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第3話 よくある朝の光景
小鳥のさえずる爽やかな朝。ユオシェンは、トイレの便器とお友達になっていた。
「うぉ、ぇ……げぇ………」
便器を抱えた状態で朝を迎え、二日酔いから来る吐き気と頭痛のままに、時折せり上がってくる胃液と戦う時間。
そんな不毛な戦場に割って入ったのは、寝間着姿のシイナだった。
「またやってんのか、馬鹿ハニー」
「……はぁい、ダーリン。朝からハニーのかっこ悪いとこ見て興奮しちゃった?」
「いや、全く。トイレ使うからちょっと退け」
「待って、また吐きそうな波来たからっ、……げぇおっ…………」
いかに愛する人の出す声だとしても聞くに堪えない音が響き、シイナは一度うんざりした顔で去っていくと、水なしで服用できる吐き気止めを持って戻ってきた。
「ほら、これ飲んで今日は寝てろ。ったく、安酒のチャンポンは悪酔いするってあれだけ言っておいただろうが」
「だってぇ……なんか頭痛くて、飲んで忘れたかったんだよぉ」
めそめそしながらそう主張するユオシェンに、シイナは一瞬黙り込み、それを誤魔化すように彼の頭をガシガシと撫で回した。
「頭痛が酒で解決するかよ、バーカ。どうせオナりすぎて脱水にでもなったんだろ」
「昨日はオナってねーし! 夜抱いてくれるから我慢しよーって待ってたのに、お前がなかなか帰ってこないからイライラして頭痛くなったの! つまりダーリンのせい!」
「はいはい、機嫌直してくれよ、マイハニー」
目の端に軽くキスをして誤魔化すと、ユオシェンは悔しそうに顔を赤らめながらリビングへと去っていった。それを見送り、シイナは洗面所の鏡の前に立って、すっと表情を消す。
「……まだ、大丈夫のはずだ」
鏡の中の己をにらみつけるように陰鬱に呟く。リビングの方から、ユオシェンの能天気な声が聞こえてきた。
「ダーリン~! 朝飯はハムエッグでいいか~?」
「はぁ……薬飲んで寝てろって言っただろうが! この二日酔い!」
マイナスな感情を悟らせないよう日常の顔を貼り付け、シイナはリビングへと戻っていく。
数十分後、身支度を終えたシイナを、玄関でユオシェンは見送っていた。
「いってらっしゃい、ダーリン♡」
「ああ。今日は早めに帰るからイイコにしてるんだぞ?」
「任せとけよ。ダラダラすることにかけては俺はプロと言っていいんだぜ?」
「はいはい、プロのヒモとしての意識が高いんだな」
「まあねっ、俺ってヒモになるために生まれてきたんだしぃ」
「……そうだな」
曇りかけた内心を誤魔化すように、シイナはユオシェンにキスをする。ユオシェンはよく懐いた大型犬のようにそれを笑顔で受け入れ、そのままシーナは外出していった。
玄関のドアが閉まり、オートロックの施錠音がやけに大きく響く。ユオシェンはくるりとターンをすると、早朝よりはマシな足取りでリビングへと向かい始めた。
「さーてとっ、今日は何をしようかなっと」
独り言を言いながらソファに座り、テレビをつける。画面に面白いかどうか微妙なラインの情報番組が流れ始め、ユオシェンはそれをなんとなく眺めながら、買いためてあったチップスを摘まんだ。
毒にも薬にもならないどうでもいい内容を垂れ流すテレビの音を子守歌に、ユオシェンの意識はやがて微睡み始める。
朝日は徐々に上へと昇り、麗らかな日差しが窓から差し込んできてユオシェンの体を照らす。空調によって部屋の温度も湿度も快適に保たれており、寝転んでいるソファも自分とシイナがこまめに掃除をしているので清潔だ。
本当に平和だ。ちょっと前の自分ならこんな時間――
「ッ、い、っづぅ………!」
突然、頭に刺すような痛みが走り、眠りの淵に落ち始めていた意識が引き戻される。
ズキズキと脈打つ痛みに頭を押さえながら、ユオシェンは立ち上がった。
「たしか、頭痛薬がここにっ……」
以前、シイナに教えられた場所を探すと、市販の頭痛薬が一箱見つかった。あまりの痛みにそれを全て飲み干してしまいたい衝動に駆られたが、何とか理性で踏みとどまり、ユオシェンは規定量の錠剤を水で流し込む。
そのまま床で丸くなってじっとしていると、薬が効いてきたのか頭痛の波は去っていった。
「はぁ……。なんか嫌な気分!」
不快感を口に出すことで若干発散し、ユオシェンは一日の残りの過ごし方を考え始める。
愛するダーリンさえ帰ってくれば、この頭のモヤモヤは晴れて、昨日お預けで終わったセックスもできる。でも、今の気分じゃテレビを楽しむ気にはなれないし、外出も何か違う。他にやることといえば、家事か寝るかそれとも――
ふと首を巡らせると、部屋の隅に真新しい段ボールが数箱転がっていた。二人で一緒にカタログサイトを見て選んだ『そういう』玩具の詰め合わせボックスだ。
「……愛するハニーが据え膳で出迎えてくれるって、ダーリンめっちゃ喜んでくれるんじゃね?」
ぽつりと口にしたアイディアは、世界一の名案のような響きで耳へと到達し、ユオシェンはにんまりと笑って段ボールへと歩み寄っていった。
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