のところ、結構好きなんだよな。  爽やかな白いシャツ。  清潔感がある。  そこからのびる腕。  レオのすらっとした、白い腕だ。  冬の間はずっと長袖に隠れていた肌。  肌の露出が、少しだけ増える。  本当にただそれだけのことだ。  それだけなのに、どうしてかテンションが上がってしまう。  男の単純な性なのかもしれない。  そして、何より際立つ部分がある。  細い腰だ。  レオは制服を着崩さない。  ワイシャツの裾を出したりしない。  しっかりとズボンに仕舞うタイプだ。  だからこそ。  夏服になると、余計にスタイルの良さが目立つ。  シャツの薄い生地越しにわかる細さ。  引き締まったライン。    (……エロい)    素直にそう思う。  同時に、どす黒い感情が胸の奥に湧く。  学校に行く。  教室で。廊下で。  他の奴らにも、こんな目で見られるのだろうか。  この無防備な白い腕を。  この細い腰を。  いやだ。  絶対に見られたくない。  独り占めしたい。  そんなことを考えていた時。  ふと、視線が止まった。  半袖のシャツの袖口。  真っ白な肌の上。  赤く刻まれた印が覗いている。  動くたびに、布の隙間から見え隠れする。    オレが付けた痕だ。  まずいかも。    ケントは音を立てずにソファから立ち上がった。  レオの背後に立つ。  こっそりと耳打ちする。 「キスマーク、見えてる」  びくっ。  レオの肩が大きく跳ねた。  慌てて姿見を覗き込む。  顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。  耳の先まで赤い。    急いで部屋に戻ってクローゼットを開ける。  長袖のワイシャツを引っ張り出す。  逃げるように着替えるレオ。  少し焦ったような顔。  これでよし。  ケントは心の中で小さくガッツポーズをした。  金曜日の夜。一週間の終わり。  誰にも邪魔されない、二人の甘い夜の時間。  部屋の明かりを落とし、ベッドの上にレオを押し倒す。  キスをする。ねっとりとした、深いキス。  唇を喰む。舌を絡ませる。唾液が混ざり合う。  水音が静かな部屋に響く。  息継ぎの隙も与えない。  角度を変えて、何度も。何度も。  ちゅっ、と音を立てて離れる。  とろんとした瞳。  熱を帯びたレオの顔。  その瞳の中に、欲望を隠せていない。  ケントを求めている。  可愛い。  たまらなく可愛い。  レオの首筋に顔を埋める。  トクトクと脈打つ場所。  そこにキスマークを付けようとする。  ちゅ、と吸い付いた瞬間。 「んっ……」  レオの手がケントの肩を押す。  止められる。 「見えないところにして……」  掠れた、甘い声。  ケントはわざと意地悪く笑う。 「キスマーク自体は、OKなんだ」  そう言うと、レオは恥ずかしそうに顔を背けた。  赤くなった頬。  ぎゅっと閉じた目。  何もかもが愛おしい。  唇を滑らせる。  鎖骨。  胸元。  お腹。  そして、もっと下へ。  足の付け根。  皮膚が薄くて、とても敏感な箇所。  そこに吸い付く。舌で舐める。軽く歯を立てる。強く吸う。  何度も、何度も跡をつける。  真っ白な肌に赤い花を散らすように。 「あっ……ぁ……っ」  レオから切ない声が漏れる。  ケントが吸い付く度。  レオの細い腰が、びくびくと跳ねるように揺れた。  シーツを握る指先に力が入る。  後ろの蕾を愛撫する。  ジェルをたっぷり使って、指でじっくり丁寧に解していく。  一本、二本、と指を増やしながら、レオの弱い部分を執拗に攻めていく。 「ぁ、ん……、そこっ……、ア」    レオの体が熱を持ち、そそり立ったものの先端からは、とろとろと透明な蜜が溢れ出ていた。  後ろの解れた場所が、グチュ、グチュと、卑猥な音を立てている。  熱い吐息と混ざり合い、部屋が熱気に包まれる。  指を引き抜くと、ケントを受け入れるための場所が、寂しそうにひくひくと痙攣していた。  そこを満たすように、ゆっくりと挿入する。 「あ、あっ、あっ、……っ、ぅ……っ」  狭い。  熱い。  ひどく締め付けられる。  閉ざされた場所を掻き分けるように、ゆっくりと、でも確実に奥へ進む。  やがて一番奥まで、欲望を沈み込ませる。  互いの吐息が混ざる。  少しだけ動きを止める。  レオが息を整えるのを待って。  正面から。  レオの細い腰を両手でホールドする。  絶対に逃がさないように。  先ほどまでの丁寧な行為とは真逆。  強く、激しく。  容赦なくレオの甘い場所をガンガン突く。  引き抜かれては入れられる。 「あぁ……っ! んっ……ぁ……っ!あっあっ」  レオから切ない声が漏れる。  唇を強く噛んでいる。  我慢しようとしている。  でも、快感の波が勝つ。  甘い鳴き声が漏れ出てしまう。  ケントの両腕に必死に縋り付いてくる。  爪が腕に食い込む。  身を捩らせながら悶えるレオ。  乱れた前髪。  涙目の瞳。 「あっ!あぁっ……!ケント……っ、んぁ……っ!は、げしっ……あっ、んぁ、あ……!」  激しく突くたびに声が跳ね、声が上擦る。  限界が近いことを知らせるように、中がひどく脈打っている。  ケントも限界が近い。  でも。  いったん抜く。 「え……?」  レオが間抜けな声を出す。  潤んだ目で俺を見上げる。  欲求不満な顔。  ケントは無言のまま、レオの身体を反転させる。  うつ伏せに近い体勢。  後ろから再度の侵入。 「ぁあっ……!」  さっきよりも深い。  角度が変わる。  両腕を、背後からレオのお腹へ回す。  さっきよりもがっつりとホールドする。  強く引き寄せる。  レオの背中とケントの腹筋がぴったりとくっつく。  汗ばんだ肌と肌が密着する。 「あ、っあ!……っ、あっ……!これ……すき……っ」  うわ言のように、レオが言う。  とろけた声。  その言葉で、ケントの中の何かが切れた。  激しく。  何度も、奥を突く。 「あっ! んっ! あぁ……っ!あぁーーーっ」  我慢のかけらもない喘ぎ声。  切なく、激しく漏れる声。  腰の動きを止めることができない。  深く、激しく。  視界が真っ白に飛ぶ。  絶頂。  薄皮越しに、温かいものが注がれる感覚。  どくどくと、最奥に叩き込まれる。  熱い。  全身がとろけそうになる。  強烈な快感が、二人を同時に襲った。  荒い呼吸だけが部屋に響く。  重なったまま、動けない。  しばらくして、ゆっくりと体を離す。  レオがシーツに突っ伏す。  肩で息をしている。  ふと。  気付いたら、まただ。  レオの二の腕の内側、そこに、くっきりと赤い印があった。  行為の最中、無意識に吸い付いていたらしい。  レオもそれに気付く。 「あ」  ケントを睨む。 「また半袖、着られないじゃん」  少し怒っている。  でも、目は潤んだままだ。  ケントは声を出して笑った。 「うち、プールなくて良かったな」 「笑い事じゃないし」  むくれるレオ。  可愛い。  本当に可愛い。  深い満足感に浸る。  実は。  こっそりと、うなじにも印を付けておいたのだ。  後ろから抱きしめた、あの時。  髪の毛で隠れるか、隠れないかの絶妙な位置。  誰か気付くかな。  もし学校で誰かに見られたら。  レオが知ったら、さすがに本気で怒るかな。  でも。  それくらいは許してほしい。  レオが、誰かのものだって。  オレのものだって。  周りにアピールするくらいは。  オレだけのレオだ。  文句を言うレオの頭を優しく撫でながら、甘い余韻に身を委ねた。

ともだちにシェアしよう!