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4.BOXES/隣人(6)

 トレンチコートを羽織り、イオリは駅に向かっていた。  首に再びスカーフを巻き、カーキのバケットハットを被る。肩には、昼と同じカバン。  待ち合わせの時間よりも早く、一旦駅を通り過ぎる。  煌々とした、ドラッグストアへ音楽を聴きながら入った。  薬ではなく、食料品の辺りへ。その中でも新商品が並ぶ、通路に面した棚を覗く。  すぐに見つかった。昼間見た新商品のグミ。それと、小分けの小さなハードグミを手に取る。  店内をぐるりと壁沿いに歩き、反対まで行くと、そこは衛生用品の棚だった。  湿布、絆創膏、包帯、それから……コンドーム。  薄型、超薄型、温感ローション付き、蓄光……。  ――改めて見ると、種類が多い。  その隣には、ローション。  しゃがんで、一つ手に取ってみた。  使えるのだろうか。 「いや、何に」  首を振り、棚に戻す。  ピピピ、ピピピ。 『Low Battery』 「えっ」  音楽が途切れ、立ち上がる。イヤホンを外すと、イオリの知らないアイドルが、恋のときめきを歌っていた。店内のBGM。  イヤホンの充電が切れていた。ケースにしまうも、赤いランプがつかない。  ケース本体も、電池切れらしい。  カバンのポケットを開ける。蓋を開く。こんな時に限って、バッテリーも充電ケーブルもない。  スマホ用品の棚をダメ元で覗くと、手頃な価格の有線イヤホンがあった。QRコードを読み込み、対応機種一覧を眺める。 「……」  多分使えるだろう。  グミとイヤホンを手に会計を済ませ、店を出た。駅へと引き返しながら、グミをカバンへしまう。カバンの底に、冷えたカレーの袋がある。  土曜夕方の駅前に、人影はまばらだ。  社会人や、ベビーカーを押す家族連れ、楽器を抱えた青年、大きな紙袋を抱えた女性。  黒いスーツ姿は、無い。  人の流れから少し外れた道路沿いに、迎えの車が何台か、停車している。  そのうちの一台、黒いプリウスが動き出した。  駅の裏手へと消えていく。  普段は気にも留めない、街に暮らす家族達の気配が、やけに目についた。  スマートフォンを取り出し、さっき買った有線イヤホンを挿し込んだ。ムサシとの待ち合わせ時間まで、まだ少し余裕がある。  なんとなく見覚えのある黒い車が、視界の端に見えた。  ムサシの姿を探して、改札を行き交う人々を眺める。 「――い」  もしかしたら、向こうもイオリを探しているかもしれない。バケットハットを取った。 「イオリ」 「…………」 「おい、イオリ!」 「えっ、あっ! ごめん」  声は、背後の車からだった。振り返ると、助手席の窓を開け、イオリを睨むムサシがいた。  見覚えがあると思ったのは、さっき一度移動したプリウスだった。 「ごめん、待たせた」 「別に。ちょい待て」 「うん」  助手席に置かれていたビニール袋を、硬そうな拳が掴む。節々が太く、血管が浮き出ている。  ガサガサと音を立て、荷物を移動させると、ムサシが車のロックを解除した。  たばこ臭い。 「お邪魔します」  座席に腰を落ち着かせ、シートベルトを引っ張る。  その間、ムサシは煙草を咥えていた。 「……それ、美味しい?」 「苦い」 「前も言ってた」 「そうだったかも」  シフトレバーをドライブに入れる。  ハザードランプを消す。代わりにウィンカーを点滅させ、車は動き出した。 「真壁さんからさ」 「うん」 「ムサシに飯持ってきて、って言われて」 「……」  交差点で車は右折し、街を南下する。 「サバカレー持ってきた。食べる?」 「作ったのか」 「ううん。貰い物」 「へえ」  ドリンクホルダーのプロテインシェイカーが目に入る。 「そっか……」 「何」 「筋トレしてるんだなぁって」 「イオリもやる?」 「できるかな」 「…………」 「黙らないでよ……酷いなぁ」  イヤホンのケーブルを指に巻き付けては、解く。来た道を戻るように、車は進んだ。

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