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第25話 観光

 翌日。 「カミルさん。出かけませんか?」  と、サーシャが提案してきた。 「出かける……?」 「えぇ。せっかく来たのに全然観光をしてないですし、引きこもってばかりだから。昨日色々調べてきたんですよ!」  と言い、彼は本を見せてきた。  それはいわゆる観光ガイドの本だった。  王都の見どころが書かれているもので、毎年新しいものが発行されているはずだ。  王都の観光か。  考えたこともなかったな。  気分転換にはいいかもしれない。  そう思い俺はサーシャの提案を受け入れた。  すると彼は、安心した様な顔になり、 「いろいろ観に行きましょうね!」  と、冊子を抱えて無邪気に笑った。  一週間以上、王都に滞在することになってしまい俺はすこし気に病んでいた。  ノエルは追っ手を差し向けたりしていないだろうか?  という懸念と、離れれば伴侶にだけ意識を向けるんじゃないか、という淡い期待との間で揺れ動く。  サーシャと共に外に出て、俺はふと振り返る。  本人が追いかけてくることはないだろう。  ノエルなら金で人を雇って俺を捜しに来るくらいやるかもしれない。  そんな俺の異変に気がついたらしいサーシャは、不思議そうな顔をして俺を見つめた。 「カミルさん、大丈夫ですか?」  その声に俺は笑顔を張り付けて首を横に振る。 「あ、はい、大丈夫です。それでどこに行きますか?」 「そうでうねぇ。カミルさん、賑やかなところと静かなところならどちらが好きですか?」  言いながら、サーシャは冊子を開いた。  そんなの決まっている。 「静かなところの方が好きですね」 「わかりました。じゃあ、えーと、こっちに行きましょう!」  と言い、俺の腕を掴みずんずんと歩き出した。 「え? あ……」  なぜだ、捕まれた腕が熱く感じるしなんだか恥ずかしさも覚えてしまう。  途中、馬車に乗り移動して着いた先は、海が見える公園だった。  人の数はさほど多くなく、海風が心地いい。  遠くに浮かぶ帆船が、ゆっくりと航行していく。 「町にいたとき、奈落に潜ってばかりで海、みなかったなと思いまして」  そうはにかんで言い、サーシャは木の柵に身体を預け、海を見つめた。  俺が生まれ育った町には海があったが、うちは山側であったし子供の頃以来、海には近づいていなかった。 「確かに海は有りますけど少し遠いですからね。奈落があるのは山の方ですし」 「そうなんですよね。俺がいたリデューは海がなくて、だから海ってちょっと特別なんです。旅をするようになって、最初海を見たときは感動したんですよねぇ」  と言い、サーシャは目を細めた。  海でそんなに感動するのか、と思うと不思議な感覚だった。 「船の旅も考えたんですけど、それだと色んな国に立ち寄れないから諦めたんですよね」 「勇者の伝説、何かわかったことはあるんですか?」  俺が発情期で引きこもっていた一週間、なにもオメガバースについてだけ調べていたわけじゃないだろう。  サーシャの主な目的は、治癒魔法を探すことなのだかr。  俺の問に、サーシャは頭に手をやり苦笑を浮かべる。 「新しいことは何も。勇者は結婚しなかったようで血縁者がいないようなんですよね。あとひとり、魔法使いがいたはずですが、エルフなので探すのが困難で」  魔法使いのエルフ、リュート、だったと思う。  エルフにはエルフだけの村があるらしいが、エルフは基本人を嫌う。  なので行ったとしてもあってもらえる可能性は低いかもしれない。 「最後の目撃場所が、ここから二週間ほど離れたユリシールとのことなので、そこに向かおうかと思います」 「ユリシール、ですか?」  その国は、大陸の中央にある大きな国だ。  北側には山と、深い森がありそこに魔王の居城があったとされる。  そして、奈落がある場所とされていた。  大きな国だし、そこでオメガバースのこと、詳しく研究がされているかもしれない。 「わかりました。いつ旅立ちますか?」 「あ……えーと……」  と、サーシャは言い淀む。  なんだろう。 「あの、カミルさん、身体は大丈夫ですかね。その……俺にはよくわからないから」  遠慮がちに言うサーシャ。  もしかして発情期の事を気にしているのだろうか。 「二週間ですよね。それなら大丈夫ですよ」 「なるべく宿で寝られるようにしますが……野宿もあり得るので」  そう、申し訳なさそうに言う。  そんなことまで気にしているのか。  野宿なんてしたことはないので想像ができないが、いったい何が気になるんだろうか。  俺は小さく頷き答えて。 「気にならないですよ。だって、サーシャさんが一緒なのでしょう?」  そう俺が言うと、彼は目を丸くしたあとなぜか下を俯いてしまった。  顔が紅くなったようにみえたが気のせいだろうか。  そもそもサーシャの肌は褐色だからな……  気のせいかも知れない。 「エルフは興味があります。あったことないですし」 「あ……あぁ、そうですね。あの、エルフは人間が嫌いだと聞きますから会えるかはわかりませんが……」  それはそうだな。  エルフは人間より長い寿命をもつ。  故に非常に数が少ないと言われている。  彼らにもオメガバースがあるのだろうか。  今のところ人間にしか聞かないし、文献を読んでも人間の話しか出てこないからな。  ノエルの執着心の理由、なにかわかればいいが。  そのあと、町中にある劇場で芝居をみて大いに笑った。  サーシャのお陰で気持ちが晴れたように思う。

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