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2.KNIVES/常磐組(1)

 車内には、煙草と、古い革のにおいが満ちていた。  走り出して暫くの間、助手席にいる真壁は、電話をしていた。ワインレッドのスーツに負けない、人目を引く整った顔立ち、いやらしくなく染めた金髪。  結局、瀬戸とどういう関係なのかは聞いていない。 「……ええ、後で伺いますよ、オオクマ先生」 「…………」  その右側、時折咳払いしながら無言で運転するアロハシャツの壮年。白髪交じりの五分刈り頭。目尻やほうれい線の皺が深い。背は高くないのに、肩や背中の存在感が大きい。  イオリは二列目の中央に座っていた。 「こんな細っこいのが、ホモに受けるンすか? 若」 「あ? お前にゃ関係ねえだろ二郎」  右にいる男は、レスラーより一回り腹が太い。極道パーマとでもいうのだろうか、刈り上げたサイドに、ウェーブが掛かった髪型をしている。  時折貧乏ゆすりする。  左に、ムサシ。  黒い髪に、黒いスーツ。首も肩も筋張って、厚い。腰は引き締まっているが、イオリより明らかに大きく硬い。  ずっと眉間に皺を寄せて、鷹のように前を睨み付けている。睨んだまま、喉仏が、ときどき動く。  それでも、不意に目が合う。  そしてまた逸らされる。  通話が終わると、真壁は煙草を咥えた。 「若、火ィ!」 「馬鹿二郎。危ねえだろうが」  となりのレスラー男が身を乗り出しかけた。しかし真壁は右手を軽く振って、動きを制する。 「……」  反対側のムサシは、動かない。膝の上で、拳を握り締めている。  音楽も会話も無い。  イオリは、すっと挙手した。 「あー……あの。僕、小倉伊織です」  その瞬間、視界の端でムサシの肩甲骨が動いた。 「おう?」  返事を返してくれたのは、運転手。 「よろしくお願いします。市大の三年生です」  ミラー越しに真壁が目を細める。 「面接みてえだな」 「仕事初日、なので」 「はっ。おホモだちは多いのかぁ? 首輪なんかつけて、喜んでよお」  鳩尾がぞわりとした。ひく、と片口角が引き攣る。  首に触れる。  固さの中に、先生が触れた温度。曖昧に笑って、あんまりいません、と呟いた。 「つまんねえぞ二郎。帰ったら便所と風呂掃除しろ」 「あ…………うっす」 「こいつが朝言った、例のバイトだ」  隣が身動いだ。  見ると、ムサシが自分の顔を左手で覆っていた。  手の甲に、細長い火傷痕がある。 「…………」  目をそらし、代わりに自分の左手を見下ろす。  ――オーブン。 『あっつ!!』  教室に響いた、友人の声を思い出した。

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