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第47話 好きすぎる
放課後の教室。
オレンジ色に染まった夕日が、窓ガラスを透かして机の列に長い影を落としていた。
遠くのグラウンドから微かに聞こえる部活動の掛け声。
時折、窓を揺らす生温かい風の音。
すっかり人が少なくなった教室。
レオは一人、残っていた課題と向き合っていた。
カリカリとシャープペンシルを走らせる音だけが響く静かな空間。
ようやく最後のページを終え、ふう、と小さく息を吐いて伸びをした。
そろそろ帰ろう。
そう思ってノートを閉じ、顔を上げたその時だった。
教室の前方のドアのところに、いつの間にかケントが立っていた。
夕日を背に受けて立つその姿に、レオは一瞬だけ目を瞬かせる。
いつからそこにいたのだろう。
「ケント……部活、終わったの?」
「うん。レオ、まだ残ってるかなと思って」
ゆっくりとした足取りで、ケントがレオの席へと近づいてくる。
そのままレオの前の席にどっかりと腰を下ろし、頬杖をついてじっとこちらを見つめてきた。
逆光気味で表情が少し読み取りづらかったが、その瞳がひどく優しい色をしていることだけは分かった。
「……なに?」
見つめられることに照れてしまい、レオが少しだけ視線を逸らすと。
ケントは、本当に突然、思い出したように口を開いた。
「いや……好きだな、って思って」
あまりにも唐突な言葉。
特別な雰囲気でも、ロマンチックなシチュエーションでもない、ただの放課後の教室。
それなのに、いや、だからこそ。
その飾らない真っ直ぐな言葉が、レオの胸の奥を激しく揺さぶった。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
「急に、なに言って……」
「いや、ふと思っただけ」
悪びれる様子もなく、ふわりと笑うケント。
恥ずかしくて顔から火が出そうだったけれど。
大好きな人から不意打ちで「好き」と言われるのは。
やっぱりどうしようもなく嬉しくて。
レオは赤くなった顔を隠すように、逃げるように鞄に荷物を詰め込んだ。
「……帰ろ」
「ん、帰ろ」
学校の門を抜け、家へと向かう帰り道。
二人は、ごく自然に肩を並べて歩いていた。
手が触れ合いそうな距離。時折、歩幅が合わずに肩と肩がぶつかる。
少し前まで、一緒に帰ることすら避けていた。
付き合っていることは、誰にも秘密だったから。
でも今は、みんな知ってしまった。
二人が恋人同士であることは、あっという間に広まった。
最初は、生きた心地がしなかった。
どうしよう。
冷やかされるかも知れない。
奇異の目で見られるかも知れない。
必死に隠してきたのに、すべてが水の泡になったと絶望しかけた。
けれど、現実は拍子抜けするほど穏やかだった。
友人たちは「なんだ、そうだったのか」と笑った。
周囲も少しの間だけ面白がって騒いだが、すぐにそれが二人の『日常』として受け入れられた。
そもそも、何でこんなに頑なに隠していたんだっけ。
考えれば考えるほど、理由は単純だった。
ただ、恥ずかしかったのだ。
付き合っているという事実が、バレた時の周囲の反応が怖くて。
勝手に想像の中で巨大な敵を作り上げて。
一人で怯えていただけだった。
「……なんか、いいな」
隣を歩くケントが、ぽつりと呟いた。
「こうやって、堂々と一緒に帰れるの」
「……うん」
想定外の出来事だったけれど、悪いことばかりじゃなかった。
夕焼け空の下、ケントの横顔を見上げながら、レオは心からそう思った。
夜。
ケントの部屋は、間接照明の柔らかな光に包まれていた。
ベッドの上。
シャワーを浴び終え、清潔なパジャマに身を包んだ二人。
シーツの上で向かい合うようにして寝転んでいた。
ケントの大きな手が、レオのまだ少し湿り気を帯びた髪を、優しく、愛おしむように撫でている。
その心地よいリズムに、レオはとろんとした目を細めた。
「……レオ」
静かな声で名前を呼ばれ、視線を合わせる。
ケントの瞳は、昼間の教室で見せたような軽いものではなかった。
深く、真剣な熱を帯びている。
「レオ、大好き」
真っ直ぐな言葉が、静かな部屋に落ちる。
「好きすぎて、どうにかなるくらい」
「ケント……」
ただの欲望や勢いではなく、魂の底から湧き上がるような純粋な愛情。
それが痛いほど伝わってきて、レオの胸がぎゅっと締め付けられる。
恥ずかしさと、それを遥かに凌駕する幸福感。
レオは、シーツをぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしながらも、しっかりとケントの目を見つめ返した。
「……おれ、も……」
震える声で、一生懸命に言葉を紡ぐ。
「おれも、ケントのこと……大好き」
「うん」
「……おれの全部、ケントにあげたいくらい」
その瞬間、ケントの瞳の中に、抑えきれない獣のような仄暗い火が灯ったのが分かった。
「……じゃあ、今から全部もらう」
低い、掠れた声。
次の瞬間、レオの視界はぐるりと反転し、ケントの大きな身体にすっぽりと覆い被さられていた。
「んっ……ぁ、ふ……っ」
有無を言わさぬ、深いキス。
唇が重なり、舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。
チュッ、ジュルリと、卑猥な水音が部屋の空気を一気に淫らなものへと変えていく。
息継ぎの隙間すら与えられないほどの濃厚な口付け。
「は、ぁ……んっ、ぁ……けんと、ぉっ……」
口が離れたかと思うと、ケントの唇はレオの顔中を這い回った。
おでこ、まぶた、頬、耳たぶ。
「あっ、ん、そこ……くすぐったい、っ……ぁ……」
優しく啄むようなキスから、徐々に熱を帯びた執拗な愛撫へと変わっていく。
首筋に顔を埋められ、強く吸われる。
ちゅっ、と音を立てて赤いキスマークが刻まれるたび。
レオの背筋を電流のような快感が突き抜けた。
ケントの手が、レオのパジャマのボタンを乱暴に外し、前を大きくはだけさせる。
露わになった白い胸元。
いまだに初々しい綺麗な桜色をした突起。
ケントの熱い舌が這う。
「ひゃ、あ……っ! ん、んんっ……!」
ちゅぱ、じゅぷっ。
わざと、いやらしい水音を立てながら、舌先で転がし、軽く歯を立てて甘噛みする。
「あ、だめ、そこっ……ああっ! 音、恥ずかし、い……っ」
「すげー綺麗」
ケントに弄り倒された突起。
みるみるうちに充血し、硬く尖って鮮やかな赤色へと染まっていった。
胸を弄られながら。
鎖骨からおへそ、そして足の付け根。
ケントの唇がじわじわと降りていく。
さらには、足の指先にまで丁寧にキスを落とされる。
レオは羞恥と快感で頭がおかしくなりそうだった。
「あっ、あ、んっ……けんとぉ……っ」
パジャマのズボンの上からでも分かるほど。
レオの自身はすでに限界まで膨れ上がり、苦しそうに布地を押し上げていた。
ケントの手がズボンの中に侵入し、熱を持ったそれを外へと解放する。
使い込まれていない、淡く綺麗な色をしたペニス。
先端から、すでに透明な先走りの蜜がとめどなく溢れ出し、とろとろに濡れそぼっていた。
「……こんなになってる。エロすぎだろ」
こんなにもだらしなく、淫らな姿になっていること。
世界中でレオ本人と、目の前にいるケントしか知らない。
その圧倒的な特別感が、レオの理性をさらに削り取っていく。
ケントの指先が、たっぷりとゼリーを絡ませて、後ろの蕾へと触れた。
そこもまた、すでに先走りが伝って濡れていた。
何かを欲しがるようにヒクヒクと微細な痙攣を繰り返す。
綺麗な薄紅色の粘膜。
「力、抜いて……」
囁きと共に、ゆっくりと指が侵入してくる。
「あ、っ……んぅっ……! は、あ……っ」
声を我慢しようと必死に下唇を噛むレオ。
内側の最も敏感な場所を的確に撫でられるたび。
どうしても切ない声が漏れ出てしまう。
「あ、だめぇ……っ! そこっ、あっ、ああっ! けんとぉ、っ!」
指が増え、内部を掻き回される。
とろとろに解され、ケントを受け入れる準備を完全に終えていた。
ケント自身もとっくに限界を迎えていることは、レオにも分かっていた。
レオの太ももに当たる、ケントの下半身の熱。
痛いほどに猛り、下着を内側から突き上げているのがはっきりと伝わってくる。
「……ケントも、限界……でしょ?」
「……早く、中に挿れたい」
余裕のない、熱を帯びた声。
ケントが自らの下着を乱暴に下ろす。
圧倒的な存在感を放つ、雄の象徴が顔を出した。
痛いほどに反り返り、浮き出た血管が脈打つ。
それを見て、レオは少しだけ顔を赤らめながらも、自ら足を大きく広げ、彼を招き入れた。
「……はやく、きて」
その一言が、最後の引き金だった。
「っ、レオ……!」
一気に、最奥まで突き入れられる。
「あ、ぁあ……あっ! けんと、ぉ……っ、あ、あ、っ!」
そこからはもう、言葉なんて必要なかった。
ただ互いの熱を、存在を、暴力的なまでの快楽を通して確かめ合うだけの、獣のような交わり。
余裕なんて一切ない。
「あ、っ、あっ! すご、い、おくっ、あぁっ!」
「レオ、すげえ熱い……っ」
レオの切なく甘い喘ぎ声と、ケントの低く荒い吐息。
肌と肌が激しくぶつかり合う打撃音。
粘膜が擦れ、泡立つような卑猥な水音。
それらすべてが混ざり合い、部屋の中は異様なほどの熱気に包まれていた。
「あ、いくっ、けんとっ、おれ、も……っ! ああぁっ!」
絶頂の波が二人を飲み込む。
けれど、それは終わりではなく、長い夜の始まりに過ぎなかった。
果ててもなお、熱は冷めやらない。
一度ゴムを外し、新しいものを着けては、再び深く繋がる。
「あ、だめ、またっ……あ、あ、ぁああっ!」
「もっと……全部、オレに頂戴……っ」
激しいピストン、終わりのない快楽の連続。
理性は完全に吹き飛び、ただ本能のままにお互いを貪り食うように交わり続けた。
無数の使用済みのゴムの残骸が、ベッドの脇の床に散らばっていく。
この夜の行為の激しさと狂気を物語っていた。
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む眩しい朝日で、レオは重い瞼をゆっくりと押し上げた。
「……ん、ぁ……」
声を出そうとしたが、喉が掠れてひどい音しか出なかった。
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
指一本動かすのすら億劫なほどへとへとだ。
腰から下は、自分の身体じゃないみたいに重くだるい。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ、身体の芯からじんわりと温かいもので満たされているような。
そんな極上の心地よさに包まれていた。
「……起きた?」
横から聞こえた優しい声。
見上げると、すでに目を覚ましていたケントが、愛おしそうにレオを見下ろしていた。
「……ん。おはよ……」
「おはよ。身体、動く?」
「……うごかない」
正直に答えると、ケントは苦笑してレオの額にチュッとキスをした。
「ごめん、やりすぎた。……シャワー、一緒に入ろ」
半分眠ったような状態のまま、ケントに抱き抱えられてバスルームへ。
温かいお湯が全身を包み込み、ケントの手によって優しく汗と汚れが洗い流されていく。
その心地よさに、レオはまたうとうとしてしまった。
シャワーを終え、再びベッドの端に座らされる。
ケントが後ろから、ドライヤーでレオの髪を乾かし始めてくれた。
ブォーという温かい風の音と、髪を梳くケントの大きな手の感触。
時折、うなじに触れる指先が優しくて、胸の奥がきゅんと鳴る。
(……好きだなぁ)
ドライヤーの音に紛れて、レオは心の中でそっと呟いた。
全部知られてもいい。
誰に何と言われようと、この温もりがあれば、もう何も怖くない。
「……レオ?」
「んーん、なんでもない」
ケントの手が動きを止めてこちらを覗き込んできたので、レオはふわりと笑って首を横に振った。
――好き。大好き。
何度も、何度も。
心の中で、その言葉を反芻しながら。
レオはケントの温かい体温に、再びゆっくりと身を委ねたのだった。
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