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6. ICONOCLAST/廃棄(1)
真壁が手を合わせたタイミングで、ムサシ達が厨房へ戻ってきた。
水音が再び、イオリの耳に届く。
「若、今日はどうするんですか」
「事務所」
「俺、やることありますか」
「ねえな、帰れ」
「俺、朝飯の為だけに呼ばれたんですか⁉」
二郎に返事をせず、真壁が煙草を取り出す。
「あれ……」
若頭って、どこで煙草を吸っても許されるのだろうか。それとも、真壁だからだろうか。
ぼんやり考えていたら、突然の体当たり。
「若! 火ィ!」
「ちょっ」
身を乗り出した二郎に、イオリは押し潰されそうになった。
真壁は煙草に火をつけ、喉の奥で笑った。
「そろそろ食えよ、伊織。こいつ終わったら、出るぞ」
煙の上る煙草を指先に挟み、真壁が揺らす。
「あ、はい。ごめんなさい待たせちゃって」
イオリの目の前の丼は、残り数口。
大森が、真壁の皿を片付け、代わりに灰皿を出した。
「ムサシ、後は俺が片付ける」
「っす。上がります」
「いつもありがとな」
「や、俺の方こそ、ありがとうございます」
漸くイオリも、ごちそうさまでした、と手を合わせる。
ムサシを見ると、再び背広に袖を通していた。
「昼飯入んねえなぁコレ」
「朝飯二回目っすか、ジロサン」
「おうよ。嫁の飯は飯粒一つ残さねえ」
「身重なんだからお前が作れよ」
「やー、それが、俺が料理するとキレるンすよ」
「あー……」
「なんだよムサシ! 若まで!」
ぬるくなったお茶を飲み、一息つく。
ガラガラと引き戸を鳴らし、二郎とムサシが店を出た。
イオリも椅子を引くと、スマートフォンのバイブ音が一瞬カウンターに響いた。
イオリのスマートフォンだった。画面に、新しいメッセージ。
『おはようございます
2時頃そっちにいきます』
メッセージが入れ替わる。
『いーちゃんは今日
おうちですか?』
差出人は、イオリの伯母だ。
「あ、日曜か……」
「どうした」
狭い通路をイオリに塞がれた真壁。
煙草を咥えたまま、イオリの手元を眺めていた。
「日曜日は……親戚が、家の掃除に来てくれるんです」
「そうか。丁度良い、一度帰れ」
「……大丈夫です、向こうも鍵も持ってるし。いつも会ったり、会わなかったりなので」
スマートフォンをしまい、戸の前で振り返る。
「大森さん、ご馳走様でした。また明日」
「おう、明日な」
軽く会釈をして、店の外へ出た。
「そうだ、マッサン」
ガラガラと真壁が、戸を閉めた。
「あれ、真壁さん?」
支払いでもするんだろうか。財布を取り出す気配も無かったが。
ムサシを見ると、また目が合った。
昨日のような、険しい表情。
喉の奥が、う、と詰まる。
――真壁さんみたいな言い方だね、なんて言っておきながら、眠るムサシに欲情した自分。
朝食の余韻が、腹の中で重さに変わる。
「何」
「……ううん」
再びスマートフォンを取り出して、伯母からのメッセージを開いた。指先を滑らせる。
『おはようございます
今日は予定があるので出掛けます
いつもありがとうございます』
これで、問題ないだろう。
首輪を、見られたくない。
見たらきっと、心配される。
いや
気持ち悪がられる。
――ふと、視線を感じた。
通りから、少女が歩いてくる。
ムサシも二郎も、端に避けた。イオリは店の戸に背を寄せた。
迷いのない歩み。
揺れる黒い髪。
喉に、レースのチョーカー。
ピンクと白のスカート。
止まらない。
真っ直ぐ、イオリを見ていた。
――あれ。
「なんで、」
――声が、低い。
――刃物だ。
握っている手が、細いのに骨張っている。
ピンク色、フリルのシャツ。
お洒落している。
「イオリッ!」
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