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2.KNIVES/常磐組(2)

「地元は?」  真壁に尋ねられ、また顔を上げる。 「あ、はい。この辺です」  フロントガラスの向こうに、見慣れたドラッグストアの看板が流れていく。  入口脇に、初めて見るグミのポスターが貼られていた。  交差点に差し掛かり、車が停止する。アクセルもブレーキも滑らかだ。人を乗せ慣れているのだ、と思った。  アロハシャツの男が、運転席からバックミラーを見上げた。短い髭を生やした顎を一撫でする。 「坊主、俺達の名前、聞いたことは?」  隣から、視線が刺さる。 「……いいえ」 「そりゃあよかった」  ありがとうございます、と何故か礼の言葉が口を突いて出た。何がだ、と笑われる。 「……俺とタメか?」  ぽつりとムサシが、口を開いた。  振り返ると、変わらず何かに怒ったように顔を顰め、車外を睨んでいる。 「ムサシ、お前の面でそりゃ無理だろ。年いくつだっけ?」  運転席の男が片眉を上げた。 「二十一、っす」  一つ年上か。 「今、|二十歳《はたち》です。三月に二十一歳です」 「おー。なら学年、一緒だな。お前ら」  ムサシの視線が、こちらを向く。  またすぐに、逸らされた。  邪魔なんだろうか、と考える。膝を合わせて、カバンを抱え直す。右側の二郎が腰を据え直した。イオリの尻がムサシ側に追いやられる。 「……ごめんなさい」 「別に」  車は、イオリの知らない脇道に入っていく。  カバンの中に手を入れると、紙片の角が指先を刺した。  名刺の白が、甦る。  ――診察が終わり、イオリは再び木の椅子に座っていた。  ムサシ達が瀬戸の部屋を後にして、相馬は控え室へ入った。真壁とイオリが、向かい合うように座った。  真壁がポケットから、黒い名刺入れを取り出した。そこから一枚抜き取り、テーブルに置く。  指先が、静かに向きを整えた。  診察室のテーブルに、一枚の白い紙。  TKWアートマネジメント株式会社  代表取締役 |真壁迅《まかべじん》  差し出された名刺を手に取る。 「僕、名刺とか持ってなくて」  イオリは、名刺を裏返した。  流れるような書体で、「Fine Art / Asset Advisory / Private Sales」と記されていた。  瀬戸はイオリの左に椅子を並べ、座っている。 「ごめんなさい、正直、真壁さんのこと、ホストか暴力団だと思ってました。その……格好良くて」  ……取り繕うにしても、もうすこしうまくやれたんじゃないか、と、苦笑いが込み上げた。 「隠しても仕方ないんじゃないか、真壁」  静かに紅茶を飲みながら、瀬戸が静かに続けた。 「彼は、|東雲会常磐組《しののめかいときわぐみ》の若頭だ。所謂暴力団だね」  思わず瀬戸の方へ振り返る。  向かいで真壁が肩を揺らし、喉奥で笑った。 「バラすなよ、|新《しん》」  真壁は瀬戸の下の名を、当然のように口にした。瀬戸も、わずかに目を細める。二人の距離が、思ったより近い。  真壁の前にも、イオリと同じ透明なティーカップがあった。コーヒーだった。  イオリは真壁の名刺を両手で持つ。真壁迅、という文字列に視線が行く。  昔、瀬戸に貰った名刺は、一回り小さかった。 「……先生と…仲が良いんですね」  真壁が、不意に笑みを深める。  頬に、ひりつきを感じた。 「ナカヨシに見えるか?」

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