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5.URGE/侵食(2)

「イオリ!」  ビクッと肩が強ばり、ケーブルが落ちた。  ムサシが、目を瞠って、口角を強張らせていた。 「……悪い。声、デカかった」 「あ……う、ううん。平気。ごめん、ボーッとしてた」  落ちたケーブルを再び拾い上げる。 「……あのさ」 「何」 「変な薬とか、飲まされてねえのか」  一拍、イオリの手が動きを止める。また、動かす。ケーブルを束にして、コンテナの外に並べた。 「誰にさ」 「……いや」 「もしかして  先生のこと、言ってる?」  少しだけ、首を傾げた。  ムサシの視線が、イオリの顔から逸れる。 「……分かってんじゃねえか」  唇から、ふふ、と吐息が漏れた。 「真壁さんみたいな言い方だね」 「はぁ⁉」 「昔のムサシならそんな風に言わなかった」  黒が、立ち上がる。  ムサシの両拳が、顔の高さで震えていた。  殴られたら、痛そうだ。 「怖いよ」 「……クソッ」  顔を手で覆いながら、ムサシは客席にドカッと腰を下ろす。 「若は関係ねえだろ」 「先生も、関係ない」 「お前、引き渡されたんだぞ」 「バイト紹介されただけだよ」 「ヤクザだぞ!?」  怒鳴り声が、ホールに響いた。  ポンプの回る音が、その余韻を飲み込む。 「別にいいよ。……ムサシに、また会えたし」  笑った。  本当のことだ。 「高校の時は……ムサシのこと、好きだった。多分、友達以上だった」  ムサシが、顔を上げた。  眉間の浅い皺と、見開いた三白眼。唇が半開きになって、また結ばれる。 「俺のせいで、男が好きになったのか」 「違うよ。その前から。――ていうか、元からだよ」  新しいケーブルを丸めて、束ねる。コンテナの中に、絡まらないように立てた。 「ムサシは僕に、何もしてない」 「俺は――……」 「僕もムサシに、何も出来なかった」  大きなおにぎりも。  修学旅行のサボタージュも。 「だから……君はいなくなったんだと思った」 「何でだよ」  ゆらりとムサシが立ち上がった。  コンテナを避けて、真横にやってくる。 「そう思った方が、僕が楽だったんだよ」  気にしないで、と笑う。  手首が、熱い。  ムサシの硬い手に、掴まれていた。 「じゃあ、今から壊せば良いのかよ」  肩がガクンッと引っ張られる。  顎を掴まれて、顔を覗き込まれた。 「そうすりゃ逃げんのかよ‼」  顔を顰め、鼻の付け根に皺を寄せているのに、ムサシの声は震えていた。  公民館の時みたいに。 「――逃げる理由には、ならないよ」  ムサシの唇が薄く開いて、急に力が抜けた。  手が離れて、落ちる。  その手を、イオリは下から掬い上げた。  乾いて、皮の厚い、骨の太い手。 「……」  ムサシの体温が、イオリの手に移る。 「ありがと」  手を離して、イオリは立ち上がった。 「真壁さんのところ行ってくるね」

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