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第32話 治療

 とりあえず人払いはできた。  俺は意識のない女性に近づき、怪我の様子を確認した。  頭に包帯が巻かれているが、血が滲んできている。  彼女の隣では、その手を握るローブをまとった青年。  必死に名前を呼んでいるが、目を覚ます様子はない。  彼女からは死の匂いがした。  これは長くもたないだろう。  青年が俺に気が付く。  涙にぬれてぐちゃぐちゃな顔で俺を見つめ、怪訝な表情を浮かべた。 「あんたは……」 「医術師です……ちょっといいですか」  そう青年に声をかけた後、俺は彼女の頭の方に周り、包帯に触れた。 「医術……助けてくれ! 俺をかばったばかりにこいつは……!」  という、悲痛な叫びが聞こえてくる。 『治癒魔法があったら、仲間たちは死なずに済んだのか?』  そんなサーシャの言葉を思い出す。  魔法があれば死なずにはすんだかもしれない。その代償は大きいが。  俺は包帯をはずし、頭に手を触れる。  口の中で小さく呪文を唱えると、そこがじわりと熱くなった。  事故の規模からして、重傷者は十数人というところだろうか。  いったいどれほど俺の命が削れるか。  それでも見捨てられないのは、俺の医術師としてのさが、だろうか。  しばらくすると、女性の口から呻き声が聞こえた。 「……サラ? サラ!」 「……う……あ……」 「よかったぁ……」  そんな涙声を聞きながら、俺は次のけが人に近づく。  そのけが人は意識はあるものの虫の息だった。  腹から血が流れている。  治癒魔法を使っている間にも患者は運び込まれ、数が増えていく。  こんなに治癒魔法を使うのは初めてで、さすがに五人を超えると目が回ってくる。  それでも俺は魔法を使い、重傷者たちを癒していった。 「なんで……?」  傷が完全に癒え、困惑するけが人もいたが俺はそれを無視してけが人を周る。 「おい、最後のけが人だ!」  そんな声が聞こえ、俺は振り返った。 「山崩れに気が付いて皆を逃がして……それで逃げ遅れたらしい。生き埋めになっていた」  という声が聞こえてくる。  嫌な予感がした。  それは直感のようなものだった。  十一人目の重傷者として運び込まれてきたのは、この辺りでは見かけない、黒い髪に褐色の肌の青年――サーシャだった。  心臓が止まるような気がした。 「サーシャ……」  思わず叫びそうになるのをぐっとこらえ、俺は最後の患者……サーシャに近付く。 「見ない顔だが……あんた、医術師なのか? こいつは大丈夫なのか?」  と、兵士が話しかけてくる。  見たところ、足から血が流れている。  生き埋めになっていた、ということは内臓がやられているかもしれない。  俺は彼に触れて怪我の様子を確認する。  右足の骨折。思った通り、内臓が潰れ肋骨も折れているようだった。  大丈夫じゃない。  放っておけば死ぬだろう。  嫌だ。そんなのは。 「大丈夫ですよ」  そう、俺は淡々と答え、サーシャに触れて呪文を唱える。  腹を、胸を癒した後、折れた足に魔法を使う。  さすがに視界がぼんやりしてきた。これは一日寝込むだけでは回復しないだろうな。  十一人に魔法を使い、俺の命はどれほど削れたのか。  ――父も祖父も、同じ思いだったんだろうな。  自分の命を代償に、いくつもの命を救うことができる。  そしてその先にいる何人もの心も救える。  どれほど時間が経っただろうか。  呻き声が響いた。 「う……あ……」 「サーシャ?」  霞む視界に、サーシャの顔が映る。 「カミル……さん? 俺……」  まだ喋るな。  そう言いたいのに口が動かない。  よかった。  とりあえずサーシャを救うことができた。  ほっとしたからだろうか。  俺はそのまま、サーシャの身体にかぶさるように意識を失った。  こんな魔法、なくなればいいと思っているのに。結局俺は治癒魔法を使ってしまった。  自分の寿命と引き換えに。  でも……助ける手段を持ちながら、人が死んでいくのを待つ何てできるわけがない。  ひとりを救えば、その周りの人も救うことになる。  今回俺が魔法で救った人たちの仲間は、何度も感謝の言葉を口にしていた。  そんなの聞いているどころじゃなかったが。  達成感とかそんなものはない。あるのは何だろう。  彼らが死ななくて良かった――

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