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6. ICONOCLAST/廃棄(3)

 気が付いたら、イオリは常磐組の事務所に居た。  慌ただしい。なのに、誰も無駄なことを言わない。  あの少女のような青年は、事務所の中には見当たらなかった。  大森がムサシに肩を貸しながら、ずっと電話をしている。 「そこに寝かせろ」  真壁が背広を脱ぎながら、指示をだす。  ムサシはソファに寝かされ、上着を脱がされた。  裸の腕が、ソファの背を掴んだ。  あの腕に、突き飛ばされたんだろうか。  後ろ姿に阻まれて傷口は見えないが、ムサシは顔を顰めて、額に汗を滲ませていた。 「ム、サシ……」  イオリは、軽く手を擦りむいただけだった。何処にいても、邪魔になる気がする。 「ッ……ぐ」  ムサシの足が、靴を履いたままビクンと跳ねた。  腹筋が強ばり、呼吸が浅くなる。 「わか……痛ッ――大丈夫、す」 「黙ってろ。死にやしねえ」 「ああ、大森だ。二人、いや三人若えの寄越せ。……ああ、おう。いや、事務所じゃねえ」  大森は肩にスマートフォンを挟みながら事務所内を歩き回り、ボトルや道具箱のようなものを真壁の横にドンッと置く。  真壁はムサシの傷口や周囲に触れ、目を細める。  ムサシが眉間に深く皺を刻み、胸を上下させた。 「避け損ねて、流したか」  イオリから、ムサシの傷口は見えない。真壁はムサシの腹を押し、顔へと視線を向けた。  ムサシが痛みに歯を食いしばりながら、真壁の手を見つめていた。  荒い呼吸と、堪える呻き。 「腹も張ってねえ。中は無事だ」  血のついた手を拭い、真壁は笑った。 「……まあ上出来だな。切れてるだけだ」 「さ、せんっ」 「……悪くねえ|面《ツラ》だ」  無事、という言葉を聞いて、イオリは崩れるようにしゃがみ込んだ。 「ぅ……あ」  立てない。  鼻がひくつく。二人のあいだから、血とは違うにおいがした。 「小倉、なんだ、腰抜けちまったか」  嗄れた低い声。顔を上げると、血で汚れた大森が居た。 「あ……あの……」 「邪魔だ。……向こう行くぞ」 「ごめ……」  喉がヒクヒクと強張って、声がうまく出ない。 「よっこらしょ」  腕を取られても、身体に力が入らない。  大森はイオリの前にしゃがみ込むと、両腕で肩に担ぎ上げた。 「ったく、腰にくる」  大きな手が、腰をぽんぽんと柔らかく叩いた。口調の荒っぽさと裏腹に、不思議と落ち着く。 「どッこいしょ」  部屋へ入ると、イオリは床に下ろされた。床材の冷たさと固さが、イオリの熱と動揺をさましていく。  すこし、ざらついた床。  息を吐く。吐くことだけ考える。  勝手に息が戻ってくる。  ――瀬戸が、そうしろと言っていた。 「おお……もり、さん」 「悪ィな小倉。ベッドはアイツに使わせっからよ、床で寝とけ」 「大丈夫、です。あの……」  大森の手が、肩を叩いた。 「俺じゃなくて、ムサシに言え。…出来るだろ」  目を瞑り、くっと顎を引く。  イオリの仕草を見届けて、大森は立ち上がり部屋を出た。 『イオリ……は』 『ほら、これ噛んでろムサシ』 『マッサン、足押さえとけ』 『う、ぐ……ふうぅ!』 『おい、麻酔使わねえのか』 『あの程度、避けられなかった罰だ』  籠もった男達の声と、ソファが軋む音が聞こえてくる。  首に手を当てる。 「ムサシ……」  硬い首輪に、爪を立てる。  息を吐く。  いきをはく。 『ふううっ――‼』 『沁みるか』 『う、ぐっ』 『若、俺はあっち行ってくる』 『任せた』  ……どうして。  ……どうして、ムサシは。  ……どうして、僕は。  だめだ、その先は。  ――音楽でも聴いて、何か作業するといい、伊織君。  スマートフォンを取り出して、有線のイヤホンを耳にねじ込んだ。音が足りない。ボリュームを上げて、音で頭を満たす。  なんだっけ、これ。  追い立てるみたいな音、獣の叫び声。  ゲーム、の……  ボス戦、だった気がする。 「は……」  膝を擦り合わせ、身体を丸める。  ガシャガシャ叩きつけるような音に頭を揺さぶられながら、いつの間にか手が下半身にあった。

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