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第49話 禁欲生活の始まり

 十一月。  木枯らしが吹き始める季節。  受験生にとって、いよいよ本格的な追い込みが始まる時期だ。  机の上には過去問の束。  使い慣れた、手垢のついた参考書。  ボロボロになった単語帳。  この時期、新しい教材には基本、手を出さない。  今まで培ってきた知識を、ひたすら定着させる。  それが受験の鉄則だ。  レオもケントも、その例外ではない。    放課後も、休日も。  二人は並んで、ただひたすらに机に向かっていた。  焦りが心を支配する。  時間だけが残酷に過ぎていく。  それでも、隣にいる恋人の存在が、互いの支えになっていた。  ある夜のこと。  二人きりの部屋。  ベッドの上。  オレンジ色の間接照明が、部屋を柔らかく照らしている。  参考書を閉じ、一息ついた時間。  自然な流れで、唇が重なる。  深く、甘い口付け。触れ合う体温。  今から、そういう行為をする雰囲気になる。  ケントの手が、レオの服の中に滑り込む。  滑らかな肌を撫でる。    けれど。  レオの様子が、いつもと違った。  どこか上の空というか、身体が硬い。   「……具合悪い?」    ケントは手を止め、優しく尋ねた。  レオは小さく首を横に振る。   「体調は、大丈夫。ただ……」    言い淀む。  少し考えて、ためらうようにレオが口を開いた。   「受験が終わるまでは、勉強に集中したくて」    申し訳なさそうな声だった。  目は伏せられている。  照明の下、長く綺麗なまつ毛が震えているのがよく見えた。  見惚れるほど美しい。  いや、今はそれどころじゃない。  ケントの頭が、その言葉の意味をゆっくりと理解する。  気持ちは、痛いほどわかる。  二人の将来のためだ。  絶対的に、レオの言うことが正しい。  反論の余地なんてない。    でも。  健全な男子高校生として。  これから三ヶ月も、この大好きな恋人と行為が出来ないなんて。  それはあまりにも、過酷な宣告だった。  頭の中で、理性と欲望が激しくせめぎ合う。  レオの将来。  オレの我慢。  静寂が降りる。   「……わかった」    ケントは、必死にその言葉を捻り出した。  喉の奥がカラカラだった。  レオが、ほっとしたように顔を上げる。  その顔があまりにも可愛くて。  ケントは、どうしても諦めきれずに尋ねた。   「今日は、まだセーフ?」   すると、レオは少し頬を赤くして。 小さく、こくりと頷いた。   「うん」    そして、上目遣いでケントを見る。   「だから……今日は、いっぱいしよ」    その瞬間だった。  ケントの中で、何かが切れる音がした。  太い理性の糸が、音を立てて崩れ去った。  もう、我慢なんてしない。  ケントは自らのズボンを乱暴に下ろした。  熱く猛ったものを、外へ解き放つ。  レオの右手を取る。  そっと、自分の中心へと導いた。   「……このかたち、忘れないで」    低い、熱を帯びた声。  レオは顔を真っ赤に染めた。  恥ずかしそうに、けれど愛おしそうに。  ケントの熱いかたちを確かめるように、ゆっくりと愛撫する。   「あっ……ん、ぅ……」    レオの口から、甘い吐息が漏れる。  先端からは、すでに透明な液体が溢れていた。  手のひらと擦れ、くちゅくちゅと卑猥な音を立てる。  同時に、ケントの手も動く。  レオの後ろの、柔らかい蕾へと指を這わせた。  たっぷりとゼリーを絡める。  手前も、奥も。  レオが一番喜ぶ場所を知り尽くしている。  指の腹を使って、丁寧に、執拗に解していく。   「んっ……ぁ、あ……っ! けんと、ぉっ……」    声を我慢しようと、レオが唇を噛む。  でも、快感には抗えない。  甘く切ない声が、隙間から漏れ出てしまう。   「いいよ、レオ。もっと声聞かせて」 「あ、だめぇ……そこ、あっ、ああっ……!」    レオの蕾が、とろとろに開花する。  受け入れる準備は完全に整った。  その頃には、ケントの欲望もすっかり反り返っていた。  首の部分までパンパンに張り詰めている。  急いでゴムを着ける。  もう、一秒だって待てなかった。  そこからは、何度もレオと交わった。  まずは、正面から。  ゆっくりと、けれど一番深いところまで沈み込む。   「あーーっ! あ、……っ、ああ……っ!」    レオが、甘くて可愛い声を張り上げる。   「すごい……っ、きもち、いい……っ」    無意識に漏れる喘ぎ声。  それが、ケントの欲望をさらに激しく駆り立てる。  ケントの腰が、力強く打ち付けられる。  肌と肌が激しくぶつかる音。  レオの胸元。  いまだ初々しい桜色の突起を、ケントの指が軽く抓る。   「ぁ……っ!?」    レオの身体が、弓なりに大きく撓った。  全身が恐ろしいほど敏感になっている。  どんな些細な刺激も、レオの脳髄を焼き切るようだった。   「あ、あ、……だめぇ……っ! いく……っ、い……っ!」 「オレも……っ、レオ、一緒に……っ!」    深い場所で、激しく果てる。  レオの先端からも、白濁液がとろとろと止めどなく溢れ出した。  穏やかで、優しい射精。  それが、レオの白い腹をいやらしく、美しく装飾していく。  一度では、到底足りない。  今日を逃せば、三ヶ月もお預けなのだ。  ケントはすぐにゴムを替えた。  今度は、後ろから。  レオの腰を高く上げさせる。  さっきまで使っていた使用済みのゴム。  端を結わって、わざとレオの視界に入る枕元にポンと投げ捨てた。  それだけで、レオの顔がさらに赤くなる。  背後から、再び深く突き入れる。   「あ、っ! あ……あっ! けんと……っ!」    激しく肌がぶつかる音が、部屋中に響き渡る。  容赦のないピストン。  再び、圧倒的な高みへと引き上げられる。   「だめ……っ、あ、す……ごいっ、……ァっ!」    可愛い声で、小鳥のように鳴くレオ。  ケントは、ふと意地悪な気持ちになった。   「……だめなの?」    わざと、一番いいところで腰の動きをピタリと止める。   「えっ……あ、んぅ……?」    急に快感を止められ、レオが身悶えする。  振り返ったその瞳には、いっぱいの涙が浮かんでいた。   「きもちよすぎて……だめに、なっちゃう……っ」    切実な声だった。  ケントは口角を上げる。   「じゃあ、えっちがダメなわけじゃないんだ?」 「あ……っ、いじわる……っ」    わかってるくせに。  レオが、少しだけ恨めしそうにケントを睨む。  その顔もたまらなくそそられた。   「ごめん、嘘」   ケントは再び、激しく腰の動きを再開する。   「あ、ぁああっ! やっ……、あ、ああ……っ!」    激しい動きに、レオはあっさりと陥落した。  シーツを強く握りしめる。   「あ、いくっ、いく……っ、けん……と……っ!」    可愛く鳴いて、再び絶頂を迎える。  レオの先端からは、またしても白濁がとろとろと溢れ落ちる。  止めどなく。  ベッドのシーツに、小さな水たまりを作っていく。  まるで、ずっと長く射精し続けているような不思議な感覚。  意識が真っ白に飛ぶ。  それでも、ケントの激しい動きは止まらない。  すぐにまた、大きくて強烈な快感の波が押し寄せてくる。   「あ、……っ! も、……むりっ、あ、あぁ……ぁっ!」  その夜。  二人が止まることは、朝までなかった。  何度も交わり、何度も果てた。  外の空気が白み始める頃。  ベッドの上には、いくつものゴムの残骸が散乱していた。  レオは、気怠い身体でその残骸をぼんやりと眺める。  激しすぎた夜の証。  腰が砕けそうに痛い。  でも。  恋人の、不器用で重たい愛。  それを全身で、再び深く確認することができた。  心の中は、ひどく満たされていた。  今日から、三ヶ月。  長い長い禁欲生活が始まる。  正直、ケントに我慢できる自信は全くない。  おそらく、レオの可愛い声や蕩けた顔を想い出しながら。  何度も、何度も自分で自分を慰める、惨めな夜になるはずだ。  ため息が出そうになる。    でも。  大好きな恋人が、自分の将来のために必死に頑張るのだ。  それを応援しない男には、なりたくない。  少しの間の辛抱だ。    レオの寝顔を横目で見つめる。  疲労でぐっすりと眠っている。  その額に、そっと優しいキスを落とした。  二人の受験が終わる日。  思い切り抱きしめ合える、その日まで。  春が来るのが、今からひどく待ち遠しかった。

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