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4.BOXES/隣人(9)
「僕に値段なんてつきます?」
「心配すんな」
してないです、と出かけた言葉を、喉の奥で止めた。
「それは俺達が決めることだ」
「……ムサシも、決める側なんですか」
ぴく、とムサシの肩が跳ねた。
真壁が薄らと冷たい笑みを浮かべながら、舞台を見る。
「当たり前だろ」
「……」
ムサシは何も言わない。
「決められる側じゃなくてよかったです」
「だってよ、ムサシ」
一呼吸の間、無音になった。
「……っす」
両手を身体の前で握り締めている。手の甲に血管が浮かび上がっていた。
眉間に皺を刻んで、舞台を睨んでいる。見る側まで、身体に変な力が入った。
「あ……」
苦しそうなムサシの顔を見て、カバンの中身をふっと思い出した。
「どうした?」
「サバカレー持ってきました。ムサシに。あと、米も」
カバンを抱え直すと、真壁は一瞬不思議そうな顔を浮かべた。
「カレー? ああ、そんなことも言ったな」
「はい。あ、レンジ借りられますか」
「ああ、かまわねえ。上行くか」
真壁が立ち上がった。
高そうなスーツは、客席にいても舞台にいても存在感を放つ。ムサシも、真壁も。
「飯食ったらセッティングだ」
「……ジロサンがやったんじゃないんすか」
「掃除はな。機材はお前がやれ」
「……うす」
食事も仕事も、ムサシは何かを呑み込むように受け入れた。
イオリも肘置きを掴み、立ち上がった。真壁とムサシに続き、再びエレベーターへと乗り込む。
横に立つムサシをチラリと見上げ、そっと袖を引っ張った。ムサシの目線が下がる。
「何」
「二郎さんって掃除係なの?」
「違えと思うけど」
あの大きなレスラー体型が、粘着テープのコロコロ片手に客席を一つ一つ掃除したんだろうか。
「仕込まれたらし」
「何を?」
「掃除。嫁さんに」
「あっ、へぇー……」
「何喘いでんだ」
「違います」
ムサシの左手を見た。
腕時計以外のアクセサリーは無い。
そもそも二郎が結婚指輪をしていたか、憶えていなかったが。
エレベーターがガコンと揺れる。二階のランプが白く光り、扉が開いた。ダンボールや折り畳みコンテナが積まれた廊下。一階や地下より、物が多い。
「お前ら、休憩室行ってろ」
「っす」
真壁は鉄扉を開け、部屋へ。ムサシは振り返り、もう一つのガラス扉を顎で示した。
「イオリ、こっち。それと飯、ありがと」
ムサシの目がすこし細められ、そして顔が横を向いた。
「ううん」
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