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第21話 カミルとサーシャ
目が覚めると、そこにサーシャはいなかった。
かなり身体は楽だが、それでもまだ奥が熱い。
喉の渇きを覚えて身体を起こすと、自分が裸であることに気が付く。
あぁ、やってしまった。
昨日の事を思い出し、俺は唇を噛む。確かに残る、彼の感触。身体を貫かれたあの快楽を、確実に覚えている。
本能に抗えない。あんな感覚は初めてだ。
居心地の悪さを感じつつ立ち上がり、服を着て水道へと向かおうとする。そのとき、ベッド横の台にメモが置いてあることに気がついた。
その紙は、サーシャからの手紙だった。
『昨夜は申し訳なかったです。途中から訳が分からなくなってしまいました。思わず貴方に噛み付こうとして、でも貴方に止められてハッとしました。別の部屋で寝ます。アルファとかオメガについて調べて、貴方と向き合えるようにいたします。……俺は、無知すぎました。サーシャ』
と、書かれていた。
噛み付こうとした。
という言葉を見て、血の気がひく音が響く。
俺の指先がふるふると、と小さく震えてしまう。
たしか、アルファにうなじを噛まれたら番の契約が成立して、離れなくなってしまうはずだ。
俺は、おそるおそる首に触れる。
とりあえず噛まれた形跡はないようだ。
よかった。
でも……これでよかったのか?
そう思って俺は窓へと目を向ける。
サーシャと関係を持ってしまった。
俺はサーシャにそんな感情は……いや、自分でもよくわからない。
サーシャは俺を助けてくれた。
恩を感じているが、それ以上の感情はないと思う。
俺は自分の額に手をやる。
俺がオメガでなければ、サーシャとこんな関係にはならなかった。そう思うと苦しさを覚える。
アルファとオメガ。割り切れれば楽なのに。昨日の夜、俺は彼と関係を持っても平気だった。
けれど朝を迎えて少し平静になると、とんでもない事をしてしまったのではと、罪悪感が心を支配する。
サーシャも同じだから今ここにいないんだろうな。
だから俺に何も言わず、別の部屋をとったに違いない。
「サーシャ……」
名前を呟くと、それだけで胸にズキン、と痛みが走る。
これは、この感情は何なんだ。
サーシャがアルファだから? それとも……
わからない。自分の感情が。
俺は顔をしかめ、ふらふらと室内にある水道へと向かっていった。
夜になると、再び俺は熱情に襲われた。
「ふ、あ……」
発情期は一週間続く。
オメガの知識が少ない俺には、この熱情の処理の仕方がわからない。
「サーシャ……」
名前を呼び、布団を頭まで被る。
辛い。
「う、あぁ……」
中が熱い。こんなの、ひとりで耐えられるわけがない。
知識のない人間が、オメガを疎ましく思うのは当然だろう。
はたから見て、なんだかわけのわからない発作を起こすのだから。
「ひ、あ……あぁ……」
俺はひとり、うちから生まれる欲望に耐えようとした。
「カミル、さん……」
聞こえてほしくない声が聞こえる。
なんで、彼がここにいる?
いてはいけないのに。
「クロハが……クロハが必死にカミルさんに会いにいけと言って……」
情けない声で、サーシャが告げる。
あの獣のせいか。
クロハはいったい何者なのか。アルファやオメガに何か関係があるのか?
余計なことを、という思いと、ありがたい想いが俺の中で交錯する。
「あの、アルファとオメガについて調べました。発情期についても……それ、抱けば楽になるんですよね」
たぶんそうだ。
文献にはそんな話があったと思う。
「カミルさん……うなじを噛んではいけないこともわかったので……あの……首を守るものを用意しました」
首を守るもの?
何かと思い、俺は布団から顔を出す。
すると、サーシャは俺の首に何かを巻いた。
それは、革のベルトのようだった。
首の後ろに手を当てると、その部分は金属になっているようだ。
わざわざこんなものを用意したのか。
望まない形で番にならないように。
その優しさに、嬉しさとわずかな痛みを覚える。
「サーシャさん……」
「貴方が苦しむのは見たくないです。あの、カミルさん、抱いても、いいですか?」
遠慮がちに尋ねるサーシャに、俺は頷き答えた。
どこまでもこの男はまじめで……その事実が俺の心にずしり、と重りのように静かに沈んでいった。
発情期の乗り越え方なんて知らない俺は、夜になるとサーシャと身体を重ねた。
それが正しいのか、間違いなのか何もわからない。
でも――
俺もサーシャも自分から求めあったし、嫌な感情は何もなかったと思う。
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