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2.KNIVES/常磐組(7)

『次は、柳川橋。柳川橋。南公民館をご利用の方は、次でお降りください』  不意に、夏の暑さが肌に甦る。  涙の味。  肺を震わせて叫んだ瞬間。  ぎゅ、と目を瞑り、暖房の風に意識を向ける。  その間に、バス停は通り過ぎてしまった。 『次は、|南高校《みなみこうこう》入り口。南高校入り口』  ――イオリの母校。  卒業以来ぶりに通りかかる。  野球部らしき、頭を丸めた少年たちを追い越した。  バス停の手前で、年季の入った花屋を通り過ぎた。  見覚えがあった。しかし、記憶よりも庇が破れて、看板の文字が欠けている。土曜日なのに、シャッターも下りている。  色褪せた母の日のポスターだけ、時間が止まっていた。 「あのお花屋さん、まだあったんだ。あそこで僕――」 「……や、去年、店閉めた」  イオリはムサシの顔を見た。 「そう、なんだ……」 「オーナーが倒れた」  車窓を見る鋭い目が細められて、すこし寂しそうに思えた。 「だから、あそこじゃもう、職場体験もやってねえ」  一瞬、頭が止まった。 「待って――」  ムサシが、はっとイオリの顔を見て、そしてすぐに背けた。前の座席を掴む手が、力を込めている。 「|南高《なんこう》? ……――ムサシ?」 「――悪ぃ、降りる」  黒い影が、立ち上がろうとした。  イオリは咄嗟に手を伸ばし、腕を掴んだ。  こんなに太いなんて、  信じられない。 「い……」  目元が熱を持つ。 「行くなよっ、また」  笑わなきゃ。  でも、頬が燃えるように熱い。 「ムサシ……きみ、」 『南高校入り口、南高校入り口』  バスが止まり、降り口のドアが開く。  心臓が喉まで込み上げて、言葉の邪魔をする。  呼び間違えたら、  二度と会えないと思った。  赤い髪。  痩せた身体。  ――コロッケパンと、おにぎり。 「ッ――|村瀬朝志《ムラセアサシ》……だろ」  エンジンの微かな振動。  幾つかの視線が、ムサシを見ている。 「――……」  舌打ちではなく、溜め息。  ムサシは再び腰を座席に据えた。  運転手が、車内マイクを使う。 『お客さん、降りますか』 「……」 『えー、出発します』  高校前のバス停。  降りる客もバスを待つ客も居らず―― 「小倉――  ………伊織、だろ」  卒業生だけが、車内にいた。

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