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第23話 オメガとの出会い

 宿を出ると、人通りがとても多かった。  この中にアルファやオメガはいるのだろうか。  そう思い俺は足を止めて辺りを見回す。  オメガ同士、アルファ同士も匂いでわかるのか。  見た目じゃわからないし、これだけ人が多いとたとえ匂いがしたとしてわからないか。  そう思い歩き始めたときだった。  匂いがした。  サーシャとは違う種類の、甘い匂い。  かなり強い匂いだ。  ハッとして辺りを見回すと、苦しげな顔で俯き、ふらふらと路地裏に入ろうとする金髪の少年の姿に気が付いた。  あの子だ。そう直感し、俺は人の波をかき分け彼に近づいた。  視界から少年が消える。  慌てていると、少年が地面にしゃがみ込んでいるのにが見えた。  よかった。倒れたり連れ込まれたりはしていないらしい。  少年は、肩で息をして苦しそうだ。  なのに行き交う人たちは、皆見えていないように通り過ぎていく。  そのことに小さな怒りを覚えながら、俺は少年に歩み寄って声をかけた。 「俺は医師です、大丈夫ですか?」  彼の横にしゃがむと、少年はビクッ、と大きく震えてこちらを見た。  怯えている。  目を大きく見開き、俺をじっと見つめる。 「い……あ……え……?」  怯えの色が、驚きの色へと変わっていく。 「医師……う、あぁ……」  そううめき、少年は俯き身体を丸めた。  発情期だ。  甘い匂いが一段と濃くなっていく。  どうする。  このまま放っておいたら、襲われるんじゃないだろうか。 「俺の宿がそこにあります。そこへ行きましょう」  そう提案すると、彼はゆっくりとこちらを見て怯えた顔で首を横にふるふると振った。 「宿……やだ、痛いのは……いや……」 「俺は医師だ。大丈夫、痛いことはしないから」  そう目を見つめて言うが、聞こえた気がしない。  少年は喘ぎながら首を横に振り続けている。  俺はそんな少年を抱きかかえ、宿へと戻っていった。  部屋のベッドに少年を寝かせると、人目も憚らず服を脱ぎ始める。  内心驚きつつ観察していると、彼は服を床に脱ぎ捨てて、あっという間に裸になってしまった。  朱色に染まった肌。  先ほどまで怯えた目をしていたのに、今は欲に染まり、うっとりとした顔をしている。 「大丈夫……」  そう声をかける間もなく、彼はベッドの上で足を開き、自分の股間に手を伸ばした。  何が起きているのかすぐに悟り、俺は彼から目をそらす。  まさか目の前で自慰を始めるとは思わなかった。  あのまま放っておいたら人目もはばからずこんなこと始めかねなかったのか?  そう思うと恐怖に身の毛がよだつ。  だって……俺もこうなりかねないから。  理性が本能に飲み込まれるとこうなってしまうのか。  小さく震えながらも、発情期のオメガが何をするのか、という好奇心には勝てず少年へと目を向けた。  少年は音をたてて自慰を繰り返し、よだれと涙で顔がぐちゃぐちゃになっていく。  匂いもすごい。  甘い匂いが部屋中に漂っているようだった。  さほど長い時間だったとは思えないが、数時間とも思われる時間が経った頃、満足したのか少年は荒い息を繰り返して、ベッドに伏した。  シーツが精液や愛液で汚れているのがわかる。  これはさすがにきれいにしないとだが……骨がおれそうだ。  そう思いつつ俺は少年に近付き声をかけた。 「大丈夫ですか?」 「……ん……あ……あれ?」  少年は驚いたような声をあげたあと、ゆっくりと身体を起こしてこちらを見やる。  年の頃は十代後半くらいか。  あどけなさの残る、可愛らしい少年だった。 「貴方は……」 「俺は医師のカミルといいます。町中で貴方が苦しげにしていたので俺が使っている宿に連れて帰ってきました」 「あ……すみません……ありがとうございます」  少年は申し訳なさそうにベッドに座り込み、頭を下げる。  そこで初めて気がついたが、彼の首にはチョーカーが巻かれていた。  俺がサーシャにもらった、後ろが金属になっているやつだ。  誰かにつけられたのか。それとも自分でつけているのか。 「失礼ですが、オメガ、ですか?」 「あ、はい……あの、発情期、いつもより早く来たみたいで……油断してました」  そう辛そうに語る。 「襲われたりするから、発情期が来そうなときは引きこもるんですけど……」  言いながら彼はぶるぶると震えた。  俺が彼をここにつれてこようとした時怯えていたっけ。  ということは……  考えると、俺がノエルにされた事を思い出してしまい、心が痛くなった。 「ベータにホテルに連れ込まれたことあって……またかと思いましたけど……貴方もオメガ、ですよね?」  おそるおそる、という様子で少年が言う。  わかっている事実なのに、人に指摘されるとなんだか複雑な気持ちになってしまい、否定の言葉が出かけてしまった。  その言葉を飲み込み、俺は一拍おいて小さく頷く。 「わかるんですか?」 「はい、あの……匂い、するし。貴方も分かりますよね?」  少年はなんだか嬉しげだった。  わかる。  わかりたくはないが、わかってしまう。  オメガはオメガがわかるということが。 「ええ……わかります」  諦めの気持ちと好奇心の気持ちがないまぜになりながら頷き答えると、少年はほっとしたような顔になった。 「よかった……俺、売られたりとかしないですよね」  内容の割に明るい声で少年が言い、俺は何を言っているのかと少年を見つめた。  冗談を言っている様子はない。 「売られる……?」 「あれ、知らないんですか? オメガは数が少ないから、金で取引されたりするそうです。アルファが買ったり、ベータが興味本位で囲うこともあると……」  少年が語った話に総毛立った。  そんなの考えもしなかった。  そうか、女性が売られ、売春婦をさせられることがあるように、オメガも……  考えるだけで吐き気がしてくる。 「初めて知りました」 「あぁ、そうなんですね。俺より年上みたいですけど……そういう世界とは縁、なかったんですね、うらやましいな」  そんな苦しい現実があると、資料や教科書は教えてくれなかった。  気をつけるにしても、発情していたら逃げるのは難しいだろう。  オメガが生きるのはそんなにも厳しいのか。  思わず身体が震えた。 「家に帰れば薬あるから……俺、帰ります。しばらくは大丈夫なはずだし」  と言い、彼は頭を下げて服を着始める。  薬、あるのか?  自慰だけでも落ち着くのか?  いろんな疑問が頭をよぎるが、出た言葉は違っていた。 「送りましょうか?」 「いいえ、大丈夫です。そんなに迷惑かけられませんし。あ、俺はユーマといいます、助けていただきありがとうございました」  服を着た少年、ユーマは打って変わって明るい表情で頭を下げ、扉へと向かっていった。

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