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第五夜 White Christmas
ぬめりのある水音と自分の口から漏れる声だけが静寂を満たしている。
同じ箇所を淡々と愛撫され続けてもうどれくらいになるんだろう。男の泣き所とも言うらしいそこを長い指先が緩やかに突き、擦り、連動して前の昂ぶりからは堪えきれない雫が落ちる。
膝立ちであいつの足を跨ぐようにして向かい合っている俺は、もう片方の手と口で胸の突起を攻められながら、両手を肩に載せてされるがままになっていた。
「──そこ、別に感じねえって……言ってんの、に。ふっ……く、」
「いいの。好きにさせろよ」
くすぐったいと痛いの間くらいの力加減で甘噛みされ、その間も後ろへの刺激は単調だ。気持ちいいのにイケない俺は、ただ熱い息を吐きながらこいつの気が済むのを待つ以外にない。どうせまた何か腹黒い計画でもあるんだろう。
とはいえ、そろそろ飽きてきたのか後ろから指が抜かれてそのまま後ろにひっくり返される。
物足りなさに切なく揺れる俺の昂ぶりはずっと放置されたまま、それでも後ろへの刺激で頭の奥の方がじんと痺れて色々考えるのは億劫だった。
ウォルターが俺の脚を抱え上げようやく──と思ったら、そのまま少しかがんで足の付け根の辺りに唇と舌を這わせてきた。
「あっ……はっ」
ビクンと腰が跳ねて更に前が硬くなり反り返る。そこも弱い部分だというのはこいつに知らしめられている。
肝心な部分を放っといたまま、下肢を丹念に調べ上げるように愛撫され、俺はひたすら息を弾ませ腰をくねらせて逃れようとしたが、それが本気の抵抗でないのも判りきっているあいつは足首を握って離そうとしない。そのまま指を咥えて間に舌を這わされ、俺は更に高い声をあげた。
「やっ、も……んなとこ」
「やだ。こういうトコ感じる浩司艶っぽ過ぎて」
見せ付けるようにちゅぽんと音を立てて口を離し、開いた唇から伸びた舌が俺の足の指の間を舐めあげていく。勿論事前に一緒に入浴しているし綺麗なはずだけど、それでもいつも地面を踏んでいて靴に収まっているパーツが人の口に入っているのかと思うだけでいたたまれない。
自分が女に施すことはあってもされたことなど勿論こいつが初めてで、こそばゆさも含めてその快感に体全体で反応してしまう。
実は今夜はクリスマス・イブだ。矢部も本当は一晩中一緒に過ごしたかったらしいが、流石にそれは断り、いつもよりちょっとお洒落なディナーとプレゼントで満足してくれた。
ウォルターの方は恋人と過ごすのかと思えば、そういう世間一般で特別とされている日は意識して会わないようにしているらしく、暇だったのかいつもより豪勢な夜食を食べさせてもらった。
その代わりといってはなんだが……こうやって気の済むように体を任せているわけだ。
「あっ」
いきなり跡が残るほど太腿の付け根を吸われて悶える。
「今何か余所事考えてただろ」
音を立てて連続で跡を付けられ、息が弾む。
「んなこと、ねえ、よ」
「そうかなあ」
今度はくるりと体を反転させられて、尻の下の方から、肌に触れるか触れないかの手の平での愛撫。俺はこれに凄く弱い。切なく吐息しながら、崩れそうになる体を腕だけで支えた。
唇と舌が背筋を伝って上にやってくる。焦らされまくってもうどうにかなりそうだった。
「なあ、ショーコに何プレゼントしたの?」
耳の中に落とし込まれるバリトン。悲鳴を噛み殺しながら、
「ビーンズの、ネックレス」
と答える。
「オープンハート、欲しがってたけど……流石にそれは」
舌先が差し込まれてピチャピチャと音を立てられ、喘ぎながら腕を折った。
「ふーん? いいのか? 形に残るものにしちゃって」
「ふっ、んんっ──結果がどうでも、大事にするからって、さ……あっ」
耳の中に話し掛けるの止めて欲しい。ホント、力が入んねえ……。
「へえ」
囁くように吐息と共に柔らかく舐め上げこじ入れ、唇で覆い吸い上げられる。その度にびくびくと反応する体を楽しみながら、大きな手の平がようやく中心を包み込んだ。
「んっ」
すっかり硬くなっているそこを、先端から漏れる雫を撫で付けながらしごかれて、もうすぐにでもイキそうだった。
大抵何回かは先にいかせてくれるのに、何故だか今夜の焦らしは執拗だ。いつもよりアルコールの摂取量が少ないので思考がはっきりしている分だけ、自分だけがいいように弄ばれているのが堪らなく恥ずかしい。
こっちから何かするのは禁止されていて、実験なんだか観察されているんだか、俺にとっては羞恥プレイの極みだった。
けれど、今度こそ出させてくれると思った手の動きも止まり、先端から溢れる透明な雫を後孔になすりつけながらまた指が侵入してくる。
「ん……ふっ、く」
もう十分に解れていて、今までなら挿入している頃だ。なんなんだ今日は……。
「たまんねえな、浩司」
少し下卑た調子で、エロい声が外耳をくすぐる。それだけで自然に背中が反り返り全身が震えた。指が中にあるまままた仰向けにされて、互いに視線を絡ませる。
うっとりしているお前の顔好きだよ……。艶然って表現がぴったりくる。
これでホストにでもなった日にゃあ、あっという間にトップ間違いなしだ。けど、何の因果かこんなとこで俺とスキンシップしてるという。まあ、お互いに女とのセックスとは全く別と割り切って、本当にリラックスしてやってるんだからしょうがない。
こんだけ焦らされてこいつだけ萎えてるってんなら俺もがっかりだけど、モノはしっかり勃ってて腰の動きだけで俺のと擦り合わせるようにされる。カリと裏筋がいい感じに刺激になって、ますます吐息が熱くなってくる。
「っは……んんっ、あっ」
「いい? 浩司」
「ん、いいよ……けど、いい加減イキてえ……」
「そうだなあ~」
にまーって感じにウォルターは唇の端を引いて笑い、膝を思い切り開かれて腰の下に自分の膝を入れてきた。
「え?」
そんなんされたら思いっきり見えるじゃんか! いや勿論今までも散々見られてるし今更だけど、見られてることを自分の視界に確認するってのはまた格別の恥ずかしさがあってだな!
指で中をくちゅくちゅと弄くりながら、端正な顔が下りて舌先が皺を伸ばすように孔の周りを舐めていく。
ぐっ! 官能的過ぎるっつうか、本来排出するための場所にそんな綺麗なもんが近付けられているっていうだけで裸足のまま逃げ出したくなるんだけど!
不自然な体勢で息苦しいのもあったけど、そんな事どうでも良くなるくらい視覚からの刺激が強すぎて一瞬目の前が白くなった。
──イった? と思ったら所謂空イキだったらしい。
「今、中がキュッてなった。良かったんだ……?」
意地悪気に言われても、どうしようもない。
「って、こんだけ時間掛けといて一回もイカせてくれねえなんて」
恨みがましく睨みつけてみる。いつもより迫力はねえかも……つか、こんな格好させられてちゃ威厳も尊厳もなんもない。
「んー……色々試したいのもあるし、俺だって我慢してるんだけど? これでも」
「知るかくそっ、我慢すんなっ」
しゃべりながらも太腿の柔らかい部分を吸われたり舐められたりで、内腿がぷるぷると震えた。それに合わせて股間のものも切なく揺れている。
うー、出してえ……!
「はいはい。じゃあもうちょっとこう、挿れたくなるように言ってみて?」
「うっ──」
きたー……。女に対しては絶対やらないだろうこいつのサドっぷりひでえ。俺がそういうの一番苦手なの解りきってて言うんだから始末に悪い。
ちゅうっと音を立ててから甘噛みし、さらに舐めながら袋の近くまで来たかと思うとまた後ろに去って行く。片方の手の平は臀部を撫で続け、もう片手で中をいじられて、それでもずっと竿の部分だけは放っておかれて宙に浮いた足の指先までが物足りなさに悶えるように震えた。
「──お願っ……もう、いれて……突いて、お前の、大きいのでっ」
恥辱にも震えながら、何とか口にした。悔しさと恥ずかしさで涙が滲んでくる。
「んー……ま、いっか。その表情に免じて」
表情? 自分の顔なんか見えるわけねえんだから、どんななんだか知りようもない。けど赤くなってんのだけは確実だろうな……。
腿を支えたまま膝が下がったかと思うと、突っ込んでいた指もそのままに滑らかな先端のものが侵入を開始する。
「あ、んあ、ひっ……ああ、んんっ」
判っていても、どんなに解されていてもその圧倒的な質量に貫かれ受け入れるのには躊躇する。
純粋な痛みではなく、自尊心を傷つけられると言えばいいのか──それでも慣らされた体は受け入れようと中で蠢く。
すっかり収めてから根元まで密着した状態で揺さぶられると、また喘ぎ声が漏れた。
「いいね……そそられる」
「ん、くっ」
今でもいっぱいいっぱいなのに、抜かれた指の分まで満たす勢いで中のものが大きくなる。
こんの反則級のデカチンめ! 外国人って皆こんななのかー!? 確かめたくもねえけどっ。
徐々に激しくなる動きに合わせ、漏れる声も大きく熱くなっていく。我慢しても漏れちまうし、声出してた方がこいつも早くイってくれるみたいだし、そういう意味のない我慢はしないことにしている。
こいつは俺の声や表情で欲情するみたいだけど、俺だってしてないわけないんだぜ?
今だってこうやって向かい合っていると、腰の奥の方がずくんと疼く。物理的にもだけど──それだけじゃなくて。
カーテンの隙間から漏れる白い明かりに、元々俺たちとは基本的に違う白さの肌がぼうっと浮かび上がって、それが上気して頬とか桜色に染まるさまは本当に綺麗だ。プラチナブロンドがしっとりと汗で額に張り付いたり、こめかみを伝う汗も僅かに開いた唇も、そこから時折漏れる呻き声みたいな低音もなんだか艶めかしくて色っぽい。
そういうの絶対口には出さないけど。
感じてる──そんな顔させてるの、俺なんだよなって思うと、得体の知れない何かが更なる熱を呼び覚ます。
「──んんっ、もうっ」
「いいぜ……イけよ」
舌先をちらりと覗かせて唇の端を舐める仕草が堪らなくて、そのまま自身を開放する。臍の辺りに一瞬熱いものが飛び散り直に体温と同化してしまう。ウォルターの動きは変わらず、少し引いてから泣き所を突かれ、悲鳴にも似た声を上げて腰が跳ねる。
「ひっ──ん、やっ……」
あっと言う間に復活した先から、動きに合わせてぽたぽたと飛び散る液体。軽くイキっぱなし状態とでも言えばよいのか、気持ち良いを通り越して結構辛い──んだけど。
喘いでいる俺を見下ろすウォルターの顔がまた恍惚としていて色っぽくて、ついつい見惚れてしまう。
ようやく両腕をベッドに突くと、屈み込んで唇を合わせてきた。体がそんなに柔らかいわけではない俺にとっては厳しい姿勢なんだけど、貪るように舌を絡めあう。じゃねえとなかなかイってくんねえし。
ちゅくちゅくと湿った音を立てて口内を犯し合いながらも、互いに視線は外さない。どうだよ? そろそろイクだろ? って如何に相手を気持ち良くさせられるか確認している感じ。
ああ──でもまた俺の方が先にイきそうかも。
「一緒に……」
それだけ言って、腰を押し付けながら肩に手を伸ばした。
少しだけ目を見張って、ふわりと笑みが浮かぶ。
「んじゃ、もっといい声で啼いて?」
いつものように外耳から囁きを落とし込まれ、明らかな目的を持って侵入して来た舌先に翻弄され、俺は全身を戦慄かせながら喉を晒した。やがてやってきた絶頂に合わせて締め付ける内部に搾り取られるように、ウォルターも精を放った。
一瞬また意識を手放していたんだろう。唇をついばまれて目を開けた。
なんかホント……ここまで全身でどっぷり浸かっちまうセックスなんてこいつとしかしたことなくて……それは単純に挿入される方だからなのかもしれないけど、翌日まで残るような濃さって凄いよなと思ってしまう。
それとも好き合っているカップルって皆、そんなに目一杯やってんだろうか。わかんねえけど。
つらつらと考えている俺の体を、いつの間にか用意してきている温かいタオルでウォルターが拭いてくれている。最初はぐったりしていたし、それ以降もやっぱり意識は朦朧としているしでもうはなから恥ずかしいとか感じていない。
なんなんだかなー……。こんだけ気ぃ遣われたら女ならころっといくだろうな。
ふと、先刻ウォルターに当たっていた光の筋が気になり、遮光カーテンを開けてみた。ベッド脇の腰高窓の方だけど、月の光がいくら冴えていてもちょっと明るすぎるだろうと思ったんだ。
「あ……積もってる」
しんしんと音も無く降り続けるぼた雪が、庭の木々と芝生を白銀に染めていた。来る時は全然そんな気配はなかったってのに……明日帰るとき大変だな、こりゃ。
現実的なことを考えている間にからりと掃き出し窓の方が開いて、冷たい空気が流れ込んで来た。
見ると、スウェットの上下にサンダル履きでふらりとウォルターが庭に下りるところだった。
「おい、んな格好じゃ風邪引くぞ!」
声を掛けたものの、未だ素っ裸の俺はごそごそと布団を被って自分の体温を失わない方を優先してしまう。
せめて窓閉めといてくれたらなーと思いながら、ダウンの掛け布団を巻きつけてベッドから降りた。
庭では、軽く手の平を上に向けて、真上を見上げて黙ってウォルターが立ち尽くしていた。
「どうかしたのか?」
大きいものは一センチもあるだろう雪片が、もう既に髪といわず肩といわず降り積もっている。
冷たくないのか?
「──凄いな、これが雪か……」
こっちからは背中しか見えないけど、物音の無くなった世界であいつの声が耳に届いた。
その言葉で唐突に思い出す。本物の海を見たことが無いと言って海に連れて行かれたこと。台風も初めて経験したとかで興奮してたっけ。
「そっか、雪も初めてなのか」
確かに俺たちの住んでいる襟川町はとても温暖で、雪だって年に一度積もれば良い方だ。高校から編入してきたウォルターにとって、去年ちらつく程度だった粉雪とこのボタ雪じゃあ雲泥の差なんだろう。俺だって餓鬼の頃は毎年雪が積もるの楽しみにして大はしゃぎしてたもんな。
とはいえ、あの格好のまま放っとくわけにも行かない。俺はクローゼットまで引き返して勝手に中を漁るとバスローブを拝借して自分が着てから、何か上に着るものはないか探す。コートツリーのジャケット類はカシミヤだ。濡らすのはあんまりだろう。なんかもうちっとナイロンとか安いのねえのかよ……。
ああもうこの際だからダウンジャケットでいいや。一つしかねえけど……。
ちょっとだけ考えて、それを手に庭に下りる。ぱたぱたと頭から下へ全部雪を払い落としてから、背中越しにウォルターの前からジャケットを体に巻きつけた。つまり二人羽織の逆バージョンみたいな感じで。
「──浩司、なんかこれっておかしくない?」
呆けていたウォルターもようやく現実に戻ってきたようだ。
「仕方ねえだろ。他に持ち出せるもん見当たらんかったし」
変な格好なのは確かだけど、真夜中だし誰も見てねえからこそ出来るわけで。昼間だったら勿論やるわけがない。
「まあいっか。ありがとな」
くすくすと笑いながら、ウォルターはまた夜空を見上げた。
俺も一緒になって上を向いてみる。
星も何も見えないグレーの空から、時たま銀色にきらりと光りながら真っ白い雪が降り注ぐ。空気は肌を刺すように冷たくて、どっちが上なのか下なのか判らなくなるくらい視界は白で埋め尽くされていく。
「まるで空を飛んでいるみたいだ──吸い込まれそう……」
「そうだな──」
体に回している腕から伝わる体温が無ければ、眩暈を起こして倒れそうなくらい圧倒されていた。こんな感覚、普通の日常じゃ忘れてた。
「なんかお前といると、色々新鮮だよ」
「そりゃあ良かった」
相変わらずくすくすと笑い声だけが聞こえてくる。
今こいつはどんな表情なんだろうな。見えないのがちょっと悔しい。
「あ、ウォルター」
「ん?」
「メリー・クリスマス」
「Merry Christmas」
回した手の甲に、あいつの手が重なった。
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