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4.BOXES/隣人(4)

 ――ち、ち、ち……。  水を止めると、時計の音がやけに響いた。  テレビをつける。 「――県の駐車場で……」  胸の奥が、ギチッと締め付けられる。  高齢者が交通事故を起こした、というテロップと共に、アナウンサーがイオリを見た。すぐさまチャンネルを変える。 「――地元の食材を堪能した後は、広い温泉で……」  旅番組も、嫌だ。 「――ツーアウト満塁。ピッチャー投げます!」  ルールもわからない野球中継を映して、漸くリモコンを置いた。  観客の歓声。アナウンサーが早口で選手の名前を読み上げる。球場に集まった沢山の人の熱気が、静かな家の中に他人の気配を滲ませる。 「……準備、しなきゃな」  ピッチャーとバッター。  後ろに、スポンサーのロゴマーク。 「あ……」  しまった、と口から零す。  真壁達の連絡先が、わからない。  カバンの中から、今日サインした紙を引っ張り出す。  書類の下の方に、住所は載っている。  電話番号は無かった。  再びスマートフォンを手に、瀬戸とのトーク画面を開いた。 『バイトのことなんですけど』  すぐに既読がついた。 『辛いなら、他の人と代わってもらおうか』 『いえ! 真壁さん達の連絡先知りませんか?』 『確認するよ』  ぺこりと頭を下げる猫のスタンプを送った。  暫くすると、電話番号が送られてきた。 『突然電話して大丈夫でしょうか』 『いいと思うよ』  やっぱり、真壁と瀬戸は親しい間柄なのだ。  真壁さんとは、と打って、すぐに消した。バカすぎる。 『ありがとうございます』  瀬戸から教えられた電話番号へ、電話する。  プルルルル……。  この呼び出し音は、心臓に悪い。 『誰だ』  低い声。 「ごっ……ごめんなさい。小倉です」 『冗談だ。ビビんなよ』 「ごめんなさい」 『謝るのが好きなのか。用件は』 「持ち物……。その、この後そちらに戻るんですけど、持っていって良いものと、ダメなものがあれば」 『へぇ』  真壁のくぐもった笑い声。 『なんでそう思った』 「え」 『持ち込んじゃいけねえ荷物があると思ったんだろ』 「それは……セキュリティ、みたいな」 『当ててやろうか』  目の前に、あの狼の目が甦る。 『帰れなくなった時のこと考えてんだろ、お前』  ――非対称の微笑み。 「そう……です」 『お前が家に帰る前に、うちに来てるのが判ってる時点で、何か有ったらサツが来る』 「あ……そうか。……でも、別に――」  イオリは、膝に視線を落とした。 『……本題だ。着替え、もってこい。汚れても良いやつ』 「あ、はい。何日分ぐらい」 『あ? 家帰りたくないのか』 「泊まり込みの研修……かなぁ、みたいな」 『お前拉致られてえ願望でもあるんじゃねえか?』 「そんな、エッチなマンガじゃあるまいし……」 『お前そんなの読むんだ。へー』 「誤解です!」  ククク、からアハハ、へ笑い声が変化する。 『はー…まあいいや。それと、ムサシに飯持ってこい。あと――そうだな、瀬戸に聞く前に、名刺見ろ』 「あっ――」  切れた。  置き去りにされた気分。  いや……違う。  抜き打ちテスト?  スリープ画面に、時刻が表示されている。  イオリは、浴室へ向かった。

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