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第24話 嫉妬?

 ユーマが去り、俺は部屋を見渡していま起きたことを反芻する。  室内にはまだ、オメガの匂いが漂い精液の匂いも強い。  俺もこんな匂いを発していたのか。  サーシャが戻ったらこの匂い、わかるのだろうか。  そう思うとなんだか嫌な気がして、俺は窓を開けシーツやベッドに清浄の魔法をかけた。  とりあえず匂いの元をたてば大丈夫だろう。  あとは……なんとなく気分的には嫌だから宿の者に伝えてシーツを変えてもらおう。  俺は部屋を出て、受付へと向かった。  結局、その日、俺は外出を諦めた。  ユーマとの出会いの衝撃で、出かける気がすっかり失せてしまったからだ。  窓を開けっ放しにして、俺は椅子に腰かけて今日あったことをノートに書き込む。  あの少年、住んでいる場所とかを聞かなかったが、また会うことがあるだろうか。  できればもう少し話を聞きたいが。  そう思い、俺はペンを顎に当ててノートを見つめる。 「アルファとオメガ……医学を学んだ時は他人ごとだと思っていたのに」  そうひとりごちる。  窓から入る風が、部屋を浄化していくがなんだかよどんだ空気が漂っているような感じがして気が重かった。  それは俺の気分がそうさせているんだろうな。  こういう時、どう気分を変えたらいいのか俺にはわからなかった。  日が傾き始めた頃、ガチャガチャと鍵を開く音がし、サーシャが帰って来たことを悟る。 「カミル、カミル!」  クロハが楽しそうに俺の名前を呼びこちらに近づいてきたが、急にぴたり、と足を止めてきょろきょろと辺りを見回し始めた。 「カミルさん戻りました……あれ?」  クロハに続いてこちらにやってきたサーシャも、いぶかしげに辺りを見回す。  もしかして、ユーマがいた匂いが残っている?  俺には感じないが……  なぜかひやひやしながら俺はふたりの様子を伺う。  クロハは不思議そうに首を傾げ、俺を見上げて言った。 「カミルじゃない匂いする」  お前は獣だからわかるんだろうな。  けれどサーシャはどうなんだろう。  俺が感じない匂い、わかるのか?  サーシャを観察すると、ユーマが使ったベッドの方へと視線を向けた。  シーツを変えたのに、わかるのか?  いったいどんな匂いを感じているんだ。  オメガの匂いを認識しているのか。それとも、もっと大雑把なものなのか。 「あの……カミルさん。誰かこの部屋に来たんですか?」  妙に低い声で言い、彼はベッドから俺へと視線を向ける。  なんだかその視線が怖かった。  怒っている?  正直怒られる理由はないと思うが。 「えぇ。出かけたのですが、途中で急病人と出会って、こちらに連れてきました」 「あぁ……そういうことですか」  俺の答えにサーシャはほっとしたらしい。  そしてしばらく沈黙した後、なぜか驚いたような顔をして言った。 「すみません。あの……匂いを嗅いだらなんだか……変な気持ちになってしまって。おかしいですね。なんだろうこの感覚……」  と言い、サーシャは腕を組み悩み始めた。  サーシャはアルファらしくない。  いや、抱かれた時は支配的になる瞬間があったからたぶん、そういう部分はちゃんと持っているだろう。  けれど普段は程遠い。  アルファにも、オメガの発情のように本能が爆発するようなことがあるのだろうか。  ノエルは常に本能で動いていたように思うが。  ……ノエルの父親である伯爵は、理性の人に見えたな。  これはただの個人差か。  サーシャはしばらく考え込んだ後、あぁ、と呟き恥ずかしげに笑う。 「子供の頃、気になっていた子が、別の子と仲良さそうにしていたのを見て感じた感覚に似ていますね」  それは……嫉妬、だろう。  そんな言葉も出てこないほど、サーシャは純粋なのか。  俺は苦笑をし、 「何ですかそれは」  とだけ言う。  するとサーシャはクロハを抱き上げて言った。 「俺もよくわからないです。ただ、部屋に入ってすぐ匂いがして……カミルさんのものじゃないし、なんだか不愉快に思って。それがあの時に感じた感情に似ているんですよね。俺もそれが何だかよくわからないんですけど」  と言い、小さく首を傾げる。  一瞬見せたあれは、アルファの執着だろうな。  サーシャも本能と理性の間で揺れ動き続けているようにみえる。 「アルファの特性ですかね」  そう俺が言うと、サーシャは肩をすくめた。 「それでくくっていいのかと思いますけど。でも大丈夫です。すみません、さっきの俺、怖かったですよね」  俺の様子を伺うように言うサーシャ。  アルファらしくない。  ノエルと違いすぎる。 「そうですね、少し驚きましたけど大丈夫です」  そう俺が答えると、そうですよね、と恥ずかしそうにサーシャは俯いた。  その日の夜。  サーシャは別の部屋で寝ると言い出した。 「もう発情期は終わりましたし、大丈夫ですよ?」  その提案に、サーシャは目を泳がせてしまう。 「そう、なのかもしれませんが……あの、俺……」  そう呟きサーシャは自分の手のひらを見つめる。  どうしたのだろう。わずかに震えているようにも見える。 「あの……俺、怖いんです。自分が。なんだか変わっていく感じがして。発情した貴方を見たとき心の底から心配したのに、気がついたら」  そしてサーシャは首を横に振る。 「貴方を支配したい、と思い始めてしまって。そんなことを考える自分が怖いんです」  苦しげに言い、サーシャは見つめていた手のひらをぎゅっと握りしめた。  あぁ、そういうことか。 「それはアルファの本能ですよ。アルファは支配欲や執着心が強いですからね」 「ええ、それは本で調べました。でも……そんな自分がおそろしく感じるんです。このままでいたらカミルさんを傷つけてしまいそうで」  俺はそこまで考えていなかったから、サーシャの言葉に少し驚く。  アルファとオメガの差、だろうか。  オメガが発情していなくても、アルファはオメガを抱きたいと思うのだろうか?  そんな話まで本には書かれていなかったしな…… 「俺は大丈夫ですが……そうですね。それなら別の部屋で構いませんよ。お金がもったいないように思いますけど大丈夫ですか?」  なにせ長い旅路になるかもしれないわけだから、あまり金を使う様なことはしたくなかった。  いざとなればどこかの病院で雇ってもらえばいいが、短期間だけ、というわけにもいかないだろうし。  するとサーシャは頷き答えた。 「大丈夫です。奈落でだいぶ稼ぎましたし。少なくなったら俺はなんでもできますからね」  と言い、クロハを抱き締めて笑みを浮かべた。 「なので別の部屋で寝ます。次の発情は先、ですよね。今後はそれを考慮して行動しましょう」 「あぁ、そうですね」  今日見たユーマの発情を思い出すと、確かに発情期のことを考えて行動しないと危ないなと悟る。  本当にやっかいな性だな。  そう思い俺は心の中で息をついた。

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