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5.URGE/侵食(5)

  † 「僕、先にシャワー浴びてきますね」 「うん、どうぞ」  イオリに背を向けながら男がスーツを脱ぐ。  振り返った顔が、瀬戸にもパパにも見えた。  一つしか無い大きなベッド。  透明なガラス張りのバスルーム。  銀色のレバーを上げると、頭上からお湯が降り注ぐ。  身体を洗うにはぬるすぎて、温度を上げようと思った。そしたら、レバーの左に、見たことの無い電話機がついていた。 「どうしよう……ねぇ、ママ」  バスルームが寒い。足元から冷える。  早く温度をあげなくちゃ。  シャワーがイオリを濡らし、床に水溜まりを作る。  窓の方を見ると、白い布を被せられた××が二人並んで寝ていた。  紺色の制服を着た男女が、浴室内に立っていた。 「おまわりさん……」  なんだか、バスルームがやけに広い。 「お風呂の調子が悪くって」  母が警察官に話し掛ける。  よかった。  じゃあここにある××は、ママじゃない。 「ごめんなさい」  顔に掛けられた、小さな布に手を伸ばした――。 「ごめんなさい」  ――――。  誰に謝ったらいいんだろう。   †  鼻が冷たい。  つま先も。  ボォー……と、外で汽笛が響いた。  目を開けると、カーテンの向こうが明るかった。  頭が重い。イヤな夢の後に来る、疲労感。視界は、ぼんやりしている。座卓の向こうで、誰かが胡座を掻いていた。 「…………」  眼鏡をかけ、身体を起こす。  腕を組み身体を丸め、壁際でムサシが座ったまま寝ていた。  耳が軽い。手で触れると、イヤホンが無かった。目の前の座卓に、イオリのスマートフォンと、それに巻き付けるようにして白いイヤホンが置かれていた。  ああ、と息が漏れた。  音を立てないように、ゆっくり立ち上がる。壁の空調パネルで暖房を入れた。再び座布団の上で膝を抱える。頭を撫でる風はまだ冷たい。服の袖を伸ばし、指先を引っ込めた。  膝に顎を載せ、ムサシの顔をじっと見る。  ムサシは寝ても、眉間に皺が寄っていた。  顔を見つめていると、あちこちに薄くなった傷痕が見えてきた。高校時代とは比べ物にならないほど、太くなった首。厚くなった肩。  ワイシャツの生地も、しっかりしている。  胸のポケットが、煙草で膨らんでいた。  ワイシャツの袖を捲ったまま、ムサシは眠っていた。前腕は肌色だ。入れ墨は見えない。  指先が疼く。  四つん這いで近付く。横から、腕組みのもう少し上の辺りへ手を伸ばした。  シャツの合わせ目に、指を引っ掛ける。  布を少し浮かせて、覗き込んだ。  ――肌に張り付く、インナーシャツ。  ムサシから、汗のにおいがする。  自分の知らない場所が、熱い。 「ぁ――」  《《ヤバい》》。  休憩室を、飛び出した。  ――お前は「何」だ?  わからない。

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