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もしも二人がストリーマーだったら【後編】

 腹に伝わる熱が、心地よい。それを伝える手の甲からの熱も同じように感じてくれているといい。そう願いながら、浩司は暫し瞑目した。  場合によっては長時間過ごすことになるデスクチェアは、浩司の頭をすっぽりと覆うほどの背もたれもあり、こうやって背後から抱えられてしまうと身動きが取れない。勿論、本気で抗えばどうとでもなるのだが、そういった状況ではない。  以前はよく開けっ放しにしていたカーテンの隙間から、細く外灯の光が届く。配信中からずっと消灯されたままの室内では、パソコンとエアコンの僅かな稼働音に紛れてふたりの呼吸音が重なっている。  鼓動までも重なるような一体感は、ウォルターとしか得られたことがない。 「どうかしたか」  重ねた手で、軽く叩く仕草をする。  浩司の問いに、ウォルターの手が下へと伸び、シャツの裾から差し込まれていく。 「ずっとクロの後ろ姿見てたら欲情した」 「変態か。アバターだろ」  ぴしゃりと手をはたくが、ウォルターは遠慮なく肌をまさぐり続ける。  二人のアバターは、割と本人に似せてある。だが元々海外のゲームなこともあり、たとえ黒髪キャラだとしても日本人とは程遠い造作になっている。まあ、腰回りは平たんなキャラクターだから、背後から見れば似ているということなのだろう。  金髪キャラの方は、顎も太目だし筋肉のついたがっしり体型で実物とはかすりもしない。だからといって女キャラを使いたいわけでもなかったのか、はたまたそういう体型に憧れでもあるのか、ウォルターは嬉々として選んでいたのを思い出す。  まあ、傭兵同士で殺しあうゲームなのだから、そこに王子様キャラなどは不要だろう。 「いいだろ? もう土曜日だし」  白い手が、脇腹を撫で上げ胸の先端を掠めながらその周りをささやかに愛撫する。長年開発され続けた体は、もう受け入れるための準備を始めてしまっていた。 「……ん」  耳元に落とされるバリトンに陥落し、浩司は首肯しかけたが、かろうじて意識が階下のことに及ぶ。 「待て。ここじゃまずい」  何しろ両親と同居中の身だ。姉の紫は結婚して家を出ているので二階には浩司しかいないが、両親は一階にいる。気兼ねなく乱れることができるウォルターの家とは条件が違うのである。 「んー。もう無理」  一旦熱が離れたかと思えば、チェアが転がされベッドわきに連れていかれる。そのまま両腕を引かれてもつれるように二人ともベッドに転がった。 「ちょっ、ウォルタ――」  文句は唇で塞がれ、喉へと押し込められる。絡めて吸われる舌が痺れたころ、あやすように上顎を舐められ鼻にかかった声が漏れる。その間に薄手の綿パンツごと下着も脱がされ、床へと落とされてしまっていた。 「声、我慢できる? 別に聞かせてあげてもいいけど」 「できっか、よ」  唇を解放してくれたのはいいが、そのまま耳元へと移動した舌先に浩司は身をよじる。だが、抵抗をものともせずに耳殻を塞がれ水音をたてられて、堪らず腰が跳ねた。 「んっ、あぁっ、やめっ」  艶のある声が漏れるのを抑えるすべを知らず、どうにかして口を閉じようとするのだが、底意地の悪いウォルターがそれを許すはずがない。開いた隙間から人差し指と中指を差し込み、浩司の舌をつまんでしまう。 「ふぁっ、わかやろっ」  馬鹿野郎と罵りたいのだろうが、呂律が回らない。それが悔しくて、浩司は意味のある声を出すのは早々に諦めた。  弱点を知り尽くしたウォルターを振りほどくことは難しい。何しろ耳元でしゃべられるだけで力が入らなくなる。更に物理的に耳を犯されてしまうと、もはや腰砕け状態だ。  いまが最悪のマウント状態だった。  ウォルターの手が遠慮会釈なく浩司を暴いていく。  既に立ち上がりきっている中心はそのままに、いつの間にか取り出したジェルをつけた指が、立てられた右足の奥にある孔の周りをほぐし、中へと侵入を始める。 「んぅ、」  何度されても、恥ずかしいものは恥ずかしい。まして、自室で誰とも繫がったことなどない浩司にとって羞恥の極みだ。夜中に上がってくることなどはないだろうが、階下の両親のことを気にしてついつい力んでしまう。  何しろ母の紅子は子供たちがどんな年齢のときでもパーソナルスペースというものを考慮してくれた試しがない。紫共々、ノックもなくいきなり部屋に入ってくる傍若無人な輩である。紅子にとって必要ならば、そこに浩司の意思など存在しないのだ。  もしも今晩そんな突発的な用事が入ったならば、ウォルターの存在すらも考慮することなく乗り込んでくるだろう。恐ろしくてとても行為に没頭することなどできそうにない。  ウォルターの長い指がやわやわと浩司の泣き所を責め、がちがちになった中心は涙を零し始めている。  それでも尚強張ったままの浩司に、ウォルターが覆いかぶさった。 「浩司。もしかして怖い?」  指先に捕まったままの舌をどうにか引き寄せようとしながら、浩司はわずかに頷く仕草をする。潤んではいるものの、瞳は熱情に蕩けてはいない。  それを確認して、仕方ないなあというようにウォルターは苦笑した。  怖いのは、その時の両親の反応なのか、それともその後否応なしに変わってしまうだろう二人の関係なのか。  恥ずかしさよりも恐怖におびえる色を見て、珍しいものを見たとウォルターは瞬きしている。  このままいじめてみたいけれど、今日はそれが目的ではない。  ウォルターは己の欲に蓋をして、浩司の眦に優しく口づけを落とす。 「大丈夫、浩介さんなら、一人寝が寂しくて酔いつぶれて就寝中。紅子さんは、緊急呼び出しでショップに駆けつけてるはず」  なんでもないことのようにさらりと零されて、実の息子は愕然と目を見張った。  しばしそのまま碧眼を見つめた後、歯に力を込めて抗議の姿勢を見せる。 「いたっ! 痛いって」  がぶがぶと噛まれ続けてわざとらしくウォルターが悲鳴を上げるが、痕が付くほど力を籠めてはいない。それでも抜こうとはしない指を咥えこんで、浩司はねっとりとしゃぶった。  上がってくる前に確認していたことを隠していたというか敢えて黙っていたのだろうが、安心もしたがなんだか少しだけ腹立たしい。  それなら最初からそう言えという言葉の代わりに態度で示したのだが、おそらく伝わっている。 「ごめんって」  全体的に不感症気味なウォルターだが、快感が得られないわけではない。浩司ほどではなくとも感じてくれているのが判る程度には肌を重ねてきている。  そのままウォルターの手を取り、指の股に舌を這わせると、呼吸が変わっていくように感じられた。  熱をはらんだ南国の海の瞳が、浩司を見下ろしている。差し込まれたままの指が本数を増やし、的確に浩司の熱を上げようとうごめいている。 「いやらしいかお、してる」  にやりと唇の端を上げたものの、ウォルターも興奮しているのは判っている。空いている手で更に官能を高めようと手のひら、手の甲とささやかに触れていると、どんどんウォルターの熱が高まっていくのが感じられる。  物理的なものではなく、精神的な、内面の熱が。  ウォルターはやんわりと浩司の手をほどき、シャツを頭から抜きながら、浩司の体を起こした。  そうしてベッドの縁に座ると、対面でまたがるようにと浩司を誘う。  不安定な位置取りに躊躇するも、自分ではできない?と意地悪気に囁かれると、持ち前の反骨精神にそそのかされて、ウォルターの首を抱え込むようにしてゆっくりと腰を下ろしながら挿入を試みてしまう。 「ん。支えとくから」  スキンの上からジェルをまとわせたものが、雄々しくそそり立っている。その先端に窄まりが当たるように触感だけ研ぎ澄ませて、少しずつ体重を掛けていく。 「でかすぎ」 「そうは言っても、毎週美味しそうに咥えこんでるじゃん」  つるりとした先端を過ぎ、傘が泣き所に当たると、つい鼻にかかった声が漏れた。  その腰をぐっと掴んだまま、ウォルターが腰を突き出す。一気に根元まで咥えることになり、浩司は声にならない悲鳴を上げてのけぞった。  反り返る背に片手を添えて、そのまま抱き寄せ、浩司の息が整うのを待つことしばし。 「っざっけんな、てめ、」  涙を吸い取るように両方の眦にキスをされ、しぶしぶ浩司はウォルターに縋りつくようにして体勢を楽にしようとする。  性急に挿入した割にウォルターはそのままじっとしている。  キスの後は頬ずりだけして、両手は浩司の背を支えたまま。  しばらく意識の外にあった機械の作動音が耳に付き、現実に戻された気分になる。恐ろしさは消えたものの、やはり自室では行為に没頭できずいたたまれない。そうさせるように間を取っているウォルターの行動が読めず、浩司はうろたえた。  てっきり、勢いのままにむさぼられるかと思ったのだが。  もぞもぞと尻を動かすと、耳たぶを唇で食まれた。舌で愛撫され、首筋がくすぐったいような感覚になる。  圧倒的な存在感のものは浩司の中で大人しくしている。いっぱいいっぱいに詰まっているその物量が鼓動までも伝えてくるから始末に悪い。  なんとも言えない一体感に、心は満たされているのだけれど。 「足りない?」 「んなわけ、」  からかう口調につい反論しかけて、口をつぐむ。  消え入りそうなほどに小さく「なわけ、ある」と続けられた瞬間、ぐん、と中の物量が増した。 「っひ、っあぁ」  腰をぎりぎりまで引いてまた奥まで一気に突かれ、悲鳴交じりの嬌声が上がる。 「浩司っ、たくもう……」  密着したままウォルターは立ち上がると、そのままデスクへと歩いた。わざと浩司の体を跳ねさせるような歩き方に、浩司は翻弄される。 「あっ、やっ、なにすっ」  一歩ごとに身体ごと上下して串刺しにされる。体重の掛かる抜き差しは衝撃的過ぎて、ウォルターが何のために立ち上がったのか知覚するにいたらず、気付くとベッドに戻ったウォルターの膝の上で後背位で膝を広げて、デスクの方を向かされていた。  液晶画面はブラックアウトしていたが、ウェブカメラが起動していることを示す赤いランプが点灯している。普段プレイ中のマウス操作を撮影しているカメラがこちら――ベッド側を向いているのを視認して、浩司は息をのんだ。 「っウォルター! てっめ、何して」  一瞬にして現実に戻り、それでも怒声というより嗜める程度の声を上げる浩司にも、ウォルターは何処吹く風だ。しっかりと浩司の太腿を両手でそれぞれに抱え直し、更に浩司の体を後ろに倒して自分に体重を預けるように持っていく。  そうすると、結合部までばっちりしっかりと晒されることになり、はっきりとは見えないが、液晶画面が鏡となり痴態が丸見えになっていると気付いて浩司は絶句した。 「あ、いまキュンってした」  ウォルターが指摘した通り、浩司自身もウォルターの逸物を喰い締めているのを自覚している。 「興奮してんだ? これこのままクロのリスナーに流したら面白いのに」 「ざけんなボケ」  ウォルターの軽口はいつものことで、それはけして実行されることがないと知っているからこそ罵倒の言葉だけで済まされているが、それにしてもこれは酷いと浩司は暗澹たる思いを抱く。  録画ランプがちらちら目について、行為に没頭できない。  本当にウォルターが何をしたいのか、何を考えているのか、今夜は理解に苦しむ。  不自然な体勢は、圧倒的にウォルターの方がきつい筈だ。浩司の体重も支えながら後ろに倒し加減で浮かせている上半身のせいで、腹筋も背筋も大活躍だろう。 「なんかのトレーニング……?」  心の声がうっかり漏れてしまっていたのか、ブッとウォルターが噴き出した。 「ちょっ、やめて浩司、腹筋、腹筋が死ぬから」  運悪くツボにはまってしまったらしく、浩司の人間椅子、いやベッドと化したままウォルターは全身を震わせている。これは相当鍛えられるだろう。  以前ならここで、死ねと軽く返していた。  けれど。  浩司は、そのまま思い切りのけぞって下半身の分まで全体重をかけ、バランスを崩したウォルターの背を布団に着けてやった。後ろ頭がウォルターの顎にごつんと当たり、ウォルターは撃沈する。 「ばーか」  低く呟かれた声が湿っていることに気付き、ウォルターは瞬きをして浩司の表情を確かめようとする。カーテンから僅かに入る筋のような明かりでは到底足りない。ウォルターの部屋のように間接照明を置いていないのが悔やまれた。  浩司は、仰向けからごろりと横に回転して布団に下りた。深くまで挿入されていたものが抜けていく感覚に切なくなるが、それよりも優先させたいことばがあった。  もう一度、今度は顔を合わせてウォルターに体重を預ける。  まだ着たままのシャツにぐりぐりと額を押し付け、それから上目にウォルターの目を見つめた。 「言うな。そんな単語」  僅かに潤む瞳は、熱のせいではない。  ことばを失ったウォルターのシャツの下から、浩司の手のひらが脇腹を辿っていく。そこに残る、一生消えることのない傷痕の上を。  怖いものなどなかった。傍にいれば守れる程度の危険しか知らなかった浩司に、初めての恐怖を教えたのはウォルターだ。  あの晩、最後までちゃんと聴くことができなかった電話。  どれだけ祈り、願い続けただろう。  生きていてくれさえすれば、もう会えなくてもいいと思った。そんな夜を数えきれないほどに越えて、ふたりは再会した。  その時の浩司の表情を忘れないと自分に誓ったはずなのに。 「ごめん」  これは恋ではない。それでも愛おしくて仕方ない。  心の底から謝罪して、ウォルターは浩司を両腕で包み込む。  体温に包まれて鼓動を感じていると、ようやく浩司の体からこわばりが解けていく。 「ねえ浩司」  背中をあやすように撫でて呼びかけると、んー?と続きを促す声がする。  ウォルターの胸に頬を押し付けてしまっているため、顔が見えない。 「俺は、ゲームの中でもここでも、浩司に命を預けたりしない。お前が傍にいるなら、ゴキブリみたいにしぶとく生きていけるよ。お前をかばって死んだりもしない」 「グリーンのGはゴキのGだもんな」  浩司の相槌は茶化しているようでも、ウォルターの気持ちは汲んでいるようだった。 「だから、お前は後ろを振り向かずに駆けていけ。後ろは全部、俺が引き受けるから」  内容はゲームのことを言っているようでも、なんとなく言いたいことは解ってしまい、今度こそ泣きそうな気分になる。  死なない、なんて。誰だって断言も約束もできないことは解っていた。  ただ、知らない場所でも元気でいてくれたらいいと思っていただけなのに、その存在すら消えてしまったかもしれないと聞かされた時のあの喪失感を思うと、心臓が引きちぎられるような、実際にはあり得ない痛みを覚える。  ゲームだと解っているのに、それでもダメージを受ければ焦るし、ついつい「いてっ」と口を突いて出てしまう。視界で崩れ落ちるアバターを見ると、現実の姿が重なってしまう。  だからこそ、誰よりも素早く索敵し、倒さねばならない。隙なんて見せない。モニター越しの気配すら察知するほどにやりこみ、相手の行動を予測して動く。  的確に、巧みに、敏捷に。誰よりも強くなるために、気を抜かずに。 「クロの後ろも守るけど、こっちも俺のだから」  軽い調子で、ウォルターが囁く。  大きな手のひらが浩司の尻たぶを両側から掴んで捏ね回した。 「オヤジくせぇ」  息が弾むほどの強さに、つい憎まれ口を叩いてしまうも、その言葉自体は否定しない。  できるわけがない。 「ここに入っていいのは、俺だけ」  じわりと、ウォルターの指が潜り込んでいく。なんなく侵入を果たした指の腹で的確に刺激され、冷めていたからだがあっという間に熱を帯びていく。 「だよね? 浩司」 「ああ」  ずり上がった浩司がウォルターの頭を抱え込み、その鎖骨を甘噛みしながらウォルターは指と交代で猛りを挿入していった。 「っは、ぁ」  浩司の吐息が熱を帯び、ウォルターがゆっくりと腰を回しながら抜き差ししていくほどに、表情が蕩けていく。  恍惚とそれを眺めながら、ウォルターは囁いた。 「誕生日おめでとう、浩司」 「え。あ、ああ、そっか」  行為に没頭しかけていたところを引き戻され、夢うつつのような顔で、浩司は「サンキュ」と零した。  ウォルターとはプレゼントの類を遣り取りしたことはないが、憶えていてくれているだけでいい。色々と突飛な行動をすることもあるが、今日のこの訪問も、それだからこそのものだったのだと察する。 「して欲しいこと、ある?」  ことさらゆっくりと腰を引きながら問われても、嬌声を堪えるだけで精いっぱいだ。ぎゅっと唇を結んで首を横に振ると、一気に奥まで突かれて体が跳ねあがった。 「朝まで抜かずにこうやってじっくり楽しもうかな」 「あほか」  合間にどうにか意見を述べたものの、またじりじりと腰を引かれて、快感に悶える。  気持ちはいいが、いきたくてもいけないこのやり方を続けられたら堪ったもんじゃない。 「あるでしょ、して欲しいこと」  縋りつくようにしている浩司に、ウォルターが視線を合わせた。  どうしても言わせたいらしい。 「あぁ、もう! だから、」 「だから?」 「つまり……その、なんだ」  じわじわと中から抜けていくものを引き留めるように、内部が蠕動する。  はあ、と浩司は吐息した。黒目がちな焦げ茶色の瞳が情欲に濡れている。 「なんだ?」  ぐい、と突かれて、また体が跳ねる。  ひうっ、と浩司が引きつった声を漏らしたところで、またウォルターがゆるゆると腰を引く。 「気持ちいい? このままずっと繋がってような」 「っあ、あ」  わざとらしく繰り返されて、浩司は物足りなさに切なくなる。  確かに気持ち良い。それはそうなんだけれど。 「頼、む、いかせ、て」  ようやく出てきたおねだりに、ウォルターが満面の笑みで応じる。 「了解。いくらでも」 「いくら、でも?」  ハッと浩司が気付いた時には手遅れだった。  態勢を入れ替え、やる気満々のウォルターに熟知されている良いところばかり刺激され、前からはもう何も出なくなるまでいかされ、後ろだけでもいけるからいいよねと、結局夜明けまでずっと体を揺さぶられ続ける羽目になったのだが、まあいつも通りと言ってもよい程度のできごとだ。  最後に意識を失った浩司の髪を撫でながら、伏せられた瞼にウォルターは口づけた。 「生まれてきてくれて、ありがとう。俺をこの国に引き留めてるのは、浩司だよ」  いつかはこの国から出ていくのだからと、必要以上に親しい人を作らなかった。  表面上はフレンドリーにしていても、恋をしているように見せていても、それはウォルターを縛るほどの存在じゃない。  告げてしまえば、憶するだろう。  こんな重い感情は、見せてはいけない。  こんなときにしか口にできないけれど、おさめきれなかった想いを、少しだけ零してもいいかなと、想いを込めて、重ねるだけの口づけを、今度は唇に。  次の晩も抱きつぶす気満々のウォルターを知れば、翌日の浩司は悲鳴を上げるに違いなかった。    了

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