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第14話 旅路
旅立ちの朝。
がらん、とした室内を見ると少しだが寂しさを覚える。
ニルスとアマンダがこの家を管理する、と言うのでふたりにすべてを託すことにした。
はっきりとした旅の目的があるわけではないし、ここに戻るともわからない。
俺は荷物を抱え、誰もいない部屋に別れを告げる。
「さようなら」
そして俺は、家を出て鍵をかけた。
目の前の通りでは、サーシャが旅の準備をしていた。
この旅のために俺は黒い馬と荷車を購入した。荷物を運びやすくするためだ。
どれほどの旅になるかもわからないし、旅に慣れていない自分の状況を考えたらサーシャの足手まといにならないようにするためにも必要な経費だと考えたからだ。
荷車にのったクロハが、馬を見つめて首を傾げている。
「友だち?」
「たぶん違うよ」
そう、サーシャが笑って答える。
馬は真っ黒な黒い毛並みで、確かにクロハに似ているかもしれない。
ふたりと二匹。面白い旅になりそうだな。
夜明けすぐだというのに、アマンダとニルスが見送りに来てくれた。
六月の初め。
心地よい陽気で、旅にはもってこいだろう。
「カミルさん、お気をつけて」
アマンダが、心配げな声で言い、胸の前で手を組む。祈りをささげるかのように。
「ありがとう、アマンダ」
「先生、これ、御守りです!」
涙ぐむニルスが、俺にペンダントを差し出してくる。
それは六角形の星がついたペンダントだった。わずかに魔力を感じる。
「ありがとう、ニルス」
「ご無事でいてくださいね」
そう涙声で言い、ニルスは腕で涙を拭う。
ふたりの悲しげな姿を見ると少し心が痛くなる。
けれど今、俺がここにいるのは危険だろう。
アルファとかオメガとか、まだわからないことが多すぎる。
この第二の性について知るためにも俺は、旅に出ないといけない。
ふたりに別れを告げ、俺はサーシャの方を振り返る。
「サーシャ、行きましょう」
「えぇ。おふたりとも、お世話になりました。お元気で!」
そうサーシャは元気よく告げ、頭を下げた。
「サーシャさんもお元気で」
溢れる涙を拭いながら言うニルスに俺は背を向ける。
サーシャは馬の手綱を持つ、馬の頭を撫でた。
クロハは荷車に乗り、楽しそうに尻尾を振っている。
俺がサーシャの背後に立つと、彼は馬の手綱をひいて歩き出した。
朝焼けの町。
目覚めたばかりの町のあちこちの煙突から煙が昇り始め、美味しそうな匂いが漂ってくる。
俺はぐっと、拳を握りしめて通りを歩く。
振り返ったら決意が揺らぎそうで怖くて、俺はまっすぐ正面を見つめ、地面を踏みしめた。
すぐに街の外に出るための門へとたどりつく。
衛兵の軽い検査を受けて町を出た。
寂しさはある。当たり前だ。この町は俺が生まれ育った町なのだから。
けれど期待もあった。俺の知らない世界が門の外には確実にある。
オメガやベータ。勇者たちの伝説。
そして、サーシャ。彼はいったいなんなのか?
アルファ? それとも……
今は何の匂いも感じない。気のせい、ということはないと思うけれど、彼が何なのかこの旅でわかるだろうか。
俺は自分の手のひらをじっと見る。
俺はこの力の秘密を、サーシャに告げる日が来るのだろうか?
街道を歩いていると新しい発見が多くあった。
街道の途中で、ぽつぽつと小さな集落があり、休憩できる場所が点在していた。
「昔はモンスターが現れるため危険でしたが、今はそんな心配がなくなりましたからね」
途中、小さな喫茶店で休んだ時、店主がそう教えてくれた。
「魔王がいた頃はモンスターがどこにでも現れたそうですからね」
そうサーシャが言うと、店主は大きく頷く。
「そうなんですよ。俺もじい様から聞きましたけど、よく家畜や人が襲われて大変だったって」
そんな時代があったのは俺も知識としては知っている。
今、モンスターは奈落にしかおらず、地上は平和そのものだ。
だから誰もが勇者に感謝し、彼らの偉業をたたえるという。
その血縁者が自分、だと思うとなんだか居心地の悪さを感じた。
休憩を挟みつつ進んだものの、俺の脚は早々に限界を迎えた。
さほど歩いたわけではないと思うのに、ふくらはぎや爪先、足裏に痛みが走り息も切れる。
「カミルさん、荷台に座る場所、ありますから乗ってください」
辛そうなのが顔に出ていたのだろう。
サーシャにそう提案されて俺は自分に情けなさを感じつつ、その言葉に甘えることにした。
彼の言う通り、荷台には人ひとり座れるだけの空きがあり、丸めた毛布やクッションが置かれていた。
最初からこうなるとわかっていた、ということだろう。
サーシャはそういう気が回る男らしい。
俺にはこんな考え、全くなかった。歩いて旅するのなんて普通の事だと思っていたのに。
荷台に乗ると、そうそうにクロハが近づき俺の膝にのっかってきた。
「カミル! 一緒!」
と、嬉しそうに尻尾を振った。
「カミルいい匂い、カミル、匂い好き!」
と、嬉しそうに言う。
「匂い?」
不思議に思いつつ、俺はクロハの頭を撫でた。
「うん、匂い、いい匂い!」
そうクロハは繰り返すと、満足したのか俺の膝の上で丸くなった。
そんな、特別何か匂いがするようなものは身に着けていないと思うけれど。
何となく違和感を覚えつつ、俺は大きな欠伸をするクロハの身体を撫でた。
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