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5.URGE/侵食(1)
「ごっそさん」
皿代わりのラップを、ムサシが丸めて捨てた。
「辛いの食べれるようになったんだ」
「いや……そうでもねえ」
休憩室を出て共に地下二階へと、階段で下りた。持ってきた着替えは、地下の掃除で役に立った。スウェットの方が動きやすい。コルセットも外して、カバンの中。
イオリはステージに吊るされていた幕を洗濯し、脚立に乗ってスポットライトの埃を払っていた。
見上げた時は、大した高さではないように思っていた。でも、こうして上ってみると、落ちたら痛そうだ。
それでも、ホームの隙間ほど怖くはない。手を動かしながら、そんな事を考えた。
ムサシは客席前で大きなコンテナを開けた。撮影器具の用意を任されたらしい。
「げっ」
「どしたの」
イオリが脚立の上から見下ろすと、ムサシは三脚らしきものを取り出した。
明らかに、歪んでいる。
「ぶつけちゃったのかな」
「機材で殴るなって言ってんのに」
「鈍器かぁ……」
脚立から下りる。コンテナの中を覗き込むと、カラフルなコードとビデオカメラ、それからよくわからない機械が雑に放り込まれていた。
「若が見たら、イライラするやつ」
「あー……しそう」
「前に使ったの、先輩だから」
「うん」
「整理するのは、俺の仕事」
膝を開いてしゃがんだムサシが、溜め息交じりにコードを引っ張った。絡まって、引っ掛かって、コンテナから出てこない。
「僕も手伝っていい?」
「ん」
「先にこれ退かすね」
四角い機械を持ち上げ、床に置く。何かが乾いてこびり付いた汚れがあった。
爪で軽く端を削ると、小さな黒っぽいカスが、ポロッと剥がれ落ちた。指先に鼻を近付けると、どこかで嗅いだにおいがした。
思い出せない。
「イオリ、そっち持って」
「あ、うん」
絡まり合ったコードを引っ張るムサシに手を貸す。四本の手で、あっちを持ち上げ、こっちを解き。
「これ、全部使うの?」
「わかんねえ。でも、一旦解かねえと」
「たしかに」
コンテナの底に、千切れた結束バンドが幾つか落ちていた。もう使えなさそうだ。拾い上げ、ゴミ箱を探す。舞台の裏まで見に行ったが、半透明の大きなゴミ袋しか見当たらなかった。
「ねー。ゴミってココ入れて良いのかな」
「へーき」
「そっち持ってこっか」
「頼む」
カサカサと乾いた、袋の擦れる音。家で使ってるゴミ袋と、同じ音がする。
ふ、と安心した。
戻ると、ムサシが早速千切れた粘着テープを放り込む。
イオリは、黒いビデオテープを持ち上げた。
「ねえムサシ」
「何」
赤いケーブルと黒いケーブルを解きながら、ムサシの声だけが返ってくる。
「あとで録画、見てもいい?」
「……やめとけ」
「ムサシが撮ったやつ、あるの?」
「忘れた」
「……そう」
そこで、お互いに言葉が途切れる。
ムサシが解いたケーブルを受け取り、雑巾で拭い、纏める。赤いケーブル、黒いケーブル、太さの違うケーブル。
「…………」
太いケーブルを見下ろしていると、手が勝手に動いた。
頭が通りそうな輪ができる。
頭の上に、持ち上げる。
「……おい」
どこかに、引っ掛けられそうだ。
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