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第?夜 〈おまけ〉姫はじめ

 夜は気にしていなかった玄関先の注連飾りに目が行き、自然と口元が綻ぶ。それを作っていたときのあいつの表情を思い出してしまったんだ。 「浩司浩司、凄いな、こんなひとつひとつに意味あるなんて」  小さな門松はそのままの既製品を購入したものの、注連飾りくらいなら作れそうだと手作りキットのようなものを手にして、なぜだか我が家のコタツに広げていたウォルター。  蜜柑を剥きながら年末の特別番組を横目に見ていた俺は、うきうきと手順書を見つめているあいつに視線を移した。 「えーと、まずはうらじろに昆布を載せて……本だわらと葉付き蜜柑を……」  ぶつぶつ言いながら素材をひとまとめにして上部を輪ゴムで留めるのに少し手を焼いている。見目よくすることと落ちないようにしっかりくっつけることのバランスが意外と難しい。  既に出来上がっている注連縄本体に、紙でこしらえた飾りが見えるように針金で留めれば出来上がりだ。 「豊作・豊漁、家内安全・子孫繁栄、あと夫婦仲良く白髪が生えるまで、か――」  出来上がったそれをためつ眇めつ眺めて、ひとつひとつの意味を数え上げて唱えている。山草のうらじろは本番まであまり風に当てない方が良いからとビニールにそうっとしまいながら、もう一度うらじろの表面を撫でていた。 「ともに白髪になるまで、か」  切なそうに細められた切れ長の目が、いつもより緑を濃くしている。 「叶えばいいな」  独り言なのか判然とせず、そこに篭められた想いの深さに引きずられそうになる。対応に窮した俺は、手に持っていた小房をぐいっとあいつの口に押しつけてから、含むのを待って唇で蓋をしてやった。  想う相手とは、離れていてもどこかで細く繋がっていけるだろう。それでも、それがこいつの望んでいる未来だとは思えない。その代わりに俺がずっと傍に居てやるなんて、そんなおこがましいことも言えないし、不確定なことを無責任に口にするのは性に合わない。  だから、今現在進行形で出来ることなら、可能な限りはしてやりたいと思ってしまう。それくらいには、俺にとって大切な存在なんだと自覚しているから。  何処から得ているのやら、この国の若者でもあまり知らないような単語まで巧く使いこなす異国人。それがこの金髪碧眼の王子様だ。それは知っていたけれど、なんだかなあ。 「姫はじめっていうんだろ」  とんど焼きを控えて注連飾りもはずして、ぬかりなく書き初めも用意しているやつがこう宣った。  だったら特別丁寧にやらなくっちゃねなんて、ねちっこい愛撫が続いてる。酷い焦らしプレイだ。  ついたち参りの後にしたやつが姫はじめになると思うんだが、そんな抗議には耳を貸しやしねえ。一緒の入浴から始まり、中までしつこく洗われて羞恥で死ぬかと思った。  その後は浴衣を着せられて、このチラリズムがいいんだとかトボケたこと抜かしながら、帯を解かずに裾をはだけさせながら入念にそれこそ足の指まで全部ねぶられて、俺はベッドの上で悶えすぎて息も絶え絶え。  肩から落ちないように気を付けながらくつろげられた胸にもいくつも朱が散らされ、噛まれたり引っ張られたりして苛めた後に長々と乳首を舐められて、痛いのかなんなのか訳が分からない。麻痺してるのかも。  こういうときの常で中心は放置されているから、せめて中の好い箇所でもと思っているのに、じりじりと緩い責めが俺を苛み続ける。  またあれか。おねだり待ちモード入ってんのか。 「ん、っく……」  目の端から滴がこぼれ落ちた。  辛い。けど口にするのは恥ずかしすぎて、悔しくて。  そんな俺をつぶさに観察しているやつのエメラルドの瞳は、ちゃんと最初からずっと俺を求めている。情欲込みの熱が伝わっているから、こんな風に体を許してしまう。そうじゃないなら、好きにいじられて自分でも見えない触れたこともない場所なんて晒せねえ。    ふうと息を吐いて、いかにも仕方なさそうに、やつが窄まりの周囲をくるくると指先で撫でている。  はやく、と下の口が弛むのが判る。頭では、口では素直になれないのに。どうして体は貪欲にこいつを求めてしまうのか。  既にして天を向いたまま欲を垂らし続けているものから流れ落ちたものを塗り付けて、指先が沈む。  思わず漏れた吐息混じりの声にあいつがくすりと笑んだ。  わかってんだよ。素直じゃないなあ、もう。声に出さなくても、表情で判る。  あいつの指にだけ馴染んでいるその場所は、着々と本数を増やされて指を開いて広げられても、もう苦痛を伝えない。  奥へと誘いうごめく襞を宥めるよう、静かに動かされている。だけど、音楽もない、虫の鳴き声もない、真冬の深夜。俺とあいつの呼吸以外にたてられる音が、むやみやたらと大きく聞こえて居たたまれない。  粘性のある水音。それをたてているのはあいつの指と俺の中で。時折空気が出入りする音が、恥ずかしさすら超越するくらいにエロティックだ。  この国の色白の女性とはまた異なる白さの肌で、長くて綺麗で、でも節くれ立った大きな手が、同じ男の俺を翻弄している。  別の曜日には、互いに別々の異性を愛撫している体で、土曜の夜だけ繋がっている。  それは、体だけと割り切っている俺の中では特別なことで。だけどこいつにとっては、ほかの恋人と何処が違うんだろう。  判っているのは、きっと俺みたいに我慢比べをしたりしないで、彼女たちはあっさりと可愛く色っぽくねだるんだろうなということくらいだ。  白いシーツは暴れる俺のせいでくしゃくしゃで。それを握り締めた手を開いて、あいつを抱き寄せて囁くだけでいい。 「もっと……」  頂戴。 「くれよ」  動きを止めて瞠目されて。自分が声に出してしまっていたことに狼狽する。 「あ、いや、その」  しどろもどろに開いた口を、唇で塞がれた。  ひとしきりかき回されて引っこ抜かれそうなくらいに舌を吸われ、それから至近距離でとろけそうな顔で凝視される。 「俺のなにをご所望ですか」  ふふ、と笑う王子様。しらばっくれんじゃねえよ。 「なにって――」  熱が、首から上に集中している。口をぱくぱくさせて、それから唇を噛みしめて。  これだから、こいつとのセックスは――と思い切り顔をしかめてみせる。そんなの、俺の性格知り尽くしてて言わせようとするんだからずるい。  俺がお前のこと蔑ろに出来なくて、突き放せもしなくて、なんだか判らない情を持っているのを全部解っていて言うんだから酷い。  ここで、もういいと拗ねてそっぽを向けば、こいつから折れてくるのを知っている。だけど、それって負けた気分になるから、年始からそんな調子じゃあこの一年通じて負けそうな気がするから、意地を通す。  差し込まれたままの指を締め付けて、それから自分で腰を動かして、こいつがわざと避けていた一番感じる場所に指の腹をさすらせる。  漏れる甘い声を我慢しないで、少し俯いて上目に見つめれば、ごくりと喉仏が上下するのが見えた。  ほらな、お前だって俺が欲しいんだろ。  ウォルターとのセックスは、女とのそれとは全く異なるなと感じるのはこんな部分もだ。  どっちが先に根負けするか。  俺がねだるか、ウォルターが突っ込むか。  首の後ろに腕を回してキスを仕掛ける。先に上顎を捉えてしまえば、ほらもう俺の勝ちだ。  喉を鳴らして、獰猛な色を瞳に宿して見下ろすお前は本当に綺麗だ。美しい幻獣。  いつかここから居なくなると判っていて、繋ぎ留めておこうとする愚かな俺を、もう少しだけ傍に置いてくれよ――

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