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6. ICONOCLAST/廃棄(6) ※暴力有り
「……なんで、刃物なんて持ってた」
青年の目から、ボロボロと涙が零れる。
「ころさない、で」
「そりゃあお前さん次第だな」
「……ボ、ク……しのう、と……思っで」
「ほぅ」
大森は顎を撫でた。
「親の借金か? お前の給料から引いてっから、取り立ては来ねえだろう」
「ち、が……ボク、さみ、しぐで」
大森が二郎を睨むと、開き掛けた口が閉じた。
他の男達も、口を閉じた。
しかし、全員の視線が青年の手足を捉えている。
「店…友達、でき……なくて、まかべさん……あえ、なくて」
背後の真壁は動かない。
「あんな、優しく、しで くれたの、に」
「それで、死のうと思ったのか」
「で、も。……朝、まがべさん…あんな、ふつーの、おとこ…」
「お前が刺した男か。俺達も大体一緒じゃねえか」
「あれは、アンタ達と違うぅ……う、ぐ――ひぐっ」
青年が呻いた。
「ボクの方が……ボクの……ほうが…ちゃんど……」
「ぁあ? 誰と比べてンだ、お前は」
「ま、真壁さんと…一緒に、いだ……メガネ、のぉ」
大森は眉間に皺を寄せ、それを親指で揉んだ。
「刃物は、手前で用意したのか」
床に顔を擦りつけるように、青年が頷く。
「……なんかヤク決めてんのか」
「しない、そんなッ……」
今度は、首が横に動いた。
「……ったく、うちの若頭は」
遠く、ライターの音がした。
終わっていい、そういう意味だと大森は捉えた。
「……どうする、若」
真壁が煙を吐いた。
「海外の、系列店だな」
まるで、週末の予定を決めるかのような淡泊な声色。
「……船でいいか」
「ああ」
商談のような緊張感すら、真壁には無い。
「指はどうする」
「そのままだな」
大森が顎で指示する。二郎がまた青年の髪を引っ張った。
その口元へ親指を突っ込む。
唇を歪ませると綺麗に並んだ白い歯が覗いた。
「歯は」
「要らねぇ」
「わかった」
朦朧としていた目が、俄に焦点を結んだ。
「……真壁、さん」
「動くんじゃねえカマ野郎!」
「真壁さん……真壁さん!」
「クソッ!」
ご きゃ。
真壁の方へ伸びる細腕が、妙な方向に捩れた。
二郎は肩口に触れていない。
「あ゙っ……ああ、あっ! まかべさん、まがべさんっ」
「二郎」
青年の顔面に、大森の拳がめり込む。
「あぎゃっ あ」
「っと、悪ィ」
軟骨の手応え。
そのまま青年の襟を掴み、首を締め上げる。
「は、あがっ あっ ぐ」
青年の手足から力が抜けるまで、大森は首を締め上げ続けた。
「……――はぁ」
痙攣し、意識を失った青年から手を離し、大森は肩を回した。
「向こうでは毎日若頭宛に報告上げさせろ。それと、今回の迷惑料、こいつの借金に乗せとけ」
大森の独断だが、真壁は何も言わなかった。
「外貨の方が、実入りがいい」
「そうかね、俺にゃあわからんが」
組の男が、濡れた手拭いを大森へ差し出した。
顔と手を拭く。
真壁は室内へ入らない。
「海の向こうから、俺宛に報告なぁ……」
「それぐらい我慢しろ、若」
「マッサン、まーだ俺のことカシラって呼んでくれねえのか」
「……十年早えな」
「ハッ」
「マッサーン」
二郎の声に大森は振り向いた。青年が足を持って、奥へと引き摺られていく。
赤黒い汚れだけが、残された。
「おーう」
「俺達でここは片付けとくンで!」
「……いや、俺も掃除するわ」
大森は首をコキ、と鳴らしながら、バケツの方へと進んだ。
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